どんどん新しく生まれるミクロネーション
国際的には全く認められていないものの、ある特定の地域が勝手に独立宣言をする場合があります。ミクロネーションという名前で呼ばれ、日本語では「自称国家」と言われます。
こういう地域は毎年のように新しく出来ていて、2010年以降もかなりの数が生まれています。
この記事では、2010年以降に独立を宣言し比較的メディアに露出し認知度の高いミクロネーションを紹介します。
1. フィレッティーノ公国(2011年独立宣言)
人口600人未満の寒村が独立を宣言
2011年9月、イタリア・ラツィオ州フロジノーネ県にあるフィレッティーノという人口600人未満の寒村が独立を宣言しました。
フィレッティーノはかつてはリゾート地として栄えましたが過疎化が進行。住民の数も減り、行政効率化のために近隣のトレヴィと合併が計画されていました。
イタリアでは日本と同様、市町村合併が進行していますが、過疎化が進む村などの行政サービスが行き届かなくなることが懸念も根強く、フィレッティーノのルカ・セルリ村長は、イタリア政府のこの動きに対し「村人たちが必要とする最低限の行政サービスすら受けなくなる」と抗議。
打開策のために村長はフィレッティーノの独立を宣言し、独自通貨「フィレッティーノ」を発行し村の商店などで流通させ始めました。
Photo by Smiley.toerist
フィレッティーノの独立宣言は国際的なニュースとなって、この小さな寒村には観光客が押し寄せるようになり、住民たちはルカ・セルリ村長の独立宣言を熱烈に支持しました。
村長はBBCのインタビューに対し「イタリアはかつて存在していた何十という単位の国の集合体であるし、サンマリノという国も存在し認められているじゃないか。なぜフィレッテーノが認められないのか」と語っています。
2. ロマノフ帝国(2011年独立宣言)
アフリカのガンビアにある「ロシア帝国」
ロマノフ帝国は2011年にロシア人実業家のアントン・バコフという人物に設立されたミクロネーション。ロシア革命によって崩壊したロシア帝国ロマノフ王朝の正式な後継者と主張しています。
アントン・バコフは早期の主権国家への脱皮を目指して活動を行っており、2014年にロマノフ王家の末裔と自称するライニンゲンのカール・エミッヒ皇太子を「ニコライ3世」として帝国の王位に迎い入れました。
次に領土の獲得を目指し、モンテネグロ、マケドニア、アルバニア、ガンビア、アンティグア・バーブーダ、キリバスなどの行政府と相次いで交渉を行いました。
そしてとうとう2017年12月に、ガンビア政府とパートナー合意に達し、タンジの町の沖合にある島を「アトランティック島」と名付け経済特区とし、開発を行っていくことを発表しました。
ロマノフ帝国はこの地を21世紀の先端都市とすると宣言しており、「再生可能エネルギー、仮想通貨、革新的な建築、投資家に有利な行政ガバナンス体制の整備」を進めるとしています。
オフィシャルサイトはこちら(ロシア語・英語)。
3. ムラワリ共和国(2013年独立宣言)
先住民族ムラワリ族が「英連邦から独立していることを確認」
ムラワリ共和国はオーストラリアのニューサウスウェールズ州とクイーンズランド州の州境にあるムラワリ族の居住地です。
ムラワリ族は自分たちはこの土地に数千年間住んでいて、「過去誰もムラワリの主権の譲渡をしなかった」とした上で、英連邦のエリザベス女王に対して「ムラワリの土地の主権を何者かが英王室に譲渡をしたことを証明する文書」の提出を21日の期限内に求めました。
しかしエリザベス女王からは何も連絡がなかったため、彼らは「ムラワリが独立国家であった証拠」と解釈し、2013年3月30日に正式に独立を宣言しました。
彼らの正式見解だと、ムラワリは決してオーストラリアから独立宣言をしておらず、その理由は「ムラワリはこれまでもずっと独立した状態であった」ということです。
ムラワリ共和国は約82,000平方キロメートルの面積で、人口は約3,500人を有しています。
4. 氷河共和国(2014年)
環境保護団体グリーンピースが作ったミクロネーション
氷河共和国(Glacier Republic)は、 南米チリの南部氷河地帯にあるミクロネーションで、環境保護団体グリーンピースが主体になって「独立宣言」しました。
チリには南米にある氷河の82%がありますが、目下それを保護する法律はない。銅鉱山の採掘などの企業活動によって氷河が破壊される可能性を危惧するグリーンピースのチリ支部が、チリとアルゼンチンの境界線を定める法律の抜け穴と氷河に対する主権の未整備を突き「合法的に」独立を果たしたとされています。
目的は「チリ政府に問題を認識させ、適切な氷河保護の法律を制定させること」で、それが果たせれば氷河共和国は解散しチリ政府に土地を返還するとしています。
2014年3月5日の独立宣言後、世界中のグリーンピース支部のメンバーらが「市民登録」をしたので、現在4万人以上の「氷河共和国市民」がいるそうです。
公式サイトはこちら(スペイン語)。
PR
5. イディンズ部族国家(2014年独立宣言)
先住民族イディンズ族がオーストラリアから離脱し建国
