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[一章プロローグ]
冬の寒空の下、一人の少年は足を縺れさせながらもなお走る。
『бмяплчмуэек!』
意味不明な音を発しながらチェーンソーを振り下ろしてくる機械人形には目もくれず、ただひたすらに、ひたむきに、ある場所だけを目指して走っていた。
「間に合え…!」
自らに言い聞かせるように低く言葉を発し、無くなりかけていた足の感覚を軽く殴って取り戻す。喉がカラカラに渇き、両手も冷えきっていてこちらも感覚が無く、服もズタボロ。それでも少年はただ1つの想いを胸に走り続け--
「!?」
そこで少年は驚きのあまり立ち止まる。
視線の先では高層ビル1つ分はあろうかという黒い巨龍が腮を開け--
「やめろおおおおおおおおおおおおお!」
少年の叫び虚しく、全てを滅ぼす怒りが解き放たれた…………
ある二人の神がいた。後に【創造神アルトリウス】【女神ギネヴィア】と伝えられる神々である。
その神々は、宇宙に自分達以外の存在がいない事を寂しく思い、銀河や太陽系等を造り上げた。
しかし、滑稽にも二人の神々は自らが創造した万物の広大さを想定していなかったため、移動や管理が次第に困難になってしまった。そこで神々は【神々の理】に定住し、宇宙の存続はなるがままに任せる事にした。
そんな神々が宇宙の成長を待つこと数億年…太陽系で最初に生命の誕生が見られたため神々は太陽系に定住し、生命の進化を見守る事にした。
しかし隕石の衝突により一部を除いた地球の生命が絶滅してしまったためこれを神々が悲しみ、自分達の子である【十二神】を設け、同時に人間、エルフ、魔族やドワーフを生み出し子供達に管理を任せた。
子供達【十二神】は【十二守護龍】と【十二霊獣】を産み出す事で自分達の手が届かぬところまで地上を治める事に成功。しかし人々同士の争いや、人々から魔族に争いを仕掛ける事態が絶えなかったので、人類に【呪い】をかけ、負の感情を捨てねば永遠に魔物と戦い続ける宿命を背負わせた。これが、人々の負の感情に呼応して魔物が増え、魔族に味方をするようになった仕組みである。
そして人々の愚かしさを見ても尚人々への愛情を捨てきれなかった神々は、ある一人の天才に【知恵】を与え、そのために我々が住む世界ではイギリスで初めて起きた[ソレ]ーー産業革命は、人類歴1744年のとある日、帝国の一人の科学者が皇帝に自らの研究成果を報告した事により巻き起こり、この世界ではより大きな騒乱を引き起こした。
これを読んでいる我々の世界とは違い、この世界の地球には『魔法』が存在していた。彼の発明した動力機関の数々は魔法と異常なまでの親和性を示し、人類は大いなる繁栄を遂げた。
しかしソレは同時に争いの火種をもばら蒔いた。動力機関の燃料や機械兵、新しい道路や建築物の材料等の資源を求め各国は争い、森は焼かれ、森と共にあり、機械を好まなかったエルフ族は衰退の一途を辿った。同様にドワーフ族も繁栄し過ぎた人類に己が生命線たる鉱石をとりつくされ、次第に姿を消していった。更に人類と長らく敵対してきた魔族も人類の近代兵器には対抗できず、異界の扉の奥へと身を潜め、各地の守り神であった人間界の守護龍は9頭中3頭死に、霊獣も姿を見せなくなり、氷龍は絶滅した。
同族同士の醜い闘いもようやく落ち着いたと思われた時、その【黄昏大戦】の際に出た有害な庠気や魔力の欠片がスライム等の魔物の発生及び進化を助長し、ある程度環境が回復した現在でも、人類は魔物に脅かされて暮らしている……
そしてそんな仮初めの平和を破壊するかのような出来事が中立王国エリュシオンで発生した。
時は人類歴1854年。エリュシオンは中立王国として、『国家は武装をせず、戦力を持たず、貿易を除いては如何なる国とも対立、不用意な協力はしない』という事を憲法及び国際法に基づいた宣誓にて制定しており、共和国と帝国が冷戦下にありながらも仮初めの平和を保っていられたのはこのためである。
しかしここで幾つか問題点が生じてしまうのだ。
考えてみてほしい。百年程前の大戦の影響で魔物が溢れるこの世界で、国家が武装をしないというのは如何なものであろうか?確かに外国との争いを避けるには絶好の取り決めであろう。しかし外国との争いを回避したいがために、『国内に出現する魔物への防御手段を国が【持っていない】ことになる』のだ。つまり国内で魔物が異常発生した場合、それを退治する術を国は持たない。しかし上流階級の貴族達は魔物に怯える庶民の気も知らず、『国家の戦力ではなく【私設の】戦力である』という理由で近衛隊を設立。庶民達全員を冒険者が救える訳でも無く、人々は国王や貴族への不満を募らせていた。
そんな時、【反逆の使徒】を名乗る一部の冒険者達が庶民を率いて蜂起し、革命を起こさんと政府に宣戦布告をし、戦いを始めたのである。国王率いる貴族連合、もとい政府軍はこれを貴族の【私設】近衛隊を持って鎮圧。後にこれを憲兵団として正式に設立。かえって規制が厳しくなり、貴族と一般市民との溝はより深まっていくのだった……
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