1ヶ月ぶりの更新となりました。確定申告時期は深夜まで残業することもあり、全く余裕がありませんでした。記事のストックは溜まる一方。書かずに頭から消えていくことも多くあり、早く書きたいのですが、試験勉強の方も溜まっておりますので、しばらくは更新頻度が落ちます。ご了承ください。
さて、この間に税務実務で新たな知見を得たことも多々ありましたので、今日はそのうちの一つをまとめておこうと思います。今やネットで株取引などをやっておられる方も多くいらっしゃると思います。普通は特定口座を使っていると思いますので申告も不要ですが、譲渡損の繰越控除をするのに確定申告をされた方はいらっしゃるでしょうか。
そんな日常的に株取引をしているあなたに、今まで知らずに損していた、という話をします。株に関する書籍購入費、セミナー代や通信費などを経費として控除できないかと考えたことはありませんか?それともそんな発想、端からありませんでしたか?実はそれ、できるんです。
この記事は13,000文字以上ありますので、結論だけ読みたい人は中程からどうぞ。
目次
本題に入る前に
所得税額計算の仕組み
ご存知のように、所得税の計算では、収入を源泉に応じて10の所得に区分して、それぞれに異なる計算方法を用いて税額を求めます。
1 利子所得
2 配当所得
3 不動産所得
4 事業所得
5 給与所得
6 退職所得
7 山林所得
8 譲渡所得
9 一時所得
10 雑所得
総合課税と分離課税
それぞれの所得は、総合課税のものと、分離課税のものに分けられます。総合課税のものは全部合わせて一つにした上で、5~45%の超過累進税率を掛けます。分離課税のものは、分けた上でそれぞれに税率が定められています。こちらの図をご覧ください。
10に分けると言いましたが、もう少し種類がありますね。土地等の譲渡と株式等の譲渡は他の譲渡所得とは別れて分離課税になっています。本来(所得税法本法では)分離課税は、山林と退職だけなのですが、様々な理由でもう少し細かくなっています。上の図は簡略化したものでこの他にもあります。
株の譲渡=譲渡所得ではない
ここで普通に考えれば、株の譲渡は、譲渡所得なんだと思いますよね。上の図を見てもそう見えます。でもこれ、正確ではないです。正式な表記は、「株式等に係る譲渡所得等」と言い、「等」の部分に注目です。税法で「等」とついたら必ず意味があります。
最初の、株式「等」は、
① 株式(投資口を含みます。)、株主又は投資主となる権利、株式の割当てを受ける権利、新株予約権(新投資口予約権を含みます。)及び新株予約権の割当てを受ける権利
② 特別の法律により設立された法人の出資者の持分、合名会社、合資会社又は合同会社の社員の持分、協同組合等の組合員又は会員の持分その他法人の出資者の持分(出資者、社員、組合員又は会員となる権利及び出資の割当てを受ける権利を含み、③に掲げるものを除きます。)
③ 協同組織金融機関の優先出資に関する法律に規定する優先出資(優先出資者となる権利及び優先出資の割当てを受ける権利を含みます。)及び資産の流動化に関する法律に規定する優先出資(優先出資社員となる権利及び同法に規定する引受権を含みます。)
④ 投資信託の受益権
⑤ 特定受益証券発行信託の受益権
⑥ 社債的受益権
⑦ 公社債(預金保険法に規定する長期信用銀行債等並びに農水産業協同組合貯金保険法に規定する農林債及び償還差益について発行時に源泉徴収された割引債を除きます。)
と、まあ、一応全部引用しておきましたが、要は、株以外の株的ないろいろなものを含みますよ、ということです。平成28年から改正で、「株式等」は「上場株式等」と「一般株式等」に分かれましたが、ここでは関係ないので触れません。
さて、後ろの譲渡所得「等」の方ですが、これは、「譲渡所得」と「事業所得」「雑所得」のことを言います。つまり、
株の譲渡≠譲渡所得
株の譲渡=「譲渡所得」「事業所得」「雑所得」のどれか
ということになります。
