京都アニメーションの最新作であり、現在公開中の映画『リズと青い鳥』。その主題歌に抜擢されたのが、京都在住の4人組バンド・Homecomings。映画は牛尾憲輔が劇伴を務め、その完成度の高さや緻密さも話題になっているが、Homecomingsの手がけた主題歌「Songbirds」は、エバーグリーンなギターポップで、エンドロールを甘酸っぱく彩る名曲に仕上がっている。今回リアルサウンドでは、同バンドの畳野彩加(Vo/Gt)と福富優樹(Gt/Cho)へインタビューを行い、バンドと映画の切っても切れない関係性や、主題歌制作の裏側、Homecomingsの現在地まで、じっくりと話を聞いた。(編集部)
「山田監督が<Rough Trade>のトートで来たので『おや?』と」(福富)
ーー映画『リズと青い鳥』の主題歌である「Songbirds」のお話の前に、まずはHomecomingsと映画の関係性について聞きたいと思います。福富さんと畳野さんはかなりの映画好きでもあって、自分たちの世代よりはるか昔の映画から見ていますよね。映画の主題歌は一つの目標ではあったんですか?
福富優樹(以下、福富):スクリーンのエンドロールで自分たちの曲が流れるというのは、いつか体験したいと思っていました。ただ、それはやりたくてできることではないので。今回こうやってお話をいただけて、めちゃくちゃ嬉しかったです。
ーーでも、アニメ自体はそこまで通ってきてないですよね?
福富:そうですね、僕や畳野さんはそんなにアニメを見ないので。Pixarの作品は見るし、『デジモンアドベンチャー』は直撃世代だったりするんですけど。
畳野彩加(以下、畳野):私も、あまりアニメ映画は見ないですね。
福富:でも、ベースの福田(穂那美)がアニメ好きで、『リズと青い鳥』と同じ原作である『響け!ユーフォニアム』は、TVアニメも劇場版も見ているんです。
ーー今回、京都アニメーションの最新アニメ映画で京都のバンドである4人が起用されたのは、とても良い縁を感じるのですが、オファーの経緯はどういったものでしたか。
福富:ある日突然、レーベルへ「Homecomingsに主題歌をお願いしたい」という連絡をいただいたんです。僕たちも最初は「これ、本当かな?」と疑ったり舞い上がったりして、実際会ってみるまでは信じないようにしていたんです(笑)。そこから山田尚子監督と初めてお会いすることになったんですが、監督が<Rough Trade>のトートバックで来たので、僕らは「おやおや?」と。
ーー「もう大丈夫だろう」と思ったわけですね。
福富:「そういうことですね、なら話が早い」と(笑)。グラスゴーの音楽の話やイギリスのバンドの話で盛り上がって、僕らのこともずっと好きでいてくれてると言ってもらえたりして。今までの音楽を聴いたうえでオファーしていただいているというのをひしひしと感じましたし、だったら今まで通り、変に気負わずにやるべきだなと思いました。
ーーでは、楽曲制作にあたっては、特段この作品だから、こういう機会だからということも意識せず?
福富:とはいえ作品ありきのものなので、歌詞やサウンドには物語と関連する意味合いを持たせたいと思って作りました。
ーーサウンドの部分でいうと、最初の2声のコーラスやツインギターによる絡みなどは、まさに作品のテーマを表しているのかなと感じました。
福富:その通りです。脚本を読んで感じたのは、“2つの線”というテーマだったので、それを元にしようと。線が続いていて、近づいたり離れたりするその繊細な距離感を描いているように感じたので、そんな世界観を歌詞だけじゃなくてサウンドでも表現したいなと思いました。
ーー冒頭にはメトロノームの音が使われていますよね。
福富:そうなんです。吹奏楽部のお話なので、それっぽい音をと思って入れたんです。自分たちでは「ちょっとやりすぎかな?」とも思ったのですが、これは監督にお任せしようと、ありバージョンとなしバージョンを提出して、最終的に「メトロノームありのバージョンでいきましょう」ということになりました。
ーーでもそれがエンドロールでの演出にもつながっていて、個人的にはすごく良かったです。
畳野:そうなんですよ。
ーーあと、エンドロールの2曲目に「Songbirds」が流れるじゃないですか。さっき山田監督がHomecomingsを以前の曲から聴いていたということだったので、これはもしかしたら「HURTS」の歌詞を踏まえてのものではないか、と思ったんですよ。
福富:そう! 畳野さん、気づいてた?
