アルミホイルを貼って銀色の部屋をつくった話
2年ほど前、僕は住んでいた部屋にアルミホイルを貼って銀色の部屋をつくった。
上の写真は、その時完成した部屋の様子だ。
壁・床・天井・家具・家電・小物の類まで全てをアルミホイルで覆って、文字通り「一面の銀世界」をつくったのだ。
今回はその過程と、そこでの暮らしについてご紹介したい。
ちゃんと理由があります
「銀色の部屋をつくった」「そこでの暮らし」などとサラッと書いてしまったが、自分でも突拍子もないことを言っているという自覚はある。
これを作るに至った理由がちゃんとあるので聞いてほしい。
数年前、電車が好きな友人Aが結婚することになった。
それに対する友人一同からのお祝いとして、各自段ボールで電車のコスプレをつくって写真を撮り、そこに一言メッセージを添えて贈ろうということになった。
僕はその時JR総武線のコスプレを作った。
この写真に「結婚おめでとう!!」とか書いて渡したということです。
コスプレとは何なのか?という点について疑問が浮かんだ人もいるかもしれないが、そこはスルーして話を進めたい。
段ボールにアルミホイルを貼って、そこに画用紙で黄色いラインを入れて作ったのだが、この「段ボールにアルミホイルを貼る」という作業の時に、僕はなんとなく興奮する感覚を覚えた。
アルミホイルを1枚貼ることによって、目の前にあった段ボールという無機質なものがメタリックになっていくことがまずかっこいいし、「俺の手でメタリックにしてやった」という征服感も合わさってのものだったのだと思う。
作業中、自分の中のボルテージがどんどん上がっていくのを感じた。
これ、部屋中にアルミホイル貼ったらすごいことになるのでは?
そう思った結果、冒頭のアルミホイルルームを作ることにした。
ちなみにこれは、別の友人が作った「東北新幹線はやぶさ」のコスプレ
必要なアルミホイルは床・壁・天井の面積の3倍
そうと決まればまずは材料の準備ということで、
部屋の床・壁・天井の面積を計算して必要なアルミホイルの量を計算し、家具や小物類もあるのでその1.5倍の量を用意した。
接着は、貼っても目立たず、はがしても跡になりにくそうなセロテープを使うことにし、アルミホイルの2倍の長さ分買ってきた。
結果的には、このさらに倍の量を要することになった。
アルミホイルルームを作るために必要なアルミホイルの量の目安は、「床・壁・天井を覆うのに必要な分量の3倍」。
今後もし真似したい人がいたら、ノウハウとして参考にしてほしい。
他にも、今までアルミホイルについてあまり意識することがない人生だったので、この買い物の過程で初めて知ったことがいろいろあった。
一般的にアルミホイルは8m単位で売っていることが多いが、ドン・キホーテのものは16mで70円ぐらいで売っていて、この遊びにうってつけだった。
あと、床に貼るものは物や足がすれることが多いから丈夫な方が良いだろうと思って探したら、「厚手」というものが売っていた。
一般的なものは11マイクロメートルなのに対して、厚手は18マイクロメートル。
その差はわずか7マイクロメートルだけなのだが、触ってみるとそのペラペラ感は全然違った。
アルミホイルは異世界への入り口
材料もそろったところで、当時住んでいたこの部屋をアルミホイルで覆っていく。
作業に協力してくれる友人を募り、迎えた記念すべき一貼り目。
いざ貼ってみると、その違和感はすごいものがあり、全員めちゃくちゃ笑っていた。
ただ壁に1枚アルミホイルを貼っただけなのだが、一気に「異世界の扉を開いてしまった」という感じになる。
作業を進めた先に、がぜん期待が膨らんだ。
部屋にアルミホイルを貼ることの楽しさ
その後作業は着々と進んだ。
その様子を写真でお届けするとともに、「部屋が銀色になっていく」ということだけではない、工作としてのこの遊びの楽しさをご紹介したい。
①アルミホイルを貼るという癒し
この遊び、完成したらすごいことになりそうだとは思っていたものの、作業自体はアルミホイルをひたすら貼っていくだけなので、すぐに飽きてしまって地獄の時間が来るんじゃないかと心配だった。
