1954年に誕生し、累計観客動員が1億人を突破しているゴジラシリーズ。近年はハリウッド版や『シン・ゴジラ』がヒット、アニメも展開中だ。近年ゴジラが再び元気になった理由を、東宝でゴジラ関連事業を統括する大田圭二氏に聞いた。
『ゴジラ』第1作は、社会問題となっていたビキニ環礁での水爆実験から着想。そのためゴジラは、核や冷戦などの暗喩に富む存在に (c)TOHO CO.,LTD. 2014年にワーナー提供、レジェンダリー・ピクチャーズ製作のハリウッド版が世界中で大ヒット。16年には庵野秀明を総監督に迎えた『シン・ゴジラ』が国内で興行収入82.5億円のメガヒットとなり、17年からはアニメ版の公開が相次ぐ。また、17年には初の公式グッズショップを新宿マルイアネックスにオープンした。
「きっかけは、14年のハリウッド版『GODZILLA ゴジラ』でした。全世界で約550億円、日本でも32億円を超える興行収入を記録したことで、社内が一気に盛り上がったんです。実は、東宝は04年の『ゴジラ FINAL WARS』から10年間、ゴジラ映画の製作を休んでいました。99年から毎年新作を公開したのですがマンネリもあり、動員減に歯止めを掛けられなかったんです。
休止中にキャラクターの使用権を付与して、できたのが14年の『GODZILLA ゴジラ』です。98年にもハリウッド版がありましたが、それから10年以上経っても、ゴジラを待っている人々が世界中にいたと喜びました。一方で、本家本元は何をやってるんだという考えにもなり、社内でプロジェクトが動き始めたんです」
■部署の垣根を越えて精鋭が集結
大田圭二 1989年、東宝株式会社入社。2010年に映像本部映像事業部長、13年に取締役に就任。17年より「チーフ・ゴジラ・オフィサー」を兼任している(写真:三川ゆき江) そうして14年に設立したのが、「ゴジラ戦略会議」、通称・ゴジコン(The Godzilla Strategic Conference)だ。部署の垣根を越えて精鋭が集められ、ゴジラの今後について、話し合いがなされた。
「14年にはレジェンダリーが<モンスター・バース構想>を発表し、19年にモスラやラドンが登場する『ゴジラ2』を、20年にはキングコングと対決する『ゴジラ3』を公開すると知らされていました。まずは、それまでの間を埋めるタッチポイントをどう作るか。そう考えた時、やはり映画を核として、周辺のビジネスを大きくしていく方法が王道だと思いました。
そして新作の実写とアニメの企画が動き出したのですが、どちらも公開までに時間がかかります。空白となる15年は、建設中の新宿東宝ビルの上にゴジラの頭を付けようと(笑)。これがかなり話題になりまして、今ではインバウンド客も含めた名所となっています。
16年には、実写の『シン・ゴジラ』を公開して大ヒットしました。17年はアニメ、18年はアニメの2章と3章を公開します。そして19年と20年はハリウッド版にバトンを渡し、21年以降も、最低でも2年に1本、できれば年1本のペースで途切れないようにゴジラ映画を公開していこうと、今、戦略を考えているところです」
(C) TOHO CO.,LTD. 「GODZILLA[2014] 〈東宝DVD名作セレクション〉」(DVD/税別2000+税/発売・販売元:東宝) (C) 2014 Warner Bros. Ent and Legendary. 今後のシリーズ展開で意識しているのが「シェアード・ユニバース」の手法だ。アイアンマンやハルクなどがクロスオーバーするマーベル映画のように、ゴジラやモスラ、キングギドラなどが1つの世界観を共有。それぞれが主役の映画製作もあり得るという。
「『シン・ゴジラ』がヒットしたから『シン・ゴジラ2』を作ろう、というような場当たり的な考え方ではなく、長期で通用するような世界観を考えて、ゴジラワールドを作っていきたい。そして例えばモスラがフィーチャーされた年には、モスラを中心に商品化も動く。商品化もフィギュアだけでなく、日用品からアパレル、ゲームなどいろいろありますからどんどんゴジラを利用していきたい。
実はこれまで、海外での商品化権はレジェンダリーとワーナーさんが持っていたんです。だから我々がゴジラのTシャツを作って海外で売ることも、スマホゲームを開発して世界で展開することもしていなかった。それを今後は、すべて自社でやるようになります。
これはけっこう大きな話で、例えばゴジラのテーマパークを、ロサンゼルスに作ってもいいかもしれない。新宿のゴジラヘッドを売り物にして、海外のホテルにくっつけるという展開も考えられます。
キャラクターライセンスについても、ゴジコン設立後、新しい方向性を打ち出してきました。それまでタイアップなどでゴジラを使用する時は、必ず単体でなきゃいけない、などルールがあったんです。でも今は、特に設けていない。ゴジラの魅力は強さや脅威だけでなく、ユーモラスなところもあるから、多様な側面を出していいのでは、という考え方になったんです。また、そうじゃないと幅広い層にファンが広がっていかない」
■キャラクタービジネスの核
近年、邦画業界で一人勝ちを続ける東宝。ドル箱の1つは『ドラえもん』などのアニメだが、それらは原作があり、東宝は著作権を持たない。また、製作委員会方式の映画では、ヒットしても実入りは各社に分配される。
しかしゴジラは、東宝が商標権を持つオリジナルキャラクター。しかも100%自己資金で映画製作してきたため、当たれば大きい。今後は海外でのキャラクタービジネスで、莫大な利益を生み出す可能性もある。ゴジラは東宝の永続的繁栄の鍵を握る、重要な存在だ。
「自社で100%IP(知的財産権)を持つのはゴジラだけ。リスクは高いですが、そのぶん自分たちですべてハンドリングできるので、ゴジラ映画で、100%出資を薄めることは考えておりません。
今後は、世界中の二世代、三世代で愛されるキャラクターにしていきたいですね。そのためにも、キッズに刺さるような絵本やアニメの開発にも力を入れたいです。
目標は、商品化権の国内市場規模を200億円以上にすること。今は150億ぐらいまで来てるので、2020年くらいまでには達成したい。そして東京五輪では、日本を代表するキャラクターとして、各国の人をお出迎えするようなことができたらと思っています」
(ライター 泊貴洋)
[日経エンタテインメント! 2018年4月号の記事を再構成]
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