離島のスーパーっていろいろ大変じゃないですか? 八丈島に行って聞いてきた

謎のベールに包まれた、どうにも気になる存在がある。

そう、離島にあるスーパーだ。

学生時代に3年間、スーパーで品出しバイトをしてたから分かる。スーパーの仕事は大変だ。

ちょっとした規模のスーパーでも毎日何度も荷物が届き、たえず補充を繰り返す。

お昼どきや夕飯前は特に混み合い、レジも品出しもたくさん人手がいるし、精肉に鮮魚、総菜部門にも担当がいる。

都心にあっても、なお大変なスーパーマーケット運営。ましてや海をへだてた離島のスーパーは、品ぞろえを保つだけでひと苦労だろう。
 

 
船が欠航したらどうするの?

人口の少ない離島で商売が成り立つの?

そこんとこの疑問を東京の離島・八丈島にあるスーパー「富次朗(とみじろう)商店」にぶつけてきた。

この記事は、「東京の離島1ヶ月渡り歩きます会社」企画の第六弾、これが最後です!
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当たり前だけど、離島にもスーパーはある

八丈島は人口7,000人超の島。

離島のなかでは比較的人口が多いほうで、スーパーマーケットが複数軒ある。
「富次朗商店」は島内でも中規模の大きさだ。

富次朗商店がスーパーマーケットとして店舗の運営を始めはじめたのは30年前。それまでは個人商店として、乾物や一般食品や衣料品などを取り扱っていた。
 

品揃えは抜群。

「離島のスーパー」と耳にしただけでは、おばあちゃんがちょこんと店番してるような、のんびりした絵づらを思い浮かべるかもしれない。

が、富次朗商店は都内のスーパーとなんら変わりない。
 

唯一違う点をあげるとすればお総菜コーナー。
島寿司や芋ぞうすいといった八丈島の郷土料理が並んでいる。

インターネット天気予想とにらめっこ! 天候読めなきゃはじまらない

経営者の伊勢崎ファミリー。ご夫婦と息子さんで運営している

── 離島のスーパーってどんなところが大変ですか?

伊勢崎さん(以下、敬称略)
船の欠航がしんどいですね。賞味期限があるから生鮮品は一度にたくさん発注できないでしょ。1日でも欠航すると、棚がガラガラになっちゃいます。

── やはり海が大敵ですか。

伊勢崎特に1月2月は海が荒れる。3日連続欠航なんてザラですよ。

天気を予測して発注量をコントロールしなきゃいけないから、インターネットの天気予想とにらめっこよ!

── 天候読めなきゃ離島のスーパーは始まりませんね!

伊勢崎あ、ただヤマザキパンだけはどんなことがあっても運ばれて来ます! もう、新聞並みに意地でも運ばれてくる。

ヤマザキパンは欠航が続くと飛行機で運ばれてきますから。輸送費高いのにねえ。

── ヤマザキパン、すげえ!

伊勢崎うちも赤字覚悟で飛行機便を使うことはあるけど、その場合は輸送費を均等に振り分けちゃダメだね。

── どういうことですか?

伊勢崎たとえば、ジュース6本運ぶのに300円かかったとして、1本あたり50円も値上げしてたら誰も買わないでしょ。

そこは他の商品に割り振って、全体で採算をとります。長年の勘で「これは値上げするけど、これはしない」ってバランスが重要なんですよ。

── 離島のスーパーならではのノウハウですね。
 

── 段ボールをバンドでまとめてるのはなぜですか?船で安定するから?

伊勢崎輸送費が1箱いくらって計算なの。だから、なるべく箱を縛って1つにする。

運送屋さんには「重すぎる!なんでこんな縛り方するんだ!」って言われちゃうけどね(笑)。

自家製島たくあんが年間6,000本売れる!

── 島ならではの売れ筋ってありますか?

伊勢崎地元、八丈島産の野菜が売れるね。運賃かけて運んできた内地の野菜より、むしろ高いことだってあるのによく売れるね。

── え、意外。観光客が買うんですか?

伊勢崎いえいえ、お客さんはほとんど島の人。新鮮だから香りが違うんです。ちょっとくらい高くても新鮮な方を買おうってなりますよね。

── 島野菜と言えば、葉物野菜の「あしたば」ですよね。あしたばも売れますか?

伊勢崎売れますけど、あしたば販路の多様化で島内流通が減ってます。

いまは、内地の居酒屋に直送するってパターンもある。青汁とか加工食品の原料にするのもあるし。

特にここ2~3年、八丈島の市場の流通量はかなり減ってて、島外に出てってますね。出荷の最盛期では、前は200円でも「高いよ」なんて言われたけど、今は300円ぐらいが相場かな。流通量が減って価格上がってます。
 

── 大工さんが駐車場に骨組みを立ててたんですが、あれはなんですか?

