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国際・外交 アメリカ 北朝鮮

トランプの「意外に鮮やかな外交手腕」、あの大統領にそっくりだ

スキャンダルが付きまとう点も似ている

鮮やかな決着に既視感

いよいよ、71歳のトランプ米大統領と34歳の金正恩北朝鮮労働党委員長の2人を主役とする、21世紀に入って最大の政治ショウが始まる。この2人が対峙する歴史的な初の米朝首脳会談が6月12日に、シンガポールで開かれることが決まったからである。

最近まで激しくののしり合っていた、超大国アメリカと極貧共産国の首脳が一転して合意したこの歴史的な対話で、もし北朝鮮の「核廃棄」が少しでも前進すれば、「世界の平和」にとって「特別な時」が生まれる(トランプ大統領、10日、インデイアナ州での演説)。

そのインパクトは単に朝鮮半島、東アジアのみならず世界情勢全体に及ぶ。逆に対話が決裂を迎えた場合には、事態は暗転し、日本を含め東アジアは、一気に「戦争」の危機まで迫りかねない。大きな分岐点が近づいている。 

既にトランプ大統領は、シンガポール会談発表の前日、欧州各国首脳の反対も押し切り、「アメリカをより安全にする」との理由で、オバマ時代の政治遺産の新たな否定である「イラン核合意」からの離脱を声明した。

そして北朝鮮との「核廃棄」交渉との「連動」をはっきり認め、「アメリカは不適切なディールには応じない」との「明確なメッセージだ」(ボルトン補佐官)と説明した。

アメリカ国内の影響力を持つイスラエルの支持も計算したうえで「アメリカ第一主義」を実践することで、苦戦が予想される秋の中間選挙戦や「ロシアゲート」といった国内政治の壁を乗り切ろうとしている。

トランプはこの日深夜、ポンペオ国務長官自ら平壌からの専用機で連れ帰った北朝鮮に抑留されていた3人の韓国系アメリカ人を、空港に夫人とともに出迎え、「全世界のために平和で安全な未来のために会談する」と、金正恩を会談に引き出すことに成功した自らの政策を自画自賛した。

観衆からは「ノーベル平和賞を」とのかけ声も出て、米朝首脳会談に対する世論調査も開催支持に77%の支持が集まり(CNNテレビ)という、政権担当後初めての現象が生まれている。

北朝鮮への「圧力強化」ではトランプ政権と共同歩調を取ったものの、首脳会談具体化の過程では「蚊帳の外」におかれた日本の安倍外交は、もちろんこれから最大の試練を迎える。

 

ニクソンの米中国交回復にそっくり

この事態をどう読むか? 私は楽観論にかけて見たい。

筆者は現役時代、60年代末と80年代はじめに共同通信アメリカ特派員として勤務し、特に1969年までのワシントン取材経験をもとに、ニクソンによる米中和解を1971年4月10月の『中央公論』への寄稿で、「ニクソンのアメリカと中国 ──そのしたたかなアプローチ──」と題して予測した。

この経験から、今年年初から現時点に至るまでの経緯と、ソ連を「共通の敵」とすることからアメリカと手を結ぶ奇策を実現させた1972年2月の「ニクソンと毛沢東の握手」にいたる過程との相似性を強く感じる。

すなわち、金正恩が新年メッセージで明らかにし、平昌オリンピックを巧みに利用し、韓国の文在寅政権を「仲介者」として具体化したトランプ政権との接近戦略、つまり「並進路線」のうち「核ミサイル国家」の実現は立派に果たしたと宣言したうえで、非核化を通じて朝鮮戦争終結を実現して現体制の安泰、定着をはかる中国を手本とする経済立国に大きく舵を取る新路線である。

確かに、この転換はトランプの主導の下、中国、ロシアまで巻き込んだかってない強力な国連の錦の御旗のもとでの対朝制裁の結果である面も否定できない。

しかし、その根っこにあるのは、46年前の毛沢東と同じく、金正恩が練り上げた自らの「生き残り」のための戦略だと思う。

2年前からの狂気とも見られたワシントンを標的とした核、ミサイル開発実験は、その戦略の舞台にトランプをひきだすためのテコであったととらえることも可能である。

46年前あのときも米中間には、国交はなく、ののしり合いの応酬が続き、アメリカでも日本でも、「米中戦争」という本が出版された。

もちろん、安易なアナロジーは慎まなければならない。東西冷戦は、既に歴史のかなたに過ぎ去り、当時アメリカと中国を結びつけたソ連との緊張関係も既にない。

しかし、にもかかわらず、である。ニクソンは1960年の大統領選挙でケネディに敗れ、以後8年間の「臥薪嘗胆」を経て、ベトナム軍事介入の拡大で失敗した民主党政権が自滅する中、「法と秩序」を唱えるだけでホワイトハウスに滑り込んだ。

泥沼状態で引き継いだベトナム戦争からの「名誉ある撤退」の舞台づくりに、中国との和解という大芝居を試みた、この時のニクソンと、今、北朝鮮の独裁者、金正恩委員長と正面から向き合うトランプ大統領との共通点に触れておかねばならない。