畳野:ん?(首をかしげる)
福富:「HURTS」には〈エンドロールの2曲目〉という歌詞が出てくるんですよね。洋画ではありがちな演出で、自分たちはそれを意識して書いていたんですけど、まさか「Songbirds」がそうやって使われるとは思わなかったので、「これってもしかして……?」と思いました。
ーーこれまで話したなかで、山田監督のほうから「HURTS」について何か言及はあったんですか?
福富:「HURTS」で僕らを知っていただけたみたいです。
ーーそういうのを聞くと、改めて「HURTS」ってすごい曲ですね。「You Never Kiss」以上に、いろんな方にバンドの名前を広めた楽曲なのかもしれません。
福富:あのとき、ブレイクスルーするような曲をアルバムの後に出そうと思っていて、1stフルアルバム『Somehow ,Somewhere』のあとにこの曲をリリースしたんですよ。ある意味狙って当てたところがあるので、いまだにこうして何かを生み出すきっかけになってくれていて、本当によかった。
畳野「『HURTS』なら知ってる」って言ってくれる人も多いし、曲名がわからなくてもMVを覚えてくれていて「あのプールのやつ」って言ってくれたり、Homecomingsにとっても重要な1曲でしたね。今回の「Songbirds」は、そんな「HURTS」のように、バンドが変わっていくタイミングで、より多くの人に届くような楽曲になっている気がしています。今のHomecomingsが「こういうのがやりたい!」と思っていることの集大成なので、良い意味で「変わったな」と感じてもらえたら嬉しいですね。
ーー「Songbirds」は、たしかに驚きました。元々のシナリオも読んでいたので、ゆっくりした物語だけど、最後はHomecomingsの軽やかな楽曲で終わるのかな、というイメージだったんです。でも、これまでのなかでもかなり遅めの曲ですよね。アルバム曲でも滅多に使っていないテンポ感で。
福富:そうですね。あえて挑戦してみました。
ーーしかも、最近はEP『SYMPHONY』のように、USっぽい音作りが多かったじゃないですか。なんでこのタイミングで「Songbirds」のような楽曲を書こうと思ったんですか?
福富:あのEPはライブをしながら作っていて「盛り上がる曲が欲しい」とか、明確なコンセプトを持たせずにたくさん曲を作って、それを集めた作品なんです。だから結果的にあれだけゴリっとしたものになったというだけで。「Songbirds」は肩の力を抜いて作ったらポンっとできたような曲でもあるので。あと、もう一回ギターポップをやりたいというのは、なんとなく思っていたんですよ。
ーーそれは今回のオファーが来る前から?
畳野:去年の秋くらいからです。
福富:Teenage Fanclubとか、自分たちが初期に聴いていたようなものを改めて表現したいって話していて。そのタイミングで『リズと青い鳥』のお話をもらって、ピタリとハマったんです。曲を作る前に、4人で六地蔵(京都アニメーションのスタジオがある地域)へお邪魔して、ラフの動画を見せてもらったんですが、見学当日、僕だけ待ち合わせ場所に2時間くらい早く行って、散歩をしてたんですよ。歌詞のイメージでもつかめればと思って。街も夕暮れも綺麗で、山があったり電車が通っていたりして、そこで聴いたTeenage Funclubの『Bandwagonesque』がドンピシャに合っていて。
ーー映画に引き出されただけじゃなくて、バンド自身もそのモードに向かっていて、それが自然とリンクしたと。個人的に『SYMPHONY』や『SALE OF BROKEN DREAMS』は、クオリティが高かったんですけど、どこか試行錯誤〜工夫しながら作っている印象があって。「Songbirds」はその気負いのようなものが、いい意味で感じられない曲だったんですよ。
福富:なんとなくコード進行を作ってスタジオに持って行って、4時間くらい合わせたらできたんですよね。
畳野:早かったね。
ーーそれはHomecomingsとしてもかなり早い方なんですか。
福富:早い方ですね。いつも凝ろうとしちゃうんですよ。リズムパターンをもう少し複雑に、とか、間奏で変なことをしようとか。そういうのもなく、ちゃんと歌で勝負しようと。
ーーでは、今回みたいにあっさり作り上げてから、あまり弄らないでおこうとなったのは、なぜなんでしょう。
福富:純粋にいい曲だし、書こうとした歌詞とも合っていたから、なんですよね。
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