株の譲渡は、「譲渡所得」「事業所得」「雑所得」のどれにもなる可能性があるのですが、ではどうやって決めるのかというと、これは通達が出ています。さらにこの通達の趣旨説明情報も出ています。一応当該部分を引用しておきますが、先に書いておきますが、後でまとめるので読み飛ばしていいです。
(株式等の譲渡に係る所得区分)
37の10・37の11共-2 株式等の譲渡(措置法第37条の10第4項各号又は第37条の11第4項各号に規定する事由に基づき一般株式等に係る譲渡所得等又は上場株式等に係る譲渡所得等に係る収入金額とみなされる場合を含む。以下この項において同じ。)による所得が事業所得若しくは雑所得に該当するか又は譲渡所得に該当するかは、当該株式等の譲渡が営利を目的として継続的に行われているかどうかにより判定するのであるが、その者の一般株式等に係る譲渡所得等の金額又は上場株式等に係る譲渡所得等の金額の計算上、次に掲げる株式等の譲渡による部分の所得については、譲渡所得として取り扱って差し支えない。(平27課資3-4、課個2-19、課法10-5、課審7-13追加)
(1) 上場株式等で所有期間が1年を超えるものの譲渡による所得
(2) 一般株式等の譲渡による所得
(注) この場合において、その者の上場株式等に係る譲渡所得等の金額の計算上、信用取引等の方法による上場株式等の譲渡による所得など上記(1)に掲げる所得以外の上場株式等の譲渡による所得がある場合には、当該部分は事業所得又は雑所得として取り扱って差し支えない。措置法第37条の10《一般株式等に係る譲渡所得等の課税の特例》・第37条の11《上場株式等に係る譲渡所得等の課税の特例》共通関係|所得税関係 措置法通達目次|国税庁
株式等の譲渡に係る所得区分は、従来から、当該株式等の譲渡が営利を目的として継続的に行われているかどうかにより判定することが原則とされていたが、平成15年からの株式等譲渡益課税の申告分離課税への一本化に際し、課税庁と納税者側の両者からみた簡便な所得区分の基準を明らかにする必要があるとの理由から、実質基準を原則としつつも、次のとおり取り扱って差し支えないこととしている。
1.所有期間1年超の上場株式等及び非上場株式等の譲渡による所得は、譲渡所得とする。
2.信用取引等の方法による上場株式等の譲渡など所有期間1年以下の上場株式等の譲渡による所得は、事業所得又は雑所得とする。
上の通達をまとめると、こうなります。
<原則>
営利を目的として継続的に行われている株式等の譲渡 → 事業所得・雑所得
それ以外の株式等の譲渡 → 譲渡所得
<簡便的な分類>
1.上場株式等で所有期間が1年を超えるものの譲渡による所得
2.一般株式等の譲渡による所得
→ 譲渡所得
信用取引等(例示)の所有期間1年以下の上場株式等の譲渡による所得
→ 事業所得・雑所得
簡便的な分類で、上場株の所有期間が1年以下か否かなんて持ち出しているのでややこしくなっていますが、要はこれ、どっちでも好きな方にしていいという規定だと考えます。上場株の売り時を見計らっていて結果的に所有期間が1年超になっても、原則を持ち出して、営利を目的として継続的に行っている、と主張すれば事業・雑になりますから。
事業所得か雑所得かはどう判断するかというと、その行為が「事業的規模で行われているか否か」ということになります。事業的規模とは何か、ということを突き詰めると、それだけで論文が一本書けるテーマになるので、やはりここでは触れません。
では、ここまで読んで、株の譲渡を、事業・雑所得にしたら総合課税、譲渡所得にしたら分離課税を選べるのかな、と思われた方。残念、違います。
結局、株の譲渡は分離課税
株式等の譲渡は、「譲渡所得」「事業所得」「雑所得」になる可能性があるのですが、結局のところ、全部分離課税になります。総合課税は選択できません。それを定めたのが租税特別措置法37の10です。下線を引いたので、下線部のみを繋げて読んでください。
(一般株式等に係る譲渡所得等の課税の特例)
