日本年金機構の情報管理のずさんさがまた露呈した。外部の委託業者の情報処理にミスがあった。調査委員会が検証を始めたが、適切な情報管理と運用が年金制度の信頼の基本と自覚すべきだ。
約十万人の年金の二月支給分が少なかった。総額約二十億円になる。一方で多く支払われていた人も約四万五千人いた。
発覚の端緒は、二月に入り年金額が減ることに気付いた受給者から問い合わせが増えたことだった。年金を頼りに生活している人にすれば、少しの減額でも敏感になることは当然だろう。
加えて四月から、介護保険料が多くの自治体で値上げされる。七十五歳以上の医療保険料も上がる地域がある。機構は、負担増や給付減が生活に影響する受給者の実情を認識する必要がある。
支給ミスは機構がデータ入力を委託した外部業者の処理がずさんだったためだ。年金に所得税がかかる人の控除手続きに必要な書類のデータ入力作業で発生した。
機構によると、契約では入力後に担当者二人が確認する手順だったが、書類を機械で読み取らせていた。そのため誤入力が発生した。入力漏れもあった。委託業者は、機械の読み込みではミスが出やすい氏名などの入力作業を中国の関連企業にやらせていた。これも契約違反だという。
委託業者は五百万人を超える大規模作業は初めてで、人材不足からこうした対応になったようだ。厳重な管理が求められる公的年金情報を扱う責任感が欠けていた。
機構は委託業者の対応能力についてチェックが不十分だった。しかもミスに気付いた後も代わりの業者が見つからないという理由で委託を続けた。機構は業者へ損害賠償請求を行う方針だが、自身の責任も重い。機構を監督する厚生労働省も責任を自覚すべきだ。
その後、別の業者も入力作業を外部に委託していたことが分かった。業務量が増え外部委託が避けられないのなら、業者の管理体制を再考する必要がある。機構は有識者による調査委員会を設け十日に初会合を開いた。業務委託のあり方などを検証し六月に報告書をまとめる。調査に協力し管理体制を見直してほしい。
機構は、旧社会保険庁時代の「宙に浮いた年金記録」問題や二〇一五年のサイバー攻撃による年金情報百二十五万件の流出など情報管理の不祥事が絶えない。高齢期の生活を支える制度を担っていると肝に銘じるべきだ。
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