イノベーション、つまり新しい価値を創造することは、なんとなく「センスのある」「優れたクリエイターたち」の仕事だと思いこんでいないだろうか?
だが、「方法論さえ身につければ、イノベーションは誰にでもできる」と語るのは、『ザ・ファースト・ペンギンス 新しい価値を生む方法論』を刊行した、大阪ガス行動観察研究所所長の松波晴人氏だ。
あなたのビジネスや思考を大きく変える「方法論」を伝授してもらおう。
──『ザ・ファースト・ペンギンス 新しい価値を生み出す方法論』は、松波さんが学生や企業人を対象に行っているセミナー「フォーサイト・スクール(Foresight school)」のカリキュラムを、物語形式で分かりやすく提示したものですね。
実際に、学生たちや企業の人たちを教えてみて、どんな感想を持たれましたか。そもそも、どんな人でも「新しい価値」を生み出すこと、つまりクリエイションは可能なのでしょうか。
松波: クリエイションというと、一部の優れたクリエイターの専売特許のようなものだと思われているかもしれませんが、そんなことはありません。誰にでも十分可能なことです。
たとえば「フォーサイト・スクール」を最初に実施した大阪大学には、関西では「非常に真面目で、よく勉強する人が集まっている」というイメージがあります。もともと大阪大学は理系学部が多かったこともあって、論理的思考が得意な人が多い、ということだと思います。
その後、外国語学部が加わったことや、「大阪の大学」ということもあって、もっと面白いことをできるだろうと私は考えていましたが、「すごくクリエイティブ」というイメージはこれまであまりなかったかもしれません。
そんな中、新たな価値を生む学校として「フォーサイト・スクール」を始めることになったのが2年前のことです。フォーサイトというのは、「未来への展望」という意味です。
新しい価値を生む人になろう、という形で告知を始めたのですが、集まったのは多種多様な学生のみなさんでした。学部の1年生もいれば、博士課程の人もいる。学部もバラバラです。「いずれは起業したい」という学生もいれば、「私はそういうセンスのない普通の人だけど、どういうものか興味がある」という学生まで、様々でした。
「観察をもとに新たな発想をできる人」の育成には3年はかかる、と言われているのですが、3ヵ月の授業とワークとプロジェクトの実践で、かなりのレベルでできるようになりました。みなさん、すごい能力の高さです。
──それは、カリキュラムに秘密があるのでしょうか?
松波:ちょっと手前味噌な話になってしまうんですが、これまで「アート」の一言ですまされていた、クリエイターやイノベーターと言われる人たちの思考プロセスを、適切に言語化・体系化できたからだと思います。
もともと私たちが「フォーサイト・スクール」を始めたきっかけは、「いまやどこの企業でも必要となっている『新価値創造』について、きちんとしたメソッドや理論がまだないよね」という課題認識でした。そこで、無謀にも自分たちで整理して創ってしまおうと考えたのです。
ただ「世界で初めて創りました」というわけではなく、クリエイティブ・シンキングやKJ法、U理論など、そもそもの考え方は既に存在していました。
書籍で紹介している「フォーサイト・クリエイション」という方法論に新規性があるとすれば、従来からの考え方を集め、整理し、統合することで「新価値創造のプロセス」と「重要な理論(8つの玉)」にまとめたことにあります。さらにもう一つ新規性があるとすれば、それは「プロセスを実践できるようになるトレーニング方法を整備した」という点だと思います。
フォーサイト・スクールに来ている学生から、最近聞いた話です。彼女は自分の研究室でも企業とコラボして新製品開発に取り組んでいます。その企業の社員や学生が新価値創造のワークショップをすると、「結局、みんな同じ答えになる」と言っていました。
フォーサイト・スクールと何が違うかというと、そのワークショップの進め方が「ロジカル・シンキング」を重要視している点にある、とのことでした。それも当然かもしれません。論理的であることを突き詰めると、必然的に「誰がやっても同じ答えになる」ということだと思います。
ただ、彼女はフォーサイト・スクールで学んでいたので、みんなとは違うオリジナリティのある案が出せた、と言っていました。