パリ・ナイフ襲撃、犯人はチェチェン共和国出身のフランス人
パリ中心部で12日夜にナイフを持った男が通行人を襲撃し、1人が死亡、4人が負傷した事件で、消息筋は13日、容疑者がロシア・チェチェン共和国生まれのフランス人だったと明らかにした。
報道によると、ハムザト・アシモフ容疑者は1997年生まれ。消息筋によると、フランスの安全を脅かす人物として監視対象となっていた。容疑者は現場で警察官に射殺された。
この事件については、イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」が犯行声明を出している。
エマニュエル・マクロン大統領はツイッターで「フランスは再び血の代償を払ったが、自由の敵に一歩たりとも譲るつもりはない」とツイートした。
検察の情報筋によると翌13日には、アシモフ容疑者の友人1人が事情聴取のため東部ストラスブールで拘束された。
フランスはかねてより、ISに感化された過激派によるテロの標的となっており、過去3年で230人が死亡している。
事件のあらまし
アシモフ容疑者は現地時間12日午後9時ごろ、通行人をナイフで刺しはじめた。
目撃者によると、犯人は若い男で、茶色の髪とあごひげを生やし、黒いジャージを着ていた。また、アラビア語で「「アッラーフ・アクバル(神は偉大なり)」と叫んでいたという。
犯人はバーやレストランなどに立ち入ろうとしたが、店内の人たちに阻まれた。
現場近くのレストランで働くジョナサンはAFP通信の取材に、「男がナイフを持っているのを見た。頭がおかしいように見えた」と答えた。
刺された女性が血を流しながらレストランに駆け込んできたという。アシモフ容疑者も続いて入ってこようとしたが、阻まれたため逃走した。
けが人のうち2人は重傷だが、命に別状はないという。
警察は当初、スタンガンでアシモフ容疑者を止めようとしたが、襲撃開始から9分後に射殺した。
犯人は?
容疑者は身分証明書を持っておらず、公式発表による身元特定はされていない。
情報筋によると、容疑者は国家の安全を脅かす可能性があるとして、特別の容疑がないまま監視対象となる「フィーシュS」に指定されていたという。
「フィーシュS」のリストにはイスラム過激派に加え、政治的な過激派、ギャング、サッカーのフーリガン(暴徒化したファン)などが含まれている。
2015年にバルス首相(当時)はこのリストに2万人が掲載されており、約半数がイスラム過激派との関連があると話していた。
現地メディアは、容疑者に前科はなく、両親が事情聴取を受けていると報じている。男は2010年にフランスに帰化したとみられている。
フランス国内でチェチェン共和国出身者がテロを起こしたのは今回が初めて。
フランスには現在、チェチェン共和国出身者が3万人ほど在住している。
犠牲者は?
ジェラール・コロン内相は、この事件で死亡したのは29歳の男性だと述べた。詳細は明かさなかった。
一方、けがをした4人の身元については公表されていない。AFPによると、34歳の男性と54歳の女性が重傷を負ったほか、26歳の女性と31歳の男性が軽傷だという。
中国メディアは、けが人のうち1人が中国籍だと報じている。
コロン内相によると、けが人はいずれも命に別状はない。
チェチェン共和国とISの関連は?
チェチェン共和国はロシア南部の北カフカス連邦管区に位置する。
1991年にソビエト連邦からの独立を宣言したが、ソ連も後のロシア政府もこれを認めず、1994年にはロシア軍が侵攻。10年にわたる紛争の場となった。
チェチェン共和国ではISを含む多くのイスラム過激派組織が活動している。
2013年のボストンマラソン爆弾テロ事件の犯人兄弟は、チェチェンとつながりがあった。トルコ政府は2016年にイスタンブールの空港で45人が死亡したテロ事件について、首謀者がチェチェン共和国のイスラム過激派だったとしている。
ISはチェチェン共和国で活発に戦闘員を集めており、数百人をシリアなどの紛争地帯に送り込んでいる。
BBCのサラ・レインズフォード・モスクワ特派員による2016年の取材では、こうした戦闘員がチェチェン共和国に戻りテロ攻撃に及ぶ恐れが明らかになった。
2007年にウラジーミル・プーチン露大統領に指名されて以降、チェチェン共和国の首長を務めるラムザン・カディロフ氏は、ISの戦闘員募集を阻止する政策を進めている。しかし人権擁護団体によると、カディロフ氏の政策は暴力的で、むしろ過激派の拡大を助けてしまっているという。