ネットで拡散された情報の真偽を検証する、テレビ朝日の番組「ファクトリサーチTV」(関東地区で毎週土曜、深夜0時35分〜)が新年度から始まった。
BuzzFeed Newsの取材に対し、MCのいとうせいこうさんは「フェイクニュースは21世紀の大問題」と危機感を語る。
「言い張ったもん勝ちの世界に」
番組立ち上げのきっかけは、せいこうさんが2月にTwitterに投稿した文章だった。
前にも書いた「その週バズったニュースを検証し、フェイクかどうか示し、ネタ元まで遡る週末のテレビ番組」。テレビ関係者に「やって下さいよ」と言った時はその意義が伝わってなかったけど、今なら危機感を共有出来るのでは。誰がどこでやってもいいから、ひたすら事実に忠実にオンエアして欲しい。
せいこうさんは、当時の思いをこう振り返る。
「フェイクニュースが広がり、言い張ったもん勝ちの世界になりつつある。メディアもオルトファクト(もうひとつの真実)に太刀打ちできずに困っている。これって21世紀の大問題だと思うんです」
「そういう状況に対して、テレビも何かできるんじゃないかっていうのが、僕の切なる気持ち。この情報はマル、これはバツ、こっちは怪しいから三角――。そういう番組を週末にやってくれれば、と」
テレビにしかできない企画を
ツイートを目にしたテレビ朝日の芦田太郎プロデューサーは、すぐさま企画書を書き上げ、翌日には上司に提出した。芦田さんは言う。
「時代にマッチしており、ネットではなくテレビにしかできない企画。しかも既存のテレビ番組にない番組になる、と直感的に思いました」
「『誰がどこでやってもいい』とあったので、どこかに先をこされる前に一日でも早く出そうと考え、すぐに書いたんです」
トントン拍子に話は進み、4月15日に第1回を放送。筆者(神庭)も3回にわたってゲスト出演した。
「世論調査」「週休2日制と完全週休2日制の違い」などの比較的堅いテーマから、「吐き気にコーラが効くという情報は本当か」(※実際は科学的な根拠なし)といった身近な情報まで、検証内容は多岐にわたる。
「バラエティー班で大丈夫?」
「あいつ今何してる?」などの番組を手がける芦田さんをはじめ、スタッフは軒並みバラエティー畑の人間。社内の報道部門や専門家の協力を得ながら、試行錯誤を続けている。
せいこうさんも当初は「バラエティー班で大丈夫?」と心配していたが、徐々に良い面も現れつつある。
iPhoneの緊急SOS機能で命拾いをした男性を紹介した際には、本人に再現VTRに出演してもらった。バラエティー班ならではの柔軟な発想だ。
考え続けるテレビ
標榜するのは「考え続けるテレビ」。
情報の真偽を検証するという番組の性質上、ともすれば糾弾調・告発調になってもおかしくはないが、いたずらな個人攻撃に走らず、うまくバランスを取っている印象を受ける。
先週放送した「少年法の起源」をめぐる情報の調査では、検証結果を受けて投稿者がツイートを削除。「誤解を招きかねないので、番組と話したうえでツイート削除をいたしました」と報告した。
せいこうさんは「すごくキレイな終わり方。ひとつの理想形ができた」と手応えを語る。
限りなくリアルな口パク動画
第5回目となる5月12日の放送のテーマは、そのものズバリ「フェイクニュース」だ。
シリアで救出された少女をめぐるデマや、AIを使って音声ファイルとオバマ前米大統領の口の動きを同期させる技術を紹介。自身のつくったフェイク画像がTwitterで拡散した、日本の18歳の青年にも直撃取材している。
なかでも衝撃的なのはオバマ氏の口パク動画。あまりに自然で、人間の目でつくりものだと見抜くのは難しい。
こうした技術を悪用すれば、各国の政治指導者に「言ってもいないこと」をしゃべらせて、混乱や紛争の火種をつくることさえできてしまうかもしれない。
せいこうさんは「限りなくリアルなウソの前では『リアルか、リアルじゃないか』みたいな議論は問題にならず、『言い張るか、言い張らないか』になっていく。これはエライことですよ」と話す。
「ウェイト、1ミニット」
そんな時代に、メディアや視聴者はどのようにして情報と向き合うべきなのか。せいこうさんが提案するのが「ウェイト、1ミニット(1分待とうよ)」という言葉だ。
驚くようなニュースに接した時には、一呼吸置く。あわててリツイートやシェアをする前に、1分置いて頭を冷やそう。そんな思いを込めた。
「各局がニュースで一色の時も、テレビ東京はアニメを流してるでしょ。ひょっとしたら『本当かな?』ってフェイクかどうかチェックしてるのかもしれない (笑)」
あくまでたとえ話だが、大勢が雪崩を打って一方向に流されている時ほど、立ち止まって心のなかに「アニメ」を流してみる。それぐらいの冷静さが必要だということだろう。
「違う価値を置く、タメをつくるっていうこと。そういう意味でいうと、『ファクトリサーチTV』は『テレ朝内テレ東』的なところがありますよ」とせいこうさんは笑う。
「ネットの速報性に比べると、テレビはトロい。でもトロいからこそ、できることがある。こういう取り組みがもっと広がっていってほしい。そこで初めて、ネット以降のテレビの立ち位置が決まると思っています」
Ryosuke Kambaに連絡する メールアドレス:ryosuke.kamba@buzzfeed.com.
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