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政治・社会

2016年09月08日 07:02

2分割的発想は思考の退化、人間の幼児化!(3)

青山学院大学 特別招聘教授 榊原 英資 氏

 日本社会の屋台骨が今さまざまな局面で、次第にしかも加速度的に崩れている。指導層の質が低下し、明らかに視野が狭くなり小粒になった。それは政治家も企業経営者も、ものごとを多面的に見ることができなくなり、幼児化したことを意味する。話題の書『幼児化する日本社会』(2007年7月、東洋経済新報社)に続き、近刊『幼児化する日本は内側から壊れる』(16年4月、同社)を著された元財務官・青山学院大学特別招聘教授の榊原英資氏に聞いた。

(取材日:7月12日)

若者の知的レベル低下の片棒をかつぐIT企業

 ――先生は企業経営者に関しても、幼児化が進んでいると言われています。

phone 榊原 現在、スマホ・携帯やインターネット、ゲームなどに関して、企業は子どもにまで対象を広げ商売をしています。この現象は日本に特徴的であって、諸外国ではあまり顕著ではありません。なぜこんなことができるかと言うと、日本の親は子どもに甘く、子どもがかなり高額な支出ができるからです。そこで、IT企業は利益至上主義で、ユーザーの対象年齢をどんどん下げ、小学生にまでスマホを持たせようとしています。このように子どもや若者相手に新製品をどんどん投入した結果、今、何が起きているでしょうか。

 日本は、サブカルチャーが強いと言われています。それはそれでいいでしょう。しかし、サブカルチャーが妙に発達しすぎると、知的なものに対する関心が失われていくのです。わかりやすく言えば、若者はサブカルチャー的な情報にどっぷり浸かりすぎると、知的な関心をどんどんなくしてしまいます。つまりIT企業は、日本の若者の知的レベルを低くする片棒をかつぐ結果になっているのです。

 消費者の潜在的な欲望を見つけ出して需要を喚起することは、もちろん企業の重要な機能です。しかしそこに、「これはやってはいけない」というある種の見識やパブリックマインドも求められるのではないでしょうか。
 社会は法律とともに、法的に強制されたものでない見識やルールによって形づくられています。それを企業が率先して破っているところがあるのではないでしょうか。
 利益至上主義で、モラルを問われるようなことをした企業は、「法律には違反していない」と主張します。訴訟になれば、たしかにそれが基準になります。しかし、それとは違ったモラルがあるのではないでしょうか。それが見識であり、品性、そして大人の振る舞いです。それらは、どこかではっきりと線を引けるものでないため、見識や品性のない企業はどうしても出てきます。経済団体は、そのような企業を会員として認めなければいいのです。

 私は基本的には、規制は緩和していくことが望ましいという考え方をしています。しかし、それは分別のある大人の話で、判断能力が未熟である子ども相手の商行為については、当然、国がある一定の規制を設けるべきと考えます。

先進国で目立つ、社会の幼児化

 ――日本社会があらゆる分野で幼児化していることは、だんだんわかってきました。しかし、英国のEU離脱後の国民を見ていると、幼児化しているのは日本だけでないような気がしています。この社会の幼児化は、世界的な傾向ですか?

 榊原 社会が幼児化しているのは世界的な傾向です。とくに先進国で目立ちます。これも皮肉なことですが、成熟社会というのは、ある種の幼児化をする側面を持っています。世界的には、「トランプ現象」と言ってもいいかもしれません。アメリカ大統領選の共和党候補者のドナルド・トランプ氏が2015年末、イスラム教徒がアメリカに入国するのを当面は全面禁止すべきだという声明を出しました。その発言はアメリカ国民だけでなく、世界から批判を浴びました。しかし、その一方で、共和党支持層のなかでのトランプ氏支持率は、この声明後に上昇し,4割に達したと報じられています。

 トランプ氏のやり方は人々の不満や反感、恐怖に訴えて、既存の体制を攻撃し、自分の人気を上げる、典型的なポピュリズムです。アメリカでは、グローバリゼ―ションの影響で中間層の仕事が減り、これまでの生活水準が維持できなくなっています。一方で、高所得層への富の集中が進み、人々は格差の拡大を目のあたりにしています。また、国民の間で、キリスト教が主流であるため、もともとイスラム教によい感情を持っていない人も多くいます。トランプ氏はスピーチでテロや暴力の恐怖を取り上げながら、潜在的にはそういう感情に訴えています。
 アメリカは極めて特殊な国なので、トランプ現象がかなりドラスティックに起きました。幼児化は世界的な傾向ですが、ひどい国とひどくない国があります。今のところ、日本はひどい国に属しています。その日本が先進国として学ぶべきはヨーロッパのイギリス、ドイツ、フランスなどだと思います。ヨーロッパでは、まだエリートとか専門家をリスペクトする風潮が残っており、その専門家としての判断を大切にしています。

(つづく)
【金木 亮憲】

<プロフィール>
sakakibara_pr榊原 英資(さかきばら・えいすけ)
青山学院大学特別招聘教授。(財)インド経済研究所理事長。1941年生まれ。東京大学経済学部卒業。大蔵省入省後、ミシガン大学で経済学博士号取得。IMFエコノミスト、ハーバード大学客員准教授を経て、大蔵省国際金融局長、財務官を歴任。2010年より現職。著書として『幼児化する日本社会』、『強い円は日本の国益』、『幼児化する日本は内側から壊れる』(東洋経済新報社)、『財務省』(新潮新書)など著書・論文多数。

     

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