第三十七条の十 居住者又は恒久的施設を有する非居住者が、平成二十八年一月一日以後に一般株式等(株式等のうち次条第二項に規定する上場株式等以外のものをいう。以下この条において同じ。)の譲渡(金融商品取引法第二十八条第八項第三号 イに掲げる取引(第三十七条の十一の二第二項において「有価証券先物取引」という。)の方法により行うもの並びに法人の自己の株式又は出資の第三項第四号 に規定する取得及び公社債の買入れの方法による償還に係るものを除く。以下この項及び次条第一項において同じ。)をした場合には、当該一般株式等の譲渡による事業所得、譲渡所得及び雑所得(所得税法第四十一条の二 の規定に該当する事業所得及び雑所得並びに第三十二条第二項 の規定に該当する譲渡所得を除く。第三項及び第四項において「一般株式等に係る譲渡所得等」という。)については、同法第二十二条 及び第八十九条 並びに第百六十五条 の規定にかかわらず、他の所得と区分し、その年中の当該一般株式等の譲渡に係る事業所得の金額、譲渡所得の金額及び雑所得の金額として政令で定めるところにより計算した金額(以下この項において「一般株式等に係る譲渡所得等の金額」という。)に対し、一般株式等に係る課税譲渡所得等の金額(一般株式等に係る譲渡所得等の金額(第六項第五号の規定により読み替えられた同法第七十二条 から第八十七条 までの規定の適用がある場合には、その適用後の金額)をいう。)の百分の十五に相当する金額に相当する所得税を課する。この場合において、一般株式等に係る譲渡所得等の金額の計算上生じた損失の金額があるときは、同法 その他所得税に関する法令の規定の適用については、当該損失の金額は生じなかつたものとみなす。
事業・譲渡・雑のどの所得にしても、分離課税で15%の所得税をかける、という規定です。ちなみに上場株式等については、ほぼ同じ文章で措法37の11にあります。
前述の通り、上記は法律が改正された平成28年以降に適用となる条文ですが、改正前の条文があったので参考に引用しておきます。
租税特別措置法第三十七条の十(株式等に係る譲渡所得等の課税の特例)では、
居住者又は国内に恒久的施設を有する非居住者が、平成十六年一月一日以後に株式等の譲渡(証券取引法第二条第二十項に規定する有価証券先物取引の方法により行うものを除く。以下この項、次条から第三十七条の十一の二まで及び第三十七条の十二の二において同じ。)をした場合には、当該株式等の譲渡による事業所得、譲渡所得及び雑所得(第三十二条第二項の規定に該当する譲渡所得を除く。第三項及び第四項において「株式等に係る譲渡所得等」という。)については、所得税法第二十二条(iso注:「課税標準」)及び第八十九条(iso注:「税率」)並びに第百六十五条(iso注:「総合課税に係る所得税の課税標準、税額等の計算」)の規定にかかわらず、他の所得と区分し、その年中の当該株式等の譲渡に係る事業所得の金額、譲渡所得の金額及び雑所得の金額として政令で定めるところにより計算した金額(以下この条及び第三十七条の十一において「株式等に係る譲渡所得等の金額」という。)に対し、株式等に係る課税譲渡所得等の金額(株式等に係る譲渡所得等の金額(第六項第五号の規定により読み替えられた同法第七十二条から第八十七条までの規定の適用がある場合には、その適用後の金額)をいう。)の百分の十五(iso注:租税特別措置法第三十七条の十一(上場株式等を譲渡した場合の株式等に係る譲渡所得等の課税の特例)で上場株式等については7%[+地方税3%=10%]。平成十九年十二月三十一日まで。)に相当する金額に相当する所得税を課する。
事業所得・雑所得は必要経費を算入できるが、譲渡所得はできない
長くなってきましたが、ここからが本題に入ります。ここまで前置きでした。結局、何所得だろうと、15%の分離課税になるのだから一緒じゃないか、と思われるでしょうか。
