成馬零一(ライター、ドラマ評論家)
人気アイドルグループ、TOKIOの山口達也が起こした未成年に対する暴行未遂事件が尾を引いている。論点が多いため、性別、職業、社会的な立場によって事件に対する切り口がまったく違うものになってしまうのが、この問題の厄介なところだ。だから、意見を表明するのがとても難しい。
ここまで前置きしたのは、自分がどういう立場で書くのかを、まずはっきりさせたいと思ったからだ。結論から先に言うと、自分は山口達也に対してかなり同情的である。哀れで無様(ぶざま)だなぁと思うと同時に、いつ自分も「ああなるか分からない」という不安を感じている。
最初に事件の内容が報道されたときは、よくあるタイプの淫行事件かと思った。自分がおっさんだと気づかないまま年を取ったイケメン男性アイドルの「失墜劇」としてみると、逆『美女と野獣』とでも言うような顛末(てんまつ)だ。今まで散々いい思いをしてきたのだろうから、正直いい気味だ「ざまぁみろ」とすら思った。
しかし事件のディテールが分かってくるにつれて、こりゃ他人事(ひとごと)ではないなと思うようになった。
報道によれば、山口が未成年の女子高生を呼びつけた日は彼が病院から退院してきた日だったという。肝臓の治療だったということで、すぐにアルコール依存症だと思った。だとすれば、退院したその日に飲んでしまうということは、まったく治っていないということである。
何より、退院明けに酔っ払って呼び出すのが、未成年の女性だったということが哀しい。仮に山口がロリコンで、性欲の赴くままに未成年に手を出していたのなら、そういう事件だとため息をついて切り捨てられるのだが、普通にしていればいくらでもモテるだろう男性アイドルの行動としては、あまりにも幼稚なものに見えてしまう。
事件後の報道をみていると、山口は酒癖と女癖が悪くて有名だったというが、どちらも本当に好きな人の振る舞いには思えず、ある種の不安や恐怖からの逃避のために酒と女に逃げ込んでいたように筆者は感じた。
これは山口の年齢が46歳だというのも無関係ではないだろう。私はちょうどその頃、漫画『サルでも描けるまんが教室』(小学館)の原作などで知られる編集家、竹熊健太郎の著書『フリーランス、40歳の壁』(ダイヤモンド社)という本を読んでいた。
この本は「40代になったフリーランスのライターにはなぜ、仕事が来なくなるのか?」という問題を竹熊自身の実体験を元に書いた本であり、40代を境に一緒に仕事する編集者が年下になっていくことや、自身の能力の低下、出版不況のあおりといった時代の変化、そして結婚等によるライフスタイルの変化など、公私にわたるさまざまな原因が書かれているドキュメントタッチのマニュアル書である。
この本が出るきっかけとなったのがプロ・インタビュアーの吉田豪がまとめた『サブカル・スーパースター鬱伝』(徳間書店)という、サブカル系の文化人やタレントが40代に入る頃に鬱病になった理由を聞いているインタビュー集だ。
竹熊は鬱(うつ)になる理由を「フリーランスの壁」だと理解したそうだが、どちらも40代を一つの境目に置いているのが興味深く思った。