硬式軟式問わず、中学チームに入団してくるべき小学生(軟式学童)の競技人口の減少も深刻だ。これはひとつの例にすぎないが、東京の葛飾区では10年前に約60チームあったのが、現在では35チームほどになってしまっているという。どこの地域で話を聞いても、状況は似たようなものだ。近隣に住む子供たちを集めて野球チームを結成し、野球経験のあるお父さんが監督やコーチを務めて子どもたちを指導するというモデルが、急速に崩壊しつつある。

試合にのぞむ少年野球の子どもたち(画像=著者提供)

小学生、中学生の野球離れが進んでいる理由は、さまざまに推測されている。野球遊びができる公園や広場がなくなり、友達同士や親子でキャッチボールをすることすらままならない土地事情に原因を求める意見もある。用具が専門的で費用がかかることも大きな要因の一つとされる。あるいは、旧態依然とした高圧的・強権的な指導法がよくないという意見もある。少年野球チームに子どもを入れると、お茶当番や送迎など親の負担が大きいことも嫌われているという。

有効な対策が打てないまま時間がたった

どれも理由として正しいだろう。しかし、一番の問題は、このような意見は最近出てきたわけではなく、もう何年も前から指摘されているのに、手をこまねいたまま何も有効な対策が打ち出せないでいる野球界そのものにあるように思われる。高度経済成長の時代、子どもはたくさんいた。そして娯楽は少なかった。黙っていてもみんな野球に親しんでいたのだ。その成功体験から抜け出せないまま、昔ながらのやり方を続けてしまっていることこそが、問題解決への道を遠ざけている。その結果、今や競技人口の減少は危機的状況にあり、日本で野球をする子どもが珍しい存在になってしまう未来すら見えかけている。

野球があまりにメジャーなスポーツでありすぎたため、組織がバラバラに結成され、横のつながりが少ないことも問題だ。いや、つながりが少ないどころではない。競合団体が反目しあい、お互いを敵視していることすら珍しくない。たとえば、地域の軟式学童野球には独立連盟が多く、全日本軟式野球連盟がそのすべてを管理しているわけではない。中学硬式ではリトルシニアとボーイズリーグの敵対関係は有名だ。日本高等学校野球連盟が全国高等学校体育連盟(高体連)に加盟せず、ほかの部活と一線を画していることも問題視されている。最近は雪解けムードがあるとはいえ、プロとアマの対立も根深いものがあった。

野球には、ほかのスポーツのように強力な国内統一組織がないことが、現在では完全に弱点になっている。過去の歴史を虚心坦懐に見直し、野球界が本当にひとつになって子どもたちを呼び戻す動きがなければ、この流れは止まらないのではないだろうか。

粟村哲志(あわむら・さとし)
野球審判員
1975年生まれ。広島県出身。早稲田大学卒業。一般財団法人日本リトルシニア中学硬式野球協会・関東連盟審判技術委員。練馬リトルシニア所属。2007年より、国内独立リーグ審判員としても活動している。『わかりやすい野球のルール』(成美堂出版)監修。ツイッター〈@s_awamura〉