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【代表主侍医のつぶやき】2010/5

主侍医冥利のお話
 
メンバーのHさんのご紹介で昨年、主侍医倶楽部のご契約をいただいたSさんのお話をさせていただきます。勿論、Sさんからは了解いただいております。「実名でお載せいただいてもよいですよ。」とまで言っていただき感激しています。長くなりますが、肺癌の病気のことの勉強や、主侍医の活用の仕方などの参考になると思いますので、辛抱強くお読みいただければ幸いです。
 
Hさんは、長年法人メンバーとして、私どもを応援いただいている方です。昨年のある日、「仲の良い大切な仲間がいるんだけど、医者嫌いなんですよ。でも、そろそろ歳だし、20年間も人間ドックもしていないようなので、取り敢えず人間ドックの相談をしてあげてくれますか?」と依頼されました。
最初、Sさんとお会いしたときも「お医者さんはおっかなくて。何を言われるかと思うとドキドキして。人間ドックも怖くて行けませんでした。でも、Hさんに勧められて、思い切って参りました。」とのことでした。
ほとんど初めての人間ドックでしたので、内容が盛りだくさんのドックを四谷のクリニックで行うように手配しました。(この間のスタッフとの触れ合いからご信頼をいただき、この時点で「主侍医倶楽部にも入会したい。」とのお申し出をいただきました。)
結果の報告が来て、我々担当主侍医笹部ドクターとともに内容を再確認すると、数個の軽い問題点があり、それぞれに対処するプランをたてて、Sさんと面談することとしました。12月28日と年の暮れ押し迫った時でした。それぞれの問題点につき、専門医への紹介、当院での経過観察などのお話です。その問題の中のひとつに「胸部CTで、左肺の上部に1cmのGGOと呼ばれる腫瘤陰影。」がありました。一般的には、癌の可能性も低く、まずは慎重な経過観察というところです。従来から医者嫌いのSさんですから、あまり怖がっていただいては申し訳ないし、いざという時の決断が遅れることにもつながります。そのために、まずは、より軽度な問題点について安心できる対策を説明し、面談に慣れてきたところで肺のお話をすることにしました。まず伝えたいことは、肺癌の専門医の監視下に入っていただくことです。
私どもがお付き合いいただいている、肺癌の診断や治療の専門家は数名おりますが、その中で山王病院のOドクターにご依頼するのがSさんにとって総合的によいのではないかと予測したうえで、他の選択肢も用意し面談しました。「先生方のお薦めのO先生にお願いしたい。」「分かりました。では、O先生にご紹介します。まずは人間ドックの時のCTを見ていただいて意見を聞きましょう。」
四谷のクリニックにCTのデータのCD-ROM作成の依頼をし、年明けすぐの1月7日、Oドクターの診察の予約の手配をしました。「年末年始はこのことを忘れて楽しんでください。」
1月7日、Oドクターの意見は、「10mmのGGOで、大きさや場所から悪性の可能性を調べるために、胸腔鏡下の切除(VATS)も視野に置いて、まずは2、3ヶ月後の検査で比較読影しましょう。」ここまでくるとSさんも相当心配しているはずです。笹部ドクターと「Sさんには安心感を与えつつ、最善の方策を模索していきましょう。」と話す。
実は、Sさんは、2月にハワイで過ごす計画をたてていました。「丁度良かったです。次の検査までやきもき心配しているより、ハワイで思いっきりゴルフを楽しんできてください。肺は悪性の可能性は低く、あったとしても超早期ですから心配はご無用です。」「先生方を信頼しています。」
ハワイから戻られて、3月4日にOドクター再診。「今回のCTでは、GGOの大きさに変化なし。今すぐVATSでも、3ヶ月後の経過観察でもどちらでもよい。癌の可能性は少ないが、癌ではないと断言できない。癌でないことを確認する目的なら手術(VATS)を勧める。」との説明を受けて「寺下先生と相談して決めたい。」とお答えされました。
3月10日、我々との面談。その間、Oドクターからの報告もあり、上記Sさんへの直接説明に加えて「最近は最終的に患者さんの満足度が高いので、VATSを積極的に行っている。」とのコメントもいただく。奥様を同伴されたSさんとの面談前、30分以上をかけて担当の笹部ドクターと菊地マネージャーも交えて、
どういうふうに今回の医療決断を支援していくか検討。Sさんが、手術を恐れるなら、今の段階では経過観察の選択もあるかもしれないことを念頭に面談しましょう、となりました。

