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[第五節【古龍の塔】2]
「スミスさん!?それに桜も!?」
青色に輝く機械兵を駆るスミス・アーロンと桜色の太刀を振るう結城桜が塔の入り口から侵入してきた。そしてその後ろには10機余りの機械兵と、40人を越える冒険者達。
「久しぶりだな、皆…本当は約束を果たしたいところだが…遅ればせながら助力する!」
『我々も人身売買の件を内密に調査していたところ、ここに行き当たったのだ。さてと…』
そして機械兵を駆るスミスが、機械兵に備え付けられた光属性魔法を応用して作られているビームサーベルを憲兵達に向け、鋭く言う。
『我々冒険者には市民を守るという責務があります。この件については、既にメディアが報道していることでしょう…貴方方エリュシオン政府を市民を傷付ける存在と断定…我々冒険者協会エリュシオン支部は…貴方方を排除します!』
「チッ…!」
憲兵達が彼ら援軍を見て恐れをなしたのか隊列が乱れ始めた。しかし一際目立つ機械兵に乗っている将校が部下達を厳しく叱りつける。
『貴様ら何を怯えている!奴等は反政府勢力だ!怯む事はない…やれ!やってしまえ!』
うおおおおおおおおおお!と鬨の声をあげて憲兵達がこちらに向かい突進する。塔が機械兵や憲兵の重みでグラグラと揺れる。桜はアルス達に頷くと、背中を向けて彼らに叫んだ。
「行け!そなたらの本愾を遂げるために!ここは我らが引き受ける!」
『行け!若者達よ!』
「……ありがとうございます」
「助かります!」
「必ずや…!」
「任せます…!」
「桜ちゃんも頑張って!」
「お二人も…皆さんもご無事で!」
アルス達はスミスと桜、そして冒険者達に目礼をすると風のように階段を駆ける。機械兵の一体がアルス達の行く手を阻もうとするが、スミスのビームサーベルの前に沈黙した。憲兵達が束になって彼らの前に立ち塞がるが、桜の太刀の一閃を受け吹っ飛んだ。
一行はただひたすらに、ひたむきに前へと、上へと進む。

「ここは…?」
もう10分も登り続けただろうか。アルス達はようやく二つ目の床らしい床がある階層へと辿り着いた。道中には憲兵や魔物がいたが、どれも彼らの敵ではなかった。彼らは下にいる仲間達の思いを胸に、ただ前へと進んでいたのだ。
「扉、閉まってるね」
スノーが指差す先には巨大な石造りの扉。鍵穴はないようで、魔術的な結界で施錠されているようだ。恐らく何かの仕掛けか敵を突破すれば開くのだろう。
事実、姿こそ見えないが何者かの気配があった。アルスは長剣を引き抜きながら周囲を見渡し、隠れている何者かに鋭く叫ぶ。
「いるんだろう…出てきたらどうだい!?」
「いやあ、気付かれちゃったか♪」
無邪気な少年の声と共に突如空間が一部歪み、そこからある人物が現れた。全身を蒼い--どちらかというと碧に近い?--色の衣装で包み、髪も美しい蒼。顔には中世の騎士の兜のような、道化師のような仮面を着けていた。
(この人物…どこかで…)
「貴方、何者なの?」
スノーが彼にレイピアを構えながら鋭く問う。当の少年は--あるいは道化師は--フフ♪と不気味な笑いを漏らし肩を竦める。その仕草には、どこか悲しみや寂しさが込められているように見えた。
「まだ教える時ではないよ♪何れ判るさ、何れ…まあ、政府と直接の関係にある者ではなく唯の【協力者】って形だけどね♪さて、これは僕からのささやかな【プレゼント】だよ♪」
少年がパチン…と指を鳴らす。すると凄まじい地響き--いや塔の内部だから床響きか?普通に揺れで良いのだろうか--と共に空間が歪み、巨大な影が現れた。
「これは…!?」「大きい!?」
アルスとネヴィアは絶句した。無理もないだろう。その影は高さ5m、長さは12m程度もある巨大な魔物だったのだから。
魔物は黒い翼を震わせ一声大きく吠える。塔の僅かに残った窓ガラスが勢いよく割れ、外へと落下した。魔物はアルス達に向き直り、血走った瞳で一行を睨み付ける。嵐の夜に海の崖っぷちにいるような威圧感が一行を襲った。既に消えた少年の声が部屋に響く。
