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NTT持ち株会社が2018年5月11日に都内で開催した2017年度決算説明会で、海賊版サイトへのサイトブロッキング実施を公表した経緯について鵜浦博夫社長が記者の質問に答えた。
「2017年秋、(海賊版サイトの件で)著作権者ならびに出版社から『NTTを訴えていいか』と相談があった」と鵜浦社長は明かす。
NTTを被告とし、海賊版サイトへの接続について差止請求をするか、著作権侵害を放置した不作為による損害賠償請求をすることで、海賊版サイトについて世間に注意喚起を図る趣旨だった。これを機に鵜浦社長は、NTTとして取り得る手段について法務部門と議論を重ねていたという。
鵜浦社長はブロッキング実施を公表した理由について「ネット社会の自由やオープン性を守り、ネットの無法地帯を放置しない、との強い思いがあった」と語る。
政府が指定した3つの海賊版サイトが事実上閉鎖している中、あえて実施を公表した点について「ネットで私が悪者になっているようだが…」と前置きしつつ、「サイトを閉じたから(海賊版サイトの)不法行為が清算できたわけではない。今後、同じ行為が繰り返されるのを防止するため」とした。
「ブロッキングが適当」との政府決定が「政府による検閲」につながるリスクについては「私も政府の検閲は大嫌いだが、(著作権侵害の)被害を防ぎ、創作のインセンティブを保つため、何らかの形での取り組みを宣言する必要はあった」とした。「政府がブロッキングを『命令』する形はおかしい。ただ、政府が3つのサイトを認定し、かつ民間の自主的な取り組みを促したことで、(民間企業として自主的にブロッキングを実施する)最低限の要件が整ったと受け止めた」。
ブロッキングは回避が容易でいたちごっこになるとの批判には「いたちごっこだ、無駄だからといって、犯罪行為を放置していいとは思っていない。(海賊版サイト対策には)『やる』という強い意志が必要だ」とした。
権利者がISP(インターネット接続業者)を訴える形での提訴について、英知法律事務所の森亮二弁護士は「(著作権法112条の差止請求を使うと想定すると)ISPが著作権侵害コンテンツにアクセスさせる行為は、著作権侵害に該当せず、差止請求の対象にはならないと考えられる」とするなど、実際には提訴は難しかったとみられる。