面談ではまず、「心配で夜も眠れないですよね。」とスタッフ一同共感した上で、「思い切ってVATSをするのも、3ヶ月経過をみるのもどちらも安心できる選択です。」ということを基調に話を進めました。Sさんは、出来うるなら手術を避けたいと思っているだろうと、予測しての面談でした。ところが面談を進めていく中で、Sさんは手術をする覚悟をしているのではないかと感じ、それなら我々もより安心できるVATSをするという判断の優先性を上げるという方向性にシフトしました。「実は、心の中では思い切って手術をしたほうがいいかなと覚悟をしながらも迷っていた気がします。しかし、今はっきりと決断できました。先ほど、先生方が言われたように、手術をして悪性ではなかったら、それはそれで嬉しいし、悪性だったら早く見つけていただいてよかったとどちらの結果がでてもよかったと思える気がするからです。決断が出来てすっきりしました。あとはお任せするだけです。」
このSさんの言葉を聞いて、実は、涙が出るくらい嬉しく思いました。「結果の如何に関わらずよかったと思っていただけるような決断の支援ができることが医療判断の真骨頂、そのような関係こそが主侍医倶楽部の真髄」という僕の思いそのものだったからです。普通は「悪性でなければ、余計な手術を勧められた。悪性であれば、3ヶ月の経過観察などせずに、年明けすぐにでも手術をしてほしかった。」となるのが人情です。でも、そういわれると我々も生身の人間、とても悲しくなり主侍医稼業を続けていけるかどうかいつも悩むところでもあるのです。
そして、翌々日の3月12日、Oドクターの再診を予約し、決断をお話しされ、同月23日入院、24日手術というスムーズな予定となりました。ところが、24日当日、VATSと呼ぶ、胸腔鏡による部分切除の予定でしたが、手術中に腫瘤の迅速病理診断を行ったところ、悪性細胞がみつかり、急遽、開胸による上葉切除術に変更することになりました。数時間の予定の手術が一日がかりとなり、ご家族も心配されましたが無事終了。それでも29日には、ドレーンなどの管も抜けシャワーも可能だし食欲旺盛。4月1日には退院となりました。
退院後の4月7日、Sさんが奥様とお元気な姿でご挨拶に来られました。その際、Oドクターと「手術をしてよかったですね。でも毎年あのような精密人間ドックをしていたお陰でしょう。」「いえ、今回が20年来初めての人間ドックでした。」「えっ?それはなんと運の強いお方なのでしょうか!」という会話があったことをお聞きしました。
「Sさんの強運と、それを支えてくれたご友人Hさんの温かい思いやりのお陰です。我々に対し厚い信頼をしていただいたことで、よりスムーズに進みました。主侍医冥利につきる出来事で、こちらからこそお礼を言いたい気持ちです。」と心からお喜びしました。

事実に基づいて、長いお話をしました。主侍医とクライアントの皆様の関係の理想的な出来事でしたし、Sさんのご快諾を得ましたので、日頃の我々の活動の一端をお知らせするよい機会と思いご紹介させていただきました。主侍医の活動はともすれば非常に困難で辛いことが多いのですが、このようにお役に立てた時は喜びもひとしおです。僕も今年は57歳ですので、後輩の育成や継続性のあるプライベイトドクターのシステムの構築を進めていきたいと思っております。今の形の主侍医の新規ご契約を制限し、もう少し軽い形で医師側も参加しやすく、またクライアントの方の負担も軽減できるようなシステムの運営を進めていきたく考えております。皆様からの更なるご支援をいただければ幸甚でございます。

作成:2010/04/28

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