オーストラリア・クイーンズランド州北東部のグレートバリアリーフ周辺に居住する、先住民族イディンズ族のムルルム・ウォルバラは、2014年に仲間と共に部族評議会を開き、イディンズ部族国家の創設を宣言しました。
ムルルム・ウォルバラが言うには、そもそもイディンズ部族は「オーストラリア国家への加入に同意していない」ため、イディンズ部族の国家はオーストラリア建国以前からあり、現在も存在するということです。
ムルルム・ウォルバラは以前はキャンベラの著名な政治ジャーナリストでしたが、今ではオーストラリアの国籍を放棄してイディンズ部族国家の国籍を取得しており、外務大臣兼貿易大臣として活躍。オーストラリア政府と条約を締結してイディンズ部族国家の存在を認めさせ、国際的な認知と支援を得ることに奮闘しています。
公式サイトはこちら(英語)。
6. リベルランド(2015年独立宣言)
クロアチアとセルビアの国境沿いの無主地域に建国された国
リベルランドがあるゴルニャ・シガ(Gornja Siga)は、ドナウ川中流域の西岸にある無人の中洲。この7平方キロメートルの地域は、元々はセルビアの領土でしたが、ユーゴスラヴィア内戦の結果クロアチアが支配するようになりました。
戦後、クロアチアはゴルニャ・シガをセルビアに返還し、その代わりに有利な国境策定を行おうとしますが、セルビアはゴルニャ・シガの返還を拒否。両国ともに領有が拒否されたゴルニャ・シガは無主地域となってしまいました。
2015年、これに目をつけたチェコ人のヴィト・イェドリチカは、友人らとゴルニャ・シガを訪れて「リベルランド」の建国を宣言。初代大統領に就任しました。
リベルランドは「直接民主政の要素を含む立憲共和国」とされ、国の通貨はビットコインで運営され、ビジネス面での国家の介入はなるべく排除されるそうです。
現在は建国者のイェドリチカはセルビア、クロアチア両方から入国を許可されずに誰も入れない状態となっていて相変わらず無人の状態。チェコのプラハにあるイェドリチカの自宅が大使館となっています。
ですが、リベルランドの「市民への申し込み」は世界中から30万件問い合わせがあり、イェドリチカは将来的な「リベルランド人」による共同体建設を計画しているとのことです。
公式サイトはこちら(英語)。
7. エンクラヴァ王国(2015年独立宣言)
「全ての人に開かれた国」 がモットー
2015年に設立されたエンクラヴァ王国も、ユーゴスラヴィア内戦で無主地となった地に作られたミクロネーションです。
スロヴァニア南部メトリカ市の近くにある約100平方キロメートルの土地で、紛争の結果帰属が未確定になっている土地の一つで、国境を接するスロヴェニアもセルビアも領土主張をしていません。
たまたま旅先のスロヴェニアでその存在を知ったポーランド人、ピョートル・ヴォシュキエヴィチは、その地をエンクラヴァ王国と名付けて独立を宣言しました。
エンクラヴァ王国は「税金一切なし」「住みたい人は誰でも住むこと」が可能。肌の色や人種に関係なく、すべての人類に開かれた国だとしています。
公用語は、英語、ポーランド語、セルビア語、スロヴェニア語、そしてなぜか中国語。
すでにオンラインで5000名が住民登録をしているそうです。
公式サイトはこちら(ポーランド語、英語、中国語)。
8. アスガルディア宇宙王国(2016年独立宣言)
史上初の宇宙を領土とする帝国
2016年に設立されたアスガルディア宇宙帝国は、ロシア人実業家のイゴール・アルシュベリによって設立された国家。
彼は「宇宙に根ざした、地球の国家に一切属さない」という全く新しい国のコンセプトをぶち上げました。
アスガルディア宇宙帝国は独自の人口衛星「アスガルディア-1」を開発。この人口衛星にはアスガルディアの国の憲法、国のシンボル、115,000人の市民一覧などが入ったデータ基盤が載っており、無人宇宙補給機シグナスに同乗して2017年11月12日、アメリカ・バージニア州から国際宇宙ステーションに向けて打ち上げられました。
そして12月にアルガルディア-1は国際宇宙ステーションから放たれ、現在は地球の上を周遊しています。
イゴール・アルシュベリは、将来的にはアスガルディア宇宙帝国は宇宙の惑星に植民地を築き、人類を入植させる計画を持っていますが、当然地球上のどの国も一切これを国であるとは認めていません。
公式サイトはこちら(英語)。
PR
まとめ
今回挙げた8つだけでも、それぞれ成立の動機が異なって面白いですよね。
少数民族の権利、ビジネス目的、政治目的、単なるノリ。
どの国もちゃんと国際的には認められてはいませんが、新しい国ができて好きな国に自由に住めるような世界になったら面白そうだなとも思います。
優秀なエンジニアばかり集めてエンジニアリングを輸出する国が出てきたりして。中にはゴロツキばかり集めて他国に侵略するようなヤクザ国も出てくるかもしれませんけど。
参考サイト
"Italian town Filettino declares independence" BBC news
"Glacier Republic" Atlas Obscure
"There's another government in Australia and Murrumu is taking it to the world" The Guardian
"ミニ国家「リベルランド」建国、世界で最も新しい「国」に" CNN