『ウフフ♪その子は僕の知り合いが合成した魔獣でね♪まだ産まれたばかりだからお腹も空いていれば遊びたがりもする…精々気を付けなよ♪その子を倒せば先に進めるからね~♪』
「グルオオオオオオオオオオ!」
唾液を滴らせ、魔物が再び吠える。その音圧は床や天井、壁の一部を崩落させる程だった。そしてその咆哮には、どこか悲しいような…苦痛に耐えかねているような感じが漂っていた。アルスは剣を構えて皆に言う。
「皆、この子は苦しんでる…この子を苦しみから解放するためにも…子供達を解放するためにも…速攻で決めよう!」
「おお!」
一行が応え、戦闘が始まった。魔物は紅蓮の炎を口からほとばしらせ一行を焼き付くさんとする。
「ハアアアアアア!」
アルスが先陣を切り飛び出していく。魔物が彼の動きに合わせて炎をなびかせていくが、アルスは身を翻しそれを軽々と避け跳躍する。
「グルオアアアアア!」
業を煮やしたのか魔物が空中に跳躍したアルスに向けて炎を放つが、彼は待ってましたと言わんばかりにくるりと炎の下に回り込む。彼の姿を見失った魔物がキョロキョロと辺りを見渡している隙に、ネヴィア達5人の魔法が魔物に降り注ぐ。
紫の雷と炎が魔物の黒々とした毛並みを更に黒く染め上げ、スノーとヒサメが氷の矢をつきたてる。そしてアルスの長剣が緑の光を纏った。
「風技・エメラルド・サイクロン!」
「グルオアアアアア!?」
5人の魔法を全身に受けた上に下顎にアルスの渾身の斬撃を三度喰らった魔物は悲鳴を上げながらあとずさる。それを見たアルスは弓に持ちかえ追撃をした。
「秘弓・クエイク・アロー!」
緑の矢を発端とした先程と同様の爆発が魔物を襲う。しかし魔物も負けてはいない。後退をしながら前足を天高く掲げ、紫色の禍々しいエネルギー球を生成すると、そこから無数の光線がアルス達一人一人に正確な狙いをつけて何発も発射される。
「うわああああ!?」「きゃああああ!?」
「ぐううううう!?」「きゃあああああ!?」
「不覚…!?うああああ!?」「皆さ--きゃあああああ!?」
アルス達は辛くもそれらを避け続けるが、遂に被弾してしまい全員が部屋の壁に、窓にそれぞれ叩き付けられる。瓦礫がガラガラガラ!と落下し一行に追撃を加えた。
「え…!?きゃああああ!?」
「ネヴィア!?くっ…」
瓦礫の落下の衝撃でネヴィアが窓から落ちてしまう。危ういところでアルスが彼女の手を掴むがまだ危険な状況に変わりはない。アルス自身も窓の縁に掴まって彼女共々落ちないようにはしているが、その縁がグラグラと揺れかけている上にネヴィアは片手が魔導杖槍で塞がっている。加えて外は風が強いので、風属性魔法で飛行するのも逆に危険。正に絶体絶命。「グルルルルルル…」
「アルス!私は良いから魔物を!」
後ろから魔物の足音がズシン…ズシン…と重々しく響く。それを受けてネヴィアがアルスに首を振る。気丈に振る舞う彼女だったが、その瞳には落下することへの本能的な恐怖が--相棒であるアルスにしかわからない程微弱な恐怖が--ちらちらと揺れていた。しかしアルスも首を振る。
「そんなこと…!僕は君がいないと駄目なんだ!」
「えっ…?えええええええ!?」
ネヴィアの顔が桜の花弁のような桃色に染まり、すぐに彼岸花や薔薇のような鮮やかな赤色に染まる。そして顔の紅潮を振り払おうとするかのように何度も首をブンブンと振り続けた。
アルスは心の内を包み隠さず告げただけだったが、何故か彼女の顔が赤くなっているのを見て首をかしげる。僕の発言におかしいところなんてあったかな?とこの危機的状況にそぐわない思考を巡らせながら、彼はフォルテで自らの力を強化し、精一杯の力を籠めると彼女を引き上げた。ネヴィアの顔はまだ赤いまま。
「ネヴィア、どこか具合が悪--」
「だ、だだだ、大丈夫!大丈夫だから!あ、あと恥ずかしい言葉禁止!」
