時代の正体〈596〉憲法の現場(6)自覚なき過剰な規制
記者の視点=藤沢支局・松島佳子
- 神奈川新聞|
- 公開:2018/05/09 02:00 更新:2018/05/10 11:18
ベンチで談笑するカップル、日光浴を楽しむ家族連れ。買い物客が行き交う歩道では、美容師が店のビラを配っていた。
いつもと変わらない光景。異なっていたのは、その場所にかつて設置されていた看板がなくなっていたことだった。
藤沢市道路管理課のホームページで「新着情報」を見つけたのは、その数週間前のことだった。
「藤沢駅北口デッキなどに設置していた注意看板の撤去について」と題したページを開くと、短い文章が掲載されていた。
「藤沢駅北口デッキなどに設置していた注意看板については、誤解を招くような表現となっていたことから、2月28日に撤去しました」
ページ下部には、藤沢駅北口に設置されていた看板の写真が掲載されている。
〈警告
ここは道路(歩道)です。この場所で許可なく次のような行為を行うことは、法律で禁止されています。このような行為を行った場合は、法律により罰せられることがありますのでご注意ください。
1 物品等の販売を行うこと
2 ビラ等を配布すること
3 演説もしくは演奏を行うこと
4 落書き等の汚損行為
5 その他、通行の支障となる行為
藤沢市・藤沢警察署〉
白板に赤字で記載された「警告」「法律で禁止」「法律により罰せられる」の文字。行政と警察の連名による看板は、記載された行為を違法とし、違反者は処罰すると強い文言で警告を発していた。
だが、記載された行為は、一律に法律で禁止されているものではない。「集会、結社及(およ)び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する」。憲法21条は「表現の自由」をうたう。
行政問題に詳しい大川隆司弁護士は「道路交通法は『一般交通に著しい影響を及ぼすような行為』について許可制を敷いているが、憲法21条の下では『著しい影響』の要件は厳格に解釈されるべきだ。少なくともビラ配りや演説などの宣伝活動を一律に禁止したり、要許可行為としたりすることは違憲、違法である」と指摘し、こう批判する。「一律に禁止する掲示板を掲げ、行政が市民の自由な声を脅すように抑えつけることは黙過できない」
生きている民主主義 表現活動
藤沢駅北口から撤去された注意看板。後日、私が藤沢市道路管理課を訪ねると、担当者は「看板に掲示されていた行為は一律に法律で禁止されているものではなく、表現が好ましくなかった」と撤去理由を説明。藤沢駅南口、JR辻堂駅前にも設置していた同様の看板も撤去したことを明らかにした。
一方で、看板設置に関する記録は残されておらず、設置の経緯や時期、文章作成者は不明とした上で、こう続けた。「看板で一律に規制していた行為に法的根拠がないことは、指摘を受けるまで自治体として認識していなかった」
神奈川県弁護士会の弁護士でつくる自由法曹団神奈川支部によると、同支部が調査しただけでも、藤沢駅を含めた県内7駅前で、法的根拠もなく、ビラ配りなどの宣伝活動や表現活動を禁じる看板が設置されていた。
その後、同支部が設置主体である行政に法的根拠や条例を尋ねたところ、「法的根拠はなかった」などと回答。4月末までに、全7駅前で看板は撤去または修整された。
市民の「監視」
行政が無自覚のまま、過剰に市民の権利を規制する-。...