でも実際に作業をしてみると、貼れば貼るほどさらに作業を進めたくなり、みんなすごい集中力でアルミを貼り続けた。
手芸や、梱包材(プチプチ)をつぶすなど、単純作業をすると余計なことを考えず集中できるから癒されるということがあるが、それに近い感覚なんだと思う。
まさか、部屋にアルミホイル貼ることに癒されるなんて。
「フフフ、次は何を銀色にしてやろうか」という顔になる
②家具や家電は「俺の作品」
壁や天井など面積の大きい部分は、目に見えて銀色の面積が増えていくのでもちろん良いのだけど、家具や家電も、一から十まで自分で仕上げることができるので楽しい。
「俺の作品を見てくれ!」という気持ちになる。
テーブル
座椅子
ティッシュ
鼻をかむ真似してみてもらったら、何か食べてる人みたいになった
そんな中で、「俺の作品」としてこのエアコンをぜひ自慢させてほしい。
ただアルミホイルで覆うだけではなく、電源を入れたら吹き出し口が開くように、吸気口をふさがないように、風向を上下させるルーバー(風向を調整する羽根)がスムーズに動くように、かなり丁寧に施工(あえて”施工”と呼ぶ!)を行った。
これだけで作業に2時間かかっていることからも、どれだけ力を注いだかを感じていただきたい。
完成後スイッチを入れて、吹き出す風を感じながらスムーズに上下するルーバーをしばらくぼんやり眺めてしまった。
もし大工になったら、初めて自分が手がけた家が完成した時ってこんな気分なんだろうなと思った。それぐらいの達成感はある。
③みんなのクリエイティビティが目覚める
今回この企画には、のべ20人ぐらいの人が協力してくれた。
みんな最初は真っすぐアルミホイルを貼るのだが、だんだんと遊び始める。
その過程が、とても面白かった。
クシャクシャにしたり、模様をつけるだけでも壁の印象が全然違う
子どもたちは細かく貼っていくのが好き
いつか現れるだろうと思っていたアルミホイル人間
完全に銀色の世界と、テレビを見ることが両方楽しめるように、テレビにはフタがついた。
僕が使っていたちょっと古めのVAIOは、
おしゃれなMacBookとなり、
スタバに持っていっても恥ずかしくなくなりました。
もともと、ちょっと変わった設定を用意して、その中で参加者に自由にふざけてもらえるような遊びを作ることが好きだったので、この「他人の部屋にアルミホイルを貼って銀色にする」という設定の中でこれだけ遊んでもらえたことは、素直にうれしかった。
そんな楽しさを味わいながら、アルミホイルを貼ること約1か月半。
最後に床に「厚手」を貼り、
とうとうアルミホイルルームは完成した。
達成感とともに、「どうやら私はとんでもないものを作ってしまったようだ・・・」という気分になった。
何となくすごいことになりそうとは思っていたが、まさかアルミホイル1枚貼るだけでここまで非日常な空間が生まれるとは思わなかった。
アルミホイルルームで暮らすということ
さて、ここでもう一度おさらいしておくと、ここは僕が一人暮らしをしていた部屋だ。
先ほどさらっと「アルミホイルを貼ること約1か月半」と書いたが、そう、僕は作業が行われていた1か月半、ずっとこの部屋で生活していたのだ。
もっと言うと、完成した後2週間ぐらい展示用として残していたので、全部で2か月ぐらいこの中で暮らしていたことになる。
アルミホイルルームで暮らすというのはどういうことなのか、この点についてもいくつかご紹介したい。
①意外と慣れる
この部屋で生活していると話してよく聞かれる質問が3つあるのだが、その中で一番よく聞かれるのが、「体調大丈夫ですか?」だ。
そしてその質問に対しては、「意外と慣れる」と答えている。
最初のころは、朝起きるたびにビックリしていた。
毎朝目覚めると目に飛び込んでくる景色(天井)
でもそれも段々なくなっていき、銀色になる前と変わらない日常生活を送っていた。
作業が大きく進んで部屋の中の銀の面積が大幅に増えた日は、多少頭痛がした。
