米トランプ政権 温暖化ガス調査のNASA予算を削減

トランプ大統領は気候変動の研究や対策の予算を削減すると繰り返していた Image copyright Bill Ingalls/NASA/Getty
Image caption トランプ大統領は気候変動の研究や対策の予算を削減すると繰り返していた

米トランプ政権が、米航空宇宙局(NASA)の地球温暖化ガスを調査する活動の予算を削減していたことが、10日までに明らかになった。

世界の炭素ガスの流れを観測するNASAの炭素観測システム「CMS」には、毎年1000万ドル(約11億円)の予算が割かれている。

米科学誌「サイエンス」によると、CMSの予算打ち切りは、温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」で合意された炭素ガス排出量の削減を計測する能力に不安が生じる。

トランプ政権はパリ協定からの離脱を表明している。

しかし、正式な離脱予定の2020年までは米国もパリ協定に参加している。

米政府は、ドイツで現在行われているパリ協定に基づく詳細な規定作りに代表者を送っている。報道によると、米国の代表者らは排出量の報告や計測に関する厳しい規定を求めているという。

昨年1月に、化石燃料産業の活性化を目指すトランプ政権が発足して以来、米国の環境政策は変化。トランプ大統領は、NASAが地球科学研究に使う予算を繰り返し批判してきた。

2100年までの気温上昇シナリオ。赤は何もしなかった場合、茶色は米国不参加の場合。オレンジ色は従来のパリ協定が維持された場合。緑はパリ協定で示された目標
Image caption 2100年までの気温上昇シナリオ。赤は何もしなかった場合、茶色は米国不参加の場合。オレンジ色は従来のパリ協定が維持された場合。緑はパリ協定で示された目標

今年3月に議会で承認された連邦政府予算はCMSについて触れておらず、温暖化ガス排出量を確認する米国の研究は実質的に終了させられていた。

米タフツ大学フレッチャー・スクールでエネルギー・環境政策を教えるケリー・シムズ・ギャラガー教授はサイエンス誌に対し、「排出量の削減を計測できなければ、各国が協定を順守しているのかどうか確証が持てなくなる」と語った。

CMSは2010年以来、数十の研究プロジェクトを支援し、世界の二酸化炭素やメタンガスの排出量を衛星や航空機を使って監視・計測する活動を支えてきた。

CMSはさらに、森林破壊や森林劣化が炭素ガスの排出に与える影響を評価する各国の取り組みを支援してきた。

NASAは、CMSの終了がすべての炭素ガス監視・計測活動の終わりを意味するわけではないと説明する。

NASAのスティーブ・コール報道官はBBCに対し、「この特定の研究計画が終わるからといって、炭素ガスと変化する地球に対する炭素ガスの影響を監視することへのNASAの能力、あるいは強い決意が弱まるわけではない」と語った。「実際にも、エコシステム・炭素監視のための新たな装置、GEDIが今年の夏、国際宇宙ステーションに行く」。

NASAのウェブサイトによると、地球観測センサー「GEDI」の打ち上げは、CMSの取り組みの一環ではあるものの、NASAによる2019年度予算申請に含められている。

CMSの終了は、NASAの2019年度予算申請にも明確に触れられている。

予算の概要を説明する文書でNASAは、新たな予算配分では、「革新的な新たな計画に資金を振り向け、新たな官民プロジェクトへのさらなる資金提供を通じて、現在のNASAの活動を探索に再集中させる」と述べた。

米非営利団体「憂慮する科学者同盟(UCS)」のレイチェル・リッカー気候担当上級科学者はBBCに対し、一部の既存の計画が維持される場合でもCMSが終了するのは懸念すべき事態だと指摘した。

リッカー氏は、「長期的には、炭素観測システムの解体は我々の地上、海、大気での炭素ガスの流れを追跡する能力に悪影響を及ぼす」と語った。「炭素ガスを追跡する能力の向上は、地球温暖化とその影響を抑えるのを目指す取り組みや政策の評価で決定的に重要だ」。

トランプ大統領は、宇宙軍創設や宇宙飛行士を月に送る考えを繰り返し述べてきた。地球科学よりも宇宙開発を優先させるトランプ氏の意向がうかがわれる。

炭素ガスの監視を主導するのは欧州になる可能性が高い。欧州は炭素ガスを計測する衛星を独自に打ち上げており、今後もその数を増やす見通し。

科学研究の分野ではすでに欧州へのシフトが起きている。

昨年12月には、フランスのエマニュエル・マクロン大統領が「我々の惑星を再び偉大にする」計画の一環で7000万ドルの研究予算を提示し、気候変動分野の13人の米国人科学者をフランスに呼び寄せた。

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<解説> もっと簡単にごまかせるように――マット・マグラス環境担当編集委員(ドイツ・ボン)

二酸化炭素ガス排出量の正確な計測は、気候変動の懸念が1990年代に広がって以来、国連交渉を大きく妨げてきたもののひとつだ。

現在では、ほぼ全ての国が運輸、エネルギー、各産業で使われる燃料の量に基づいて年間排出量の推計を出している。推計は多くの場合とんでもなく不正確なため、簡単にごまかせてしまう。

衛星や航空機を使ったシステムの開発も模索されており、NASAのCMSはその中でも最も高度なものかもしれない。

CMSの開発を通じて米国や他の先進国は、中国などの新興国に圧力をかけ、排出量を監視・記録・検証する強力な仕組み受け入れさせることができた。中国やインドはかつて、そうした監視・記録・検証の仕組みに強く反対していた。

パリ協定の規定作りが進むここボンでは、CMSは協定への信頼性を構築する上で不可欠と考えられてきた。そのCMSが終了するとなれば、強力で透明性のある排出量監視制度の開発は難しくなったと受け止められるに違いない。

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(英語記事 Trump White House axes Nasa research into greenhouse gas cuts

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