事業・雑所得と譲渡所得では、扱いが違うものがあります。それは、経費として収入から差し引くことができるものの範囲です。事業所得又は雑所得の金額は、総収入金額から実際にかかった必要経費を差し引いて計算します。一方、譲渡所得は、総収入金額(譲渡価額)から取得費と譲渡費用だけを引いて所得(譲渡益)を求めます。間接的な費用を引けるのは事業・雑所得だけで、譲渡所得は引けるものが限られているのです。
(事業所得)
第二十七条
2 事業所得の金額は、その年中の事業所得に係る総収入金額から必要経費を控除した金額とする。
(譲渡所得)
第三十三条
3 譲渡所得の金額は、次の各号に掲げる所得につき、それぞれその年中の当該所得に係る総収入金額から当該所得の基因となつた資産の取得費及びその資産の譲渡に要した費用の額の合計額を控除し、その残額の合計額(当該各号のうちいずれかの号に掲げる所得に係る総収入金額が当該所得の基因となつた資産の取得費及びその資産の譲渡に要した費用の額の合計額に満たない場合には、その不足額に相当する金額を他の号に掲げる所得に係る残額から控除した金額。以下この条において「譲渡益」という。)から譲渡所得の特別控除額を控除した金額とする。
(雑所得)
第三十五条
2 雑所得の金額は、次の各号に掲げる金額の合計額とする。
二 その年中の雑所得(公的年金等に係るものを除く。)に係る総収入金額から必要経費を控除した金額
(必要経費)
第三十七条 その年分の不動産所得の金額、事業所得の金額又は雑所得の金額(事業所得の金額及び雑所得の金額のうち山林の伐採又は譲渡に係るもの並びに雑所得の金額のうち第三十五条第三項(公的年金等の定義)に規定する公的年金等に係るものを除く。)の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用(償却費以外の費用でその年において債務の確定しないものを除く。)の額とする。
(譲渡所得の金額の計算上控除する取得費)
第三十八条 譲渡所得の金額の計算上控除する資産の取得費は、別段の定めがあるものを除き、その資産の取得に要した金額並びに設備費及び改良費の額の合計額とする。
これは、所得としての性質の違いからこのようになっています。事業・雑所得では、営利を目的として継続的に行ってきた行為の結果生まれた所得ですから、その間にかかった間接的な費用、いわゆる一般管理費も、収入を生むために費やされたものとして経費として認める考え方をとっています。他方で譲渡所得の場合は、あくまで臨時・偶発的に生じた要素が強いものと考え、購入価額と譲渡のために直接要した費用のみを引くこととし、残りの部分を譲渡益として課税する考え方をとっているのです。
たまたま買って持っていたものを売ったらたまたま利益が出ていた、というのが譲渡所得です。譲渡益を得ることを目的として定めて、リスクやリターンを勘案してポートフォリオを組んで、戦略的に売り買いを繰り返しているとなれば、立派に営利・継続の要件を満たし、事業・雑所得になることは疑いないでしょう。
図中に示された通り「管理費」は、事業所得・雑所得の場合のみ引けます。
ですから、株に関する書籍購入費、セミナー代や通信費などを経費として引くためには、この株の譲渡が譲渡所得ではなく、事業・雑所得だと主張する必要があります。
申告書にどうやって記載するか
では雑所得にして、これらを必要経費として引くとして、申告書にどう記載すればいいのでしょうか?それは、申告書に添付する「株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書」にちゃんと記入する欄があります。と言っても、この明細書を見慣れている人でも、そんなところあったっけ?と思われるかもしれません。
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この明細書には、証券会社が発行する「特定口座年間取引報告書」から「譲渡の対価の額(収入金額)」と「取得費及び譲渡に要した費用の額等」の数字を転記することは、皆様ご存知のことと思います。通常、この差引金額に対し、20.315%が源泉徴収されていますね。