紅潮した顔の前でパタパタと両手を振るネヴィア。恥ずかしそうに両手を動かす彼女の様子に「可愛い…」と直接言ったら怒られそうな感想を抱きながらアルスは治癒術をネヴィアと自分に唱える。痛みが薄れていく快感と同時に魔法を使用した時特有の疲労を感じながら、アルスは魔物へと向き直った。少し遅れてレン達も瓦礫の山からよろよろと出てきた。
「痛てててて…まったくお熱いですねえお二人さんは!先に手当てをしてくれよ…ってて…」
「ご、ごめん…え?僕とネヴィアが何かし--」
「………自覚が無い内に攻略するとは…末恐ろしいお人です…」
レンが肩を押さえながら二人を冷やかす。なんのことかわからず話に着いてこれてない様子のアルスにヒサメはやれやれと首を振った。スノーとティールも服をボロボロにしながらも少し離れたところから戦線に復帰し四人の傷を癒す。そして四人とネヴィアは顔を見合わせ苦笑した。
「ネヴィアさん…頑張って下さい」
「う、うん…ってティールちゃんまで!?」
「ネヴィちゃんも事実なんだから仕方ないよ~♪」
ティールとスノーにまで冷やかされ、限界まで顔が赤くなるネヴィア。話に着いていけていないアルスと赤面しているネヴィアを除く一行が笑っていると魔物が一声五月蝿く吠えた。
「律儀に待ってくれてたんだね…」
アルスの呟きに、魔物はそうだ!と言わんばかりにもう一度咆哮をすると再び炎を噴き出した。爆炎がアルス達の立っていた床を一瞬で黒く染め上げる。一行は散開し、波状攻撃を仕掛けていく。
「ティール、行けるか!?」「何時でも行けます!」
「ヘッ…よっしゃあ!」
レンとティールが互いに頷きレンが走る。ティールが魔術でレンの前方に障壁を発生させ炎から彼を守る。
レンは魔物に走った勢いをそのままいかして跳躍し、上段から剣を鼻先に叩き付け、魔物がウギャウ!?と怯んだ隙にザッ…!と足で勢いを殺し、その反動で後ろに跳躍。後退しながら剣を振り上げ追撃し、彼が跳躍した事で出来た空間にティールの光属性魔法の極太光線が魔物目指して飛翔した。
「グギャオゥァェ!?」
「させないわ!」
腹部に光線を直撃させられた魔物は奇妙な悲鳴を上げ、苦し紛れに前足をレンに振り下ろす。しかしその前足の一撃をスノーがレイピアで弾き返し、お返しと言わんばかりに氷属性の光を纏「グルオオオオオオアアアアア!」
技の後の硬直で動けない皆の代わりにアルスとネヴィアが阻止しようと疾走し、その黒き巨体に神速の斬撃と刺突を幾度も加え赤色に染める。しかし魔物は最期の抵抗をしようというのか発射体勢に強行した。
「くっ…ネヴィア!」
「行くわよアルス!」
発射まで見積もったところ残り5秒。アルスとネヴィアは互いに頷き魔物の頭部へ跳躍する。同時に二人は各々の魔法に光を纏わせ魔物の両目に深々と傷を付けた。
残り4秒。尚も魔物のエネルギー球の巨大化は止まる事を知らない。これだけのエネルギーを一度に放たれれば、いかにこの古龍の塔と言えども崩れて--
「そりゃあ!」「今です!」
硬直から立ち直ったレンとティールが二人の為にフォローをしてくれた。レンが上段から大きく剣を振りかぶり、アルスを叩き潰さんとする右前足を斬り落とした。エネルギー球が一瞬揺らぎ、そこにティールがありったけの魔法をこの一瞬で叩き込む。エネルギー球に当たった魔法は球体の表面を薄く削り、残りは辺りに跳弾していった。床の表面が削れた球体のエネルギーとティールの魔法で削がれる。しかし魔物は諦めず、頭を振り回してアルスとネヴィアを振り払った。残り3秒。
「……ハアアアアアア!」「せやあああああ!」
ヒサメがこの一秒に全てを籠める。青い軌跡を描いた彼の斬撃は魔物のズタボロの外皮を斬り裂き肉まで到達した。そこにスノーが魔法で作った氷の矢を放ち、更に深い傷口を作る。
「グルオオオオオ!?」
限界を迎えているのだろう。しかし魔物は意地でもこの攻撃を完遂しようと怯んだ反動を逆に利用し二人を吹っ飛ばす。二人の体から鮮血が赤い軌跡を描いた。残り2秒。いや、2秒もない。
「はああああああああ!」「せやあああああああ!」
頭から振り払われたアルスとネヴィアが再び頭に取りつく。最早この攻撃を止める術は無いのだろう。
