レジェンド声優インタビュー
田中真弓[少年キャラ編]
arranged by レジェンド声優プロジェクト
アニメ黄金期の立役者である「レジェンド声優」と、自らもレジェンドである声優・古川登志夫さん、平野文さんによる濃密トークをお送りするレジェンド声優インタビュー。今回は、2年越しのオファーが遂に実現! 『ONE PIECE』や『ドラゴンボール』『おそ松くん』『天空の城ラピュタ』など、数々の国民的アニメで魅力的な「少年」を演じてきた田中真弓さんにお越しいただきました。田中さんが語る、少年役の魅力、そして苦しさとは……?
少年役以外やらせてもらえないのが悩み?
- 平野文:
(以下、平野) -
さて、真弓さんと言えば、マコさん(編集部注:孫悟空役・野沢雅子さんの愛称)と並ぶ少年役の名手。少年役をやり始めたのは『ダッシュ勝平』(1981年)から?
- 田中真弓:
(以下、田中) -
それまでもちょこちょこやらせてはいただいてたんですが、田中真弓=少年役と皆さんに認識されたのは『ダッシュ勝平』が最初だと思います。
- 平野:
-
でも真弓さんは、声優として活躍し始めてからも、舞台女優を続けていたのよね?(編集部注:田中さんはテアトル・エコー所属の舞台女優としてデビュー後、1988年には劇団「おっ、ぺれった」を結成するなど、演劇の世界でも精力的に活動されていました) 少年役ばかりやらされることに対して抵抗はなかったの?
- 田中:
-
そんなことは全然なくて、少年役は楽しくやってはいたんだけど、ちょうど『おそ松くん』(1988年)の頃かな、お芝居を観たお客さんのアンケートに「チビ太が女装をしていて気持ち悪かった」って書かれたことがあって……。私って、基本的に地声で芝居をやるもんだから、『おそ松くん』を観ている人からすると、30代の女がチビ太の声で喋っているように聞こえちゃうみたいなんです。
- 平野:
-
真弓さんの声が少年の声として定着してしまったがゆえのギャップですね。
- 田中:
-
当時は、チビ太やクリリンに自分の声が取られたような気持ちになりましたね。自分は舞台俳優のつもりでいるんだけど、その声を聞くと、皆が違う絵を思い浮かべてしまうという。この先どうしたらいいんだって迷った時期がありましたよ。
- 古川登志夫:
(以下、古川) -
売れっ子ならではの「壁」だよね。
- 平野:
-
じゃあ、真弓さんとしては、少年以外のキャラクターもやりたくなったんじゃない?
- 田中:
-
やりたかったですね。だから、仲の良いディレクターや、事務所のマネージャーにはオーディションでも良いから、おばさんの役、大人の女の役に挑戦させてくれってずっと言ってました。
- 平野:
-
等身大の田中真弓ができる役をやらせてくれ、と。
- 田中:
-
ところがそれに対する返答は、「少年役だと必ず真弓くんの名前が挙がる。でも、おばさん役に君の名前は挙がらないんだよ。そして、自分が挙げようとも思わないんだよ」で……。
- 古川:
-
そもそも、イメージできなかったのかも?
- 田中:
-
おばさん役といえば、当時は片岡富江さん(『オバタリアン』絹代役など)、青木和代さん(『ドラえもん』ジャイアンの母役など)でしたからね。私としては落とされても良いので、せめて受けるだけでも……という気持ちだったんですけど、ダメでした。
- 平野:
-
受けさせてすらもらえない……。
- 田中:
-
でも、そんな話をほうぼうでしていたら、どこかでそれが『ONE PIECE』(1999年)の原作者である尾田栄一郎先生の耳に入っちゃったらしくて……。ルフィ役をいただいた時に、「田中さんにはお願いできないと思っていました」なんて言われたことがありました。私としては、おばさんの役「も」やりたいよってくらいのつもりだったんですけどね。
- 平野:
-
でも、逆に言えば、少年役こそ、限られた人にしかできないわけじゃない。声質とかセンスとか、できない人には絶対できないでしょう?。