過疎地域 弁護士確保の課題
弁護士がいないもしくは1人しかいないいわゆる「ゼロワン」地域では、日本弁護士連合会が18年前から公設の法律事務所の設置を支援して常駐する弁護士を派遣する取り組みを進めてきました。
北海道でも若手の弁護士が毎年2、3人のペースで派遣され地域の司法サービスを担ってきましたが、最近、過疎地への派遣を希望する弁護士が確保できない事態が起きています。
9日札幌市内で将来、弁護士を目指す学生たちを集めた説明会が開かれました。
主催したのは地元の弁護士会です。
道内の過疎地域で働く弁護士のなり手が必要だと訴えました。
日弁連が設置する公設の法律事務所は現在、道内に12か所あります。
過疎地での勤務を希望する弁護士は札幌の事務所で研修を受けたあと各地に派遣されます。
派遣期間は2年から3年。
任期が終わった事務所に毎年2、3人の若手弁護士が派遣されてきましたが、このところ応募者が減少し昨年度は1人しかいませんでした。
なぜ人が集まらなくなったのか。
過疎地で働くある弁護士の仕事ぶりからその理由が見えてきました。
人口およそ7000人の本別町では、3年前、公設の法律事務所が開設されました。
赴任した渡辺紘生さん(34歳)は帯広出身。
都会ではなく、身近な住民の役に立ちたいと3年の任期でこの事務所への派遣を希望しました。
当初は相談者がいるか心配でしたが、すぐに不安はなくなりました。
刑事事件の弁護や債務整理の相談、さらには役場への法律アドバイスなど求められる仕事は多く、やりがいを感じていました。
「大きな事件は少ないが、いろんな経験を積むことができる」と話します。
その一方で、人口の少ない地域で弁護士事務所を運営するのは想像以上に厳しいものがありました。
依頼される仕事のほとんどが報酬の少ない小さな事件です。
このため引き受ける件数を増やさなければなりませんが、仕事を増やせる状況にはありません。
担当する刑事事件の被告と10分ほど面会するのに帯広刑務所まで出向くだけで、片道1時間半の距離を移動します。
また、民事裁判もほとんどが地裁の支部がある帯広で開かれるため週に4日は、移動に大半の時間を割かなければなりません。
事務所に戻っても雑務に追われます。
公設の法律事務所とはいえ、運営する費用はすべて自分で賄うのが原則です。
思うように報酬を増やせないため少しでも経費を浮かそうと事務員は週に3日しか雇えません。
日々の電話対応や郵便物の発送、来客の対応まで1人で背負う負担は大きく、引き受ける仕事の件数をなかなか増やせないのです。
そんな渡辺さん、3年の任期が今月で終わります。
今後は過疎地での経験をいかし公務員への転職を考えていますがまだ後任はみつかっていません。
「生活だとか将来設計とかあるので後任が来ないという不安をもつというのは大変です。応募者が減る原因になる」と渡辺さんは話していました。
過疎地に赴任を希望する弁護士が少なくなった背景にはここ数年、弁護士のなり手が一時期に比べて減少し、都会の事務所に就職しやすくなったことも原因となっています。
このまま希望者が減り続けると公設事務所の任期を終えた弁護士も後任が決まるまで居続けなければならず、ますます希望者が出なくなる悪循環に陥ることにもなります。
公設事務所はこれまで過疎地の勤務を希望する弁護士の熱意だけで支えられてきましたが、それだけでは限界を迎えています。
例えば、移動距離に応じて手当てを増やすとか、事務員を無償でつけるなど、弁護士会は現場の苦労を減らす、具体的な対策を急ぐ必要があります。