高齢者は多くの薬を併用することが多い。厚生労働省は副作用などのトラブルを防ぐため医薬品の適正使用について指針案を示した。薬はなるべく減らすことも治療のうちと考えるべきだろう。
高齢になるといくつもの疾患を抱えがちだ。あちらこちらの医療機関を受診し降圧剤や睡眠薬など多種類の薬を処方される。
厚労省によると七十五歳以上の四割が一カ月で五種類以上、25%が七種類以上を一カ所の薬局で受け取っている。十一種類以上の人もいるとのデータもある。
だが、高齢者の服薬には注意が必要だ。加齢で薬を分解する体の働きが低下している。同じ量でも若い人より効きすぎてしまう。
無視できないのは副作用だ。ふらつき・転倒、記憶障害、抑うつなど深刻なトラブルが出やすくなる。食欲低下や便秘、排尿障害なども起こり、高齢者を悩ませることになる。副作用を抑えようと別の薬を処方される悪循環もある。
トラブルの発生は六種類以上で増加するデータがある一方、三種類程度でも発生するケースもあり処方された薬の中身や組み合わせに注意が求められる。
厚労省は、指針案を初めてつくった。医師や薬剤師ら向けで、特徴的な副作用の症状や原因薬を示し、医療従事者が連携して服薬状況の把握や処方の見直しを促している。その上で使用中止できないか、より安全性の高い代替薬を使えないかなどを判断し、減薬や変更後の患者の慎重な経過観察も求めている。
医薬品は医療の柱のひとつだ。これまで症状が改善しなければ種類や量が増え、長期処方に傾きがちだった。多剤による影響を考慮したり、減薬する発想はあまりなかったのではないか。
今後、多くの高齢患者が薬を利用することになる。減薬も症状の改善や生活の質(QOL)向上に役立つと「引き算」の発想に換える時機に来ている。
飲み忘れなどの残薬は年間五百億円分になるとの推計もある。医療費の節約のためにも服薬の管理は重要になる。
そのためには、地域のかかりつけの医師や薬剤師の役割は増すが、医療関係者同士の連携はまだ手薄だ。患者の服薬情報の共有を含めチームで患者を支える態勢づくりを急ぐべきだ。
患者は勝手な服薬中止は避けたいが、「薬が多い」と感じたり体調に不調を感じたら医師や薬剤師に聞いてみることも心掛けたい。
この記事を印刷する