明細書1面にこれらの数字を転記した後、「譲渡のための委託手数料」の次の行を見るとぽっかり白く空いています。(⑥の行)税務署の記入方法の手引きでも説明がなく、まるで触れてほしくないかの如く華麗にスルーされていますが、ここです。ここに自分で項目を作って金額を入れてください。例えば「参考図書費等」とか。
そうすると、必要経費の分、差し引くものが増えますから、⑦の小計も増えて、所得金額が減るはずです。これでO.K.です。
この⑥の行はこうやって使うために空いていたのですね。確かに最初から明細書にあることはありましたが、「できれば存在に気づかないで欲しい」という国税庁のメッセージが聞こえてくるように感じるのは気のせいでしょうか。
「確定申告書等作成コーナー」での入力場所
この記載方法は、国税庁HPの「確定申告書等作成コーナー」でも対応しています。
特定口座の数字を入力する画面に、「特定口座年間取引報告書に記載されたもの以外の費用」の入力、とはっきり書いてあるので紙の手引きより親切ですね。
Q&Aにも書いてあります。
特定口座の申告に際し費用を追加計上できる場合
特定口座での株式売買に関し、特定口座での譲渡損益計算上考慮されていない費用の支払いがある場合には、特定口座での譲渡損益を申告することを前提として、確定申告で費用計上することができます。
このような費用としては、例えば、株式売買を内容とする投資一任契約に基づいて支払う固定報酬及び成功報酬(ただし、支払いの効果が年をまたぐなどの場合は、個々の契約内容に基づいて、費用計上の時期を判断する必要があります。)が考えられます。
ちなみに、「確定申告書等作成コーナー」は結構毎年あちこち改良されて使いやすくなっているのですが、平成26年分では、この入力欄にたどり着くために余分にチェックを入れる必要があり、今よりもわかりにくくなっていました。
しっかり申告して節税に活かそう
株取引の経費として使えそうなものとしては、取引に使うネット回線のプロバイダ料、スマホ代(通信費)、株に関する書籍購入費(新聞図書費)、有料メルマガ・投資セミナーの費用、などが考えられます。通信費などは、株取引以外の目的に使う部分もあるでしょうから、家事按分の要領で使用時間等の基準に応じて3割とかを経費算入しておきましょう。
(株式等の購入費用)
37の10・37の11共-10 所得税法令第109条第1項第5号に規定する「購入のために要した費用」とは、株式等を購入するに当たって支出した買委託手数料(当該委託手数料に係る消費税及び地方消費税を含む。)、交通費、通信費、名義書換料等をいう。
なお、利付公社債(既発債)を購入する場合に、直前の利払期からその購入の時までの期間に応じた経過利子に相当する額として、売買価額に含めて譲渡者に対して支払われる金額については、その利付公社債の取得価額に含まれることに留意する。(平27課資3-4、課個2-19、課法10-5、課審7-13追加、平28課資3-4、課個2-33、課審7-11、徴管6-24改正)
上記は、必要経費の定義ではなく、株式の購入費用の定義に関しての通達なのですが、交通費、通信費も含まれるとあります。株譲渡の経費として認められるためには、株取引との関連性を合理的に示す必要があります。株譲渡で利益を得ることがその費用の支出の動機であり、利益を得られると期待していなかったら支出していなかったとなれば、それは株取引のための経費としての根拠は十分でしょう。
これらの経費は、申告しなければ消えていってしまうもので、申告書に書いたもの勝ちのようなところがあります。申告納税制度とはそういう性質のものなので、しっかり使った費用を申告して節税に活かしてみてください。
税理士や税務署員でも知らない者がいる
株に関する書籍購入費、セミナー代や通信費などを、株取引の必要経費として入れていいことははっきりしたと思いますが、では今ここで説明したようなことを税務署に聞くと、ちゃんと答えてくれるかというと、残念ながらそうではありません。
株取引で発生した間接費用は確定申告できない?