アルミホイル、特にクシャクシャにしたりして模様をつけたものは乱反射がすごいので、目への刺激が強くてそこから頭痛につながっていたんだと思う。
この、カーテンが一面銀色になった時は、なかなか刺激が強かった。
でもそれも、半日もすればおさまった。
人間どんな環境でも慣れるもんなんだなぁと、生物としての強さを感じた。
②床が冷える
よく聞かれる質問の2つ目が、「部屋ってあったかくなりますか?」だ。
この作業をしていたのは1月~3月。素材は全然違うと思うけど雰囲気としては魔法瓶のような状態になるので、何となく保温されそうと思う気持ちはよく分かる。
が、実際の体感としては全然変わらなかった。
むしろアルミの熱伝導性が高いので、寒い日は外から帰ってくると床が冷え切っていて冷たかった。
逆に真夏にクーラーをきかせておいたら、床がひんやりして気持ちいいかもしれない。
③逆向きでもリモコンがきく
もう1つよく聞かれる質問が、「携帯の電波って入るんですか?」だ。
これについても全く問題はなかった。
少し話は違うが、エアコンの電源を入れるときに、エアコンの真逆を向いてリモコンのボタンを押しても起動した。
「赤外線が反射して本体に届いているんだ!アルミホイルルームすごい!」と、その時居合わせたメンバーでめちゃくちゃ盛り上がったが、全てはがした後にやってみても同じことができた。
リモコンって、基本的に逆向きでもきくものみたいですね。
でもあの盛り上がりが生まれたのだから、良しとしたい。
④みんなやってみたいことがある
さっきも書いたが、この部屋は完成後2週間ぐらい展示用として残しておいた。
この期間、見に来てもらうだけでももちろん良いし、せっかくなのでこの空間で何かやりたいことがある人には自由に遊んでもらった。
ものすごく寒い場所に来てる風の写真を撮った人
バーを開店して、シェイカーを振った人
ただの飲み会も、ものすごくコンセプトの強い居酒屋みたいになった。
その中でも、カラフルなミラーボールが投入された時は、そのサイケデリックさに見た人は皆「うぉぉぉ!何じゃこりゃぁぁぁ!」となり、「これもうアートやん!アートって言っていいんじゃないの?アートよく分からんけど、アートってことでいいんじゃないの?」という、うまく表現できない興奮にアートと名をつける症状に陥っていた。
ミラーボールが入った様子は、ぜひ動画でも見てください。
興味を持った人がこの部屋を活用してくれる度に、僕も新しい体験をさせてもらえたので楽しかった。
コワーキングスペースとか里山とか、ちょっと特徴的な場所に色んな人が集まって、そこから何かが生まれるみたいな話があるが、こういうことかと思った。
⑤天井が落ちてくる
この部屋で生活していて一番大変だったけど面白かったのは、天井が落ちてきたことだった。
何せ接着しているのはセロテープなので、やはり時間がたつほど重力に負けてはがれてきてしまう。
最初は「少しはがれてきたなぁ」程度だったものが、
徐々にひどくなってきて、
最終的には常に腰をかがめての暮らしを強いられるまでになってしまった。
宇多田ヒカルのAutomaticかよ、とツッコミながら生活していた。
ただ、これはこれですごく綺麗で、ミラーボールの時と同じ「アートなのでは?」の気持ちと、腰をかがめながら生活していることの面白さから、最終的には「これもアルミホイルルームの醍醐味」とまで思えるようになっていた。
今まで天井にくっついていた部分
ちなみにこの「はがれ期」には、夜寝ていると終始天井でミシミシ音がしている。
最初の頃は、「これ寝てる間に天井のアルミが全部落ちてきて、鼻と口ふさがれて窒息したりしないかな」と心配していたが、結局気づいたら寝ていた。
やはり、人間は慣れる。
今回やってみて、アルミホイル1枚貼るだけでものすごく非日常な世界ができることと、その過程で色んな人に遊んでもらえるということが分かった。
今回は自分の家だったが、いつかどこか人通りが多くて外からよく見える場所でやって、通りすがりの人たちにアルミホイル貼っていってもらうようなこともやってみたいと思っている。
はがす作業も最高でした。