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【社説】

警官が撃つ 銃持つ責務かみ締めよ

 未成年の警察官が教育係の先輩を射殺する前代未聞の事件が起きた。警察官に銃の貸与が許されているのは、適正に使われるという社会的合意があればこそ。銃持つ組織の緊張感に緩みはないか。

 同じ交番の先輩巡査部長(41)を射殺した容疑で逮捕された滋賀県警彦根署の巡査(19)は「がみがみ言われて腹が立った」などと供述しているという。

 巡査は、一月末に警察学校を卒業したばかり。どのような経緯で銃を撃ったのか。銃を持つ職場への配属に問題はなかったのか。まずは徹底的に解明、検証する必要があろう。

 だが、最大の問題は、銃撃の背景や動機がどのようなものであったとしても、貸与の銃が凶器として使われたという一点で、警察組織に対する社会の信頼が激しく傷つけられることにある。

 なぜ、防げなかったのか。社会のために銃を持つことが特別に許された組織である。いかなる弁解も社会の理解は得られまい。

 警察庁によると、警察官が拳銃を使用して同僚を殺害した事件は過去に例がない。しかし、極めて例外的な事件が起きたと考えるわけにはいかない。

 現職の警察官が一般市民を撃った殺人事件は過去二件。二〇〇七年の事件では、警視庁立川署の巡査長が知人女性を射殺した後、自殺している。

 さらに、他者ではなく、自分に銃を向けるケースは毎年のように起きている。

 例えば〇七年から〇八年にかけて、栃木県警の同じ交番で二十代の巡査、巡査長が相次いで拳銃自殺している。一〇年には愛知県警で、上司から屈辱的な叱責(しっせき)を受けていたという二十代の巡査が自らの銃を使って自殺した。

 警察組織内で拳銃自殺が繰り返されるのは、銃を持つこと、持たせることへの畏れが薄らいでいるからではないのか。

 採用時、職務への適性を見極めることや採用後の教育の重要性は言うまでもない。それでも、求められる規律から逸脱する者が出てくるのが組織の宿命だ。

 不本意かもしれないが、だからこそ、規律を見失う者が出ることを前提として備えを考えねばなるまい。たとえ一人でも、逸脱の影響はあまりにも大きい。

 迷いが生じた時、いつでも迷わず相談できる場所はあるか。組織に暗がりはできていないか。

 組織を挙げ、改めて銃持つ責務の重さをかみ締めてほしい。

 

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