ならば--
「これで終わりだ!奥義…エメラルド・ウィング!」
「決めるわ…ルーラーズ・ジャッジメント!」
アルスの長剣を、眩い程に緑色の光が包み込む。翼と形容するに相応しい大きさとなった刀身で四度エネルギー球を斬り裂くと、止めに大きく振りかぶり、悪意の塊に10mはあろうかという巨大な緑の光刃を叩き付けた。しかしその前足の一撃をスノーがレイピアで弾き返し、お返しと言わんばかりに氷属性の光を纏ったレイピアで高速の突きを10発おみまいした。魔物の前足の一部がバキン!と欠けて吹っ飛ぶ。それでも抵抗をやめない魔物は大きく跳躍し、その重量をいかして全員にボディプレスを行った。
「ヒサメェ!」
吹っ飛ばされながらもレンは相棒であると共に好敵手でもある美青年の名を叫ぶ。それに応えるように白髪の青年は天高く飛び上がり、愛槍に純白のオーラを纏わせ魔物に放った。
「グルゥ!?」
「…崩れた!」
無防備な背中に深々と絶対零度の槍を突き刺され悶絶する魔物は体勢を大きく崩した。その機を逃すまいとヒサメはアルスとネヴィアに好機を告げる。魔物は悶え苦しみながらも何とか声のした方へと体の向きを変えようともがいている。
「行けるかい?ネヴィア?」
「勿論よ!ハアッ…!」
二人は一瞬で意思を疎通しこの機を逃さんと突進する。アルスが魔物の後ろ足に連続で斬りかかり、ネヴィアが数多の雷を降り注がせる。足をやられ、背中の翼も焼かれた魔物は意を決したのか二人に向き直り、口元に悪意の塊の黒々とした球体を束ね始めた。辺りの瓦礫が吸い込まれ、球体の中心で禍々しく渦を巻きながら巨大なエネルギー球の糧となっていく。
「グルオオオオオオアアアアア!」
技の後の硬直で動けない皆の代わりにアルスとネヴィアが阻止しようと疾走し、その黒き巨体に神速の斬撃と刺突を幾度も加え赤色に染める。しかし魔物は最期の抵抗をしようというのか発射体勢に強行した。
「くっ…ネヴィア!」
「行くわよアルス!」
発射まで見積もったところ残り5秒。アルスとネヴィアは互いに頷き魔物の頭部へ跳躍する。同時に二人は各々の魔法に光を纏わせ魔物の両目に深々と傷を付けた。
残り4秒。尚も魔物のエネルギー球の巨大化は止まる事を知らない。これだけのエネルギーを一度に放たれれば、いかにこの古龍の塔と言えども崩れて--
「そりゃあ!」「今です!」
硬直から立ち直ったレンとティールが二人の為にフォローをしてくれた。レンが上段から大きく剣を振りかぶり、アルスを叩き潰さんとする右前足を斬り落とした。エネルギー球が一瞬揺らぎ、そこにティールがありったけの魔法をこの一瞬で叩き込む。エネルギー球に当たった魔法は球体の表面を薄く削り、残りは辺りに跳弾していった。床の表面が削れた球体のエネルギーとティールの魔法で削がれる。しかし魔物は諦めず、頭を振り回してアルスとネヴィアを振り払った。残り3秒。
「……ハアアアアアア!」
「せやあああああ!」
ヒサメがこの一秒に全てを籠める。青い軌跡を描いた彼の斬撃は魔物のズタボロの外皮を斬り裂き肉まで到達した。そこにスノーが魔法で作った氷の矢を放ち、更に深い傷口を作る。
「グルオオオオオ!?」
限界を迎えているのだろう。しかし魔物は意地でもこの攻撃を完遂しようと怯んだ反動を逆に利用し二人を吹っ飛ばす。二人の体から鮮血が赤い軌跡を描いた。残り2秒。いや、2秒もない。
「はああああああああ!」
「せやあああああああ!」
頭から振り払われたアルスとネヴィアが再び頭に取りつく。最早この攻撃を止める術は無いのだろう。
ならば--
「これで終わりだ!奥義…エメラルド・ウィング!」
「決めるわ…ルーラーズ・ジャッジメント!」
アルスの長剣を、眩い程に緑色の光が包み込む。翼と形容するに相応しい大きさとなった刀身で四度エネルギー球を斬り裂くと、止めに大きく振りかぶり、悪意の塊に10mはあろうかという巨大な緑の光刃を叩き付けた。

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