前回は、疲れの感じやすさには個人差があること、自律神経の機能は加齢とともにどんどん低下してゆくことをご説明しました。
しかし、日頃の運動によって筋力の低下を遅らせることができるのと同じように、自律神経の機能低下を食い止めたり、維持したりすることは、決して不可能ではありません。
今回は、「疲れをためない生活をする」具体的な方法について解説しましょう。
自律神経の機能を正常に維持するために最も心がけてほしいことは、自律神経を酷使しないこと、すり減らさないことに尽きます。とはいえ、仕事や勉強を一切やめてしまうのも、現実的とはいえません。
そこで有効なのが、少しでも「疲れた」と感じたら、すみやかに休息を取ることです。
多少疲れを感じても、そのときすぐに適度な休息を取り、疲れをリセットしてやれば、疲れが蓄積することはありません。自律神経のダメージは蓄積してゆくものですから、一つ一つの疲れを最小限に食い止めることが重要なのです。
このメカニズムは、「日焼け」を例に考えればわかりやすいかもしれません。
3日間、南の島に出かけて日焼けしたとします。一時的に肌が傷み、皮がむける人もいるかもしれませんが、1週間もすれば、ほとんどの人がもとの状態に回復します。
ところが、その南の島に生まれてからずっと住んでいる農家の人の場合、一年中毎日のように日焼けしているので、肌が回復する暇がありません。すると肌のダメージはリセットされることなく蓄積してゆき、しわが増え、やがて実年齢より老けて見えるようになってしまいます。
同じようなことが、私たちの脳の中でも起きています。自律神経が酷使され、細胞がダメージを負っても、ある程度は回復できますが、蓄積されたダメージによって細胞が死んでゆく状態ーーつまり「疲れ」が「老化」に転化してしまうと、もはや回復できなくなってしまうのです。
言い換えれば、「疲労を放置していると早く老ける」ということです。疲労も老化も「酸化ストレス」が原因という点では同じメカニズムですから、疲れが長年にわたって蓄積されている人ほど、早死にのリスクや認知症になるリスクなどが高まります。
「疲労」が「老化」に変わり、取り返しがつかない状態にならないためにも、疲れを感じたら必ず休息をとりましょう。平日は無理をして、土日に寝だめする、といった生活はご法度です。疲れをため込まないことが、何より重要なのです。
さて、「疲れたら休む」ことの重要性はおわかりいただけたでしょうが、ひとつ厄介な問題があります。疲れを自覚しにくい状況に置かれている人や、もともと体質的に疲れを感じにくい人はどうするのか、ということです。
何らかのタスクをこなした結果、「自分はいま、疲れているな」という自覚を持つかどうかは、そのタスクに感じている意欲の大きさと逆相関しやすいことがわかっています。
仕事で結果が出なかったときや、周囲や世間が成果を認めてくれなかったときは、どっと疲れが出るのに、結果が出たときは全然疲れを感じない、というようなことは、きっとビジネスマンなら多くの人が経験しているはずです。
また、日頃から「仕事が生きがい」と考えている人や、仕事に対する意欲が高すぎる人の場合は、自分の疲れをきわめて自覚しづらい状況にあるといえるでしょう。