街なかの一等地にある都市公園を、より価値の高い公共空間に―。近年、公園に民間のノウハウを取り入れたり資本を投入したりと、より魅力的な施設へと再生する取り組みが各地で活発になっている。関西でも大阪市の「大阪城公園」や京都市の「梅小路公園」などが知られるが、近鉄不動産が大阪市との協定により管理・運営を行っている、天王寺公園エントランスエリア「てんしば」(大阪市)もその一つだ。
リニューアルオープンから2年6か月を迎えた18年3月29日には、総入園者数が1,000万人を突破!今回は近鉄不動産株式会社アセット事業本部ハルカス運営部の江並史朗さんと塩見圭大さんに話を聞き、ヒットの秘密を探った。
「あべのハルカス」開業目前の14年1月に公募に参加
きっかけは、大阪市による天王寺公園エントランスエリア管理運営事業の公募だった。時は14年の1月にさかのぼる。「当時は3月に『あべのハルカス』のオープンを控えていて、忙しい時期でした」と江並さん。しかし近鉄グループとしては、北は四天王寺、西は新世界、南はキューズモール、東はJR天王寺駅やあべのハルカスと、各所の中心に位置する天王寺公園の再整備は大きな魅力。
「阿倍野・天王寺エリアを梅田・難波に続く『大阪第3の街』としてより活性化させたい」と厳しい状況のなかでもチャレンジし、見事パークマネージメントを担当することに決まった。「リニューアル前、このエリアは入園料が必要でした。また施設の老朽化などもあり周辺エリアに比べてにぎわいが乏しかった」と塩見さん。以降は、それまでのイメージを刷新するという挑戦に取り組んできた。
街なかの憩いの場所として7,000㎡の芝生広場を整備
江並さんは「一番こだわったのはやはり芝生広場ですね」と言う。「当初、大阪市から求められていたのは、新たに整備するに当たって2,500㎡以上の芝生を中心とした多目的広場を設置すること。しかし、憩いの場としてより多くの人に利用してもらいたいとの思いで、芝生広場を最低条件の約3倍にもなる7,000㎡にしてみました。高低差を利用し、わずかに傾斜したすり鉢状なのが特徴。体が包み込まれるような、居心地のよい空間となるよう計算して設計されています」。
そんな工夫もあり、芝生広場はレジャーシートを敷いてお弁当を食べているカップルや、ゴロッと寝転がり仕事の合間に休憩をとっているサラリーマン、シャボン玉などで遊ぶ親子とさまざまな人で連日にぎわう、さらに魅力あふれる場所となった。
「グッドデザイン金賞」を受賞した低層の木造建築、実は…
ショップにもこだわった。レストランやカフェなどのほか、フットサルコートやドッグランを備えた総合ペットサービス店、室内あそび場と屋外あそび場を組み合わせた「ボーネルンド プレイヴィル 天王寺公園」を誘致。「芝生広場内は試合球を使用したサッカーやペットの入場はNGなんです。有料ですが、そういった遊びも楽しんでほしかったので」と江並さん。
実は、各ショップの建物建設には、スケジュールという点で大きな難関があった。「オープンまではあまり時間がなく、限られた期間で、どのようにしたら間に合うのか。さまざまな角度から検討しました。その結果、建築期間が短縮できる低層の木造にする」こととなった。その結果、全面ガラス張りで、建物内にいながら外にいるかのような開放感を味わえる木造の建物は、周辺の緑や、「あべのハルカス」をはじめ近隣のビル群と見事に融合。おしゃれでくつろげる街なかの憩いの場所として、多くの人々が集うことになった。
またそのデザイン性の高さと、街の活性化に対する取り組みが高い評価を獲得。16年度には先進性と社会性を兼ね備えた、暮らしや社会をよりよくすると認められた製品やサービスに贈られる「グッドデザイン金賞(経済産業大臣賞)」を見事に受賞したのだ。
参考にしたのはNYのブライアントパーク
ネットなどでは「ニューヨークのセントラルパークみたい」といった書き込みをよく見かけるが、塩見さんが足を運び参考にしたのは、実は同じニューヨークのマンハッタンにあるブライアントパークだとか。「タイムズスクエア近くにあり、オフィスビルに囲まれた、天然芝のきれいな公園なんです。文化の違いや、日本では禁止されているものもあり、そのまま再現というわけにはいかなかった。ですが、園内でゆったり食事できたり、イベントも多数行ったりしているところは『てんしば』でも参考にしています。実際に芝生広場の上空を滑空するジップラインや、ブライアントパークでも開催されたことのあるヨガイベント、盆踊りや、事前申込不要で参加自由の大運動会など多彩なイベントを行ってきました」。
来年に新施設がオープン予定! つねに進化を続ける
リニューアル前とは異なり、入園が無料になってもユニークなイベントを行い、園内の整備や警備まで運営に力を注ぐのは、ひとえに阿倍野・天王寺エリアの発展のためだ。「これからもつねに多くの方に来ていただくには、魅力ある施設を作り続けていかなくてはいけないと思ってます。さまざまなイベントを実施するのはもちろんなのですが、実は来年夏には天王寺動物園入口周辺のゲートエリアに新たな施設をオープンさせる予定なんです。内容はまだお教えできませんが、ぜひ期待してほしいですね」とのこと。“攻めるてんしば”からは、これからも目が離せそうにない。【関西ウォーカー】