伊勢崎島たくあんの干し台ですよ。冬の風物詩だね。あそこに大根をずらーって吊るすのよ。

2年物の島たくあん

── ああ、ぬかと塩だけで作る八丈島のたくあんですよね。

伊勢崎そう。それを年間6,000本作るの。

── ろ、6,000本!!大ヒット商品ですね!

伊勢崎毎年売り切れちゃう。島の居酒屋さんとかもうちの島たくあんを使ってるよ。

── は~、スーパーでもあるし、島たくあんメーカーでもあるわけですか。

1万冊以上のマンガと本が集まるカフェもやってる!

スーパーの向かいにあるカフェ「むかしのとみじろう」

1万冊を超える本が読み放題のリラックス空間だ

スーパーの道路を挟んだ向かい側で「むかしのとみじろう」というカフェも営業している。オープンは6年ほど前で、主に息子さんが運営担当しているという。

「むかしのとみじろう」という店名は、こちらが個人商店時代の店舗であることに由来している。カフェ開業前は、島たくあんの保管場所だったそうだ。

棚にぎっしり詰まった本の半分は、お客さんからもらったもの。置き場に困ったマンガや趣味本がどしどし集まり、総数1万冊を超えている。

マンガ喫茶感覚でまったりソフトクリームやコーヒーを楽しめる空間だ。

運営担当の伊勢崎唯さん

── なぜ、スーパーだけでなくカフェをやろうと?

伊勢崎いちおうカフェじゃなくて休憩所と名のってます。林道ハイキングの入り口がすぐそこにあるから、そこ行く人が休憩できればなって。

最初はソフトクリームしか売ってないストロングスタイルの休憩所でしたね。

スタッフさんに「やりたいことやっていいよ」って任せていったら、だんだんメニューが増えてきました。
 

オススメのプロレス本は「1964年のジャイアント馬場」

── ストロングスタイルといえば、やたらここ、プロレス本多くないですか?

伊勢崎あ、僕の本です! プロレス好きなんで。今年はいままでで一番、UWFについて考えた年でした。

── え、UWF?

伊勢崎前田日明が設立した団体ですよ!

「八百長だ!」って虐げられたプロレスファンの気持ちを、前田は汲んでくれたんじゃないかとか……

【20分におよぶプロレス話中略】

……というわけでスーパーのことよりプロレスのことを厚めに載せてもらえませんか?

── 週刊プロレスじゃないんで無理です!
 

 
── 島で新しい店がオープンしたら、すぐ全島民に知れ渡るもんですか?

伊勢崎そんなことないですよ。八丈島って言っても7,000人いるんで案外知られてなくて。

開店当初の売り上げは1日600円とかそんなもん。2年間は耐え忍んで営業しました。

いまでは住民の憩いの場になってますね。土日には必ずやって来て子供を遊ばせながら、誰かとしゃべるみたいな。

── 島民のためのコミュニティースペースを作りたかったんですか?

伊勢崎いやあ、そんな大層な大義をかかげてるわけじゃなくて、楽しいからやってるだけですよ!

── 唯さんはずっと島暮らしですか?

伊勢崎いえ、高校を卒業して島を離れました。大学卒業して会社員を5年くらいやってから戻ったので、もう15年経つかな。

東京だとゼロから始めないといけないけど、島なら何やっても「富次朗商店です」で分かってくれる。顔と名前で誰とでも話できるのがいいですね。

休憩所に飾られていた。ジャムおじさん宅に潜入捜査するピーポくん

便所サンダルの専門店を開きたい

海水浴客に人気のギョサン。伊豆諸島、小笠原諸島が発祥とされる

── ギョサンや便所サンダルも売ってますね。ほかのお店と比べても種類が豊富……!

伊勢崎マーブル柄のレアな便サンとか、他の店でも取り扱いたいって話があったみたいですね。でも「一番長い取引だから」って、ここだけで置かせてもらってます。

夏のシーズンなら500〜600足は売れるかな。

── 今後、こうしていきたいっていう展望はありますか?

伊勢崎便所サンダルのお店を作りたいですね! ウェブショップはあるようですけど、リアル店舗の便所サンダル店はないので。

あとはまあ、続けることですね。小さい頃は何も思わなかったけど、毎日店を開け続けるのは意外と当たり前じゃないんだ、って。

やり続けるって大変なことだよな、と。実はそれが一番すごいことですよね。

まとめ

・インターネットの天気予想、超重要! 天気を読む力が問われる。
・船の欠航が最大の敵。
・ヤマザキパン、すごい。
・たくあんを卸してたり、カフェも運営してたり、離島のスーパーはいろいろやる。

謎のベールに包まれていた離島のスーパーだったが、疑問がすこし解消できた。

以上のポイントを踏まえて、離島めぐりをすると発見があって楽しいですよ!

取材・編集/松澤茂信(別視点)+プレスラボ
写真/斉藤洋平(別視点)