税務署に電話で質問したのですが、株取引で確定申告する場合、株の売買の手数料は直接費用として経費に計上できるが、セミナー代や株の書籍、通信費などの間接的な費用は一切経費として認めないといわれました。名古屋の中川税務署です。
この「通達」と「本人の交渉力」があれば、「これまでの法令解釈」で指導を行っている職員さんに「事業所得」としての申告を認めてもらうことは可能かと思います。
ちなみに、「対応する税務署」「対応する職員さん」でも、見解は大きく異なりますので、「一人の職員さんの回答」=「国(税務署)の法令解釈」とは考えないほうが良いです。
個々の税務署職員によって返答が違うということもありますし、管轄する国税局単位で一つの税務処理についての運営方針が違うということもあります。本当は国税である以上全国で統一的な判断がなされなければ、全くおかしな話なのですが、現実にあります。
通信費と書いてあるので電話代やネットの接続料が経費にできるのでは?と思って税務署に問い合わせてみたのですが、事業としてやっているのでなければ認められないというつれないお答え。
一般的には手数料のみが経費と認められるようです。
しかし、それで納得してはつまらないので「事業としてというのはどういう基準なのですか?」と聞いたところ、そこには明確な基準はないみたいで、申告者本人の思うところで申告して良いとの回答でした。
おそらくこの件については、即答できる人の方が少ないです。残念ながらそれは税理士においても。
税理士の業務無償独占の裏返しとして、税理士は確定申告の無料相談などといった税務支援への参加を義務づけられているわけですが、もう本当にそろそろこの縛りを見直さざるを得ない状況になってきているような気がしますね。
その理由は、何度もブログに書いていますように、「税務支援を行う税理士のレベルの差がひどすぎる」ことですね。無料で少額所得者や少額事業者などの税務や決算の相談に乗ってあげること自体は、税理士の社会貢献としてとても素晴らしいことだと思います。しかし税理士の無償独占権を維持することだけが目的化されて、ただ全ての税理士に税務支援を義務づければよい、と考えるのは間違っていると思います。
今年の個人確定申告の税務支援の成果をいろんな税理士さんから洩れ伝え聞くところによりますと、ベテラン税理士達が更に高齢化したこともあるからか、かなりひどい申告内容になっているようです。今年の申告から変わった扶養控除を間違えているなんて、ザラ。
税務署の行う確定申告無料相談会などで指導役に出ている人には、税務署の職員や税理士、ただのバイトの人などが入っているようですが、いい加減なことを教えられたケースもあると聞いていますので、あまり信用し過ぎない方がいいでしょう。指導に従った結果間違っていて損害を被っても誰も責任を取ってくれません。あくまで自分で申告納税したことになります。極一般的な申告内容ならいざ知れず、特殊なケースで申告をやろうという方はまともな税理士に報酬を払って依頼するべきです。
以下は、以前に書いた記事からの孫引きです。
「税金に関しては、税務署の言うことは絶対に正しい」と思っていることが多いでしょう。
しかし、これが実は大きな間違いなのです。
特に経理処理においては、税務署は間違いを犯すことが多々あるのです。また税務署の調査官に、税金の申告書を書かせた場合、すべて間違いなく書ける人なんてほとんどいないといっていいでしょう。個人課税部門の人は、まず法人の申告書は書けないはずです。法人課税部門の人も、相続税の申告書は書けないでしょう。
税金のことを税務署や税理士に聞いて間違ったことを言われるなんて、じゃあ素人はどうすればいいんだ、と読者の方は思われるでしょう。残念ながら、これが現状です。特に証券税制など複雑でよく変わる上、証券に関わる申告自体をあまりやったことがない税理士も多くいるようです。その分野に詳しい税理士を探して聞いてください、としか申し上げられません。世の中にはいい加減な情報も多いですから、その辺のブロガーが調べてみた程度の知識で書いたもの等も間違いだらけですから特にお気をつけください。
経費を申告するリスクも
この記事で紹介したように株式等の譲渡所得等から経費を引いた申告書は少数だと思われますので、目立つことは確かです。あまり無茶な申告をすれば税務調査が入るでしょう。計算根拠の提出を求められ、否認されれば追徴や加算税といった処分も考えらえれます。その際には、税務署員に対し税法を根拠に理路整然と説明できるか否かにかかっています。
上にも書いたように、税務署員ですら不確かな知識で平気で間違った指導をしてくる可能性がありますから、税務署員とやり合う自信がない方にはお勧めできません。
もし税務当局がこの記事を見て「こんな経費は認められない。ネットでこのような指南をすることはけしからん。」と考えるのであれば、今回申告した私のところに調査が入るでしょう。現在国税庁長官に対して審査請求(不服申し立て)を行っている私に圧力をかけるならば、これを使わない手はないと思います。その際はまたここで報告しようと思いますので、どうぞよろしくお願い致します。
※この記事は法解釈の一事例を示したものであり、閲覧時点での有効性を保証するものではありません。
※ご自身の申告にあたっては、資格と十分な能力を有した税理士にご相談ください。