新タイプのタクシー車両が増えてきたのはなぜでしょうか(筆者撮影)

新タイプのタクシー車両を見かける機会が増えてきた

セダンでもなく、ワゴンやミニバンでもない新タイプのタクシー車両――。都市部を中心にトヨタ自動車の「JPN TAXI(ジャパンタクシー)」を路上で見かける機会が増えてきた。


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JPN TAXIは昨年10月23日に発売され、直後に開催された第45回東京モーターショーで一般公開された。これまでトヨタが生産してきたタクシー専用車「コンフォート/クラウンコンフォート」に代わる車種であり、22年ぶりのモデルチェンジとなる。背が高く、後席にスライドドアを備えて乗客が乗り降りしやすい独特のハッチバックスタイルだ。

タクシー車両は近年、従来の定番であるセダンタイプから多様化してきている。日産自動車は2010年、小型商用車「NV200バネット」をベースにした「NV200バネットタクシー」を発売。2014年に日産のタクシー用車両として設定していた「セドリック」が生産終了となったことと、米国ニューヨークのタクシーにコンペで選ばれたことを受け、2015年には専用シートやガラスルーフなどを採用した「NV200タクシー」に進化している。

スタイリングは従来のコンフォートやセドリックがトランクの独立したセダンタイプで、背はさほど高くなかったのに対し、NV200はミニバンであり、JPN TAXIはミニバン並みに背が高いハッチバックである。

JPN TAXIが英国ロンドンのタクシーに似ていると思った人もいるだろう。たしかにフォルムは近い。理想のタクシー専用車両を作ろうとすると似たような形になるのかもしれない。ただしロンドンタクシーやコンフォート、セドリックが後輪駆動だったのに対し、NV200とJPN TAXIは前輪駆動で、乗客用ドアがスライド式というところも異なる。

第2次世界大戦前にタクシー専用車はいくつか存在したようだが、戦後に話を限れば世界的に稀有であり、多くの都市のタクシーは量産セダンやワゴン、ハッチバックの転用ですませていた。

専用車両の提案がなかったわけではない。たとえば1976年にはMoMA(ニューヨーク近代美術館)が次世代タクシーの展示会を企画しており、カーデザイン界の巨匠と言われるイタリアのジョルジェット・ジウジアーロ氏が短く背の高い箱型のタクシーを提案し話題を集めた。しかし量産化には至っていない。


NV200タクシーの外観(筆者撮影)

こうした中でルノーとアライアンスを組んだ日産は、タクシー車両のグローバル展開ができると考え、NV200をタクシー車両に仕立てて母国のみならずニューヨークにも進出したのだろう。さらにNV200は丸型ヘッドランプを備えた仕様がロンドンへの導入も決定している。この3地域での普及が進めば他国への影響もあるだろう。

一方のトヨタにとってみると、2020年に開催される東京五輪・パラリンピックの存在はJPX TAXIの展開に大きく影響している。トヨタは2015年、東京を含む2024年までの五輪・パラリンピックの最高位スポンサー契約をIOC(国際オリンピック委員会)およびIPC(国際パラリンピック委員会)と結んだ。これによりトヨタはさまざまなモビリティを提供していくことでイベントをバックアップしていくことになっている。

トヨタはすでに燃料電池を動力源とする路線バスを製作し、東京都内の路線で運行を開始している。JPN TAXIはこれに続く2020年向けモビリティということができるだろう。

日本製新世代タクシーの乗り心地は?

2台の日本製新世代タクシーは使いやすく乗りやすいのか。乗客として乗った経験から主としてデザイン面を紹介していきたい。


NV200バネットタクシーの車いす仕様車(筆者撮影)

まずはNV200。筆者が乗ったのはガラスルーフがない仕様だった。背が高いので乗り降りは楽。

床はさほど高くないうえにステップが出てくるし、オレンジのグリップは大きくて握りやすい場所にあるので、足腰が不自由な方でもスムーズに乗り降りできるのではないだろうか。

車いす仕様車はNV200タクシー・ユニバーサルデザインと名付けており、スライドドアからでなくリアゲートからアクセスする。福祉車両でおなじみの手法で、車いす利用者はこの方式に慣れているだろうし、運転手が補助する際の移動距離が短いというメリットもある。


NV200バネットタクシーの車内(筆者撮影)

シートはかなり高めで直立に近い姿勢で座る。乗り降りしやすいし前方の見晴らしも良く好ましい。

しかし車内が暗いことは気になった。サイドウインドーが小さいうえに、さまざまなステッカーがそこを埋めているためだ。せめてステッカーを貼る場所だけでも考え直してみてはどうだろうか。

乗り心地は硬めで、しっとり感はあまりなく、シートで衝撃を吸収する感触だった。昔乗ったことがあるロンドンタクシーを思い出した。全般的にフワフワしているが段差などで鋭いショックがくるコンフォートやセドリックより、個人的には着座位置を含めて好みだった。

乗り降りは楽だが…

次はJPN TAXI。スライドドアはNV200と同じだが、屋根も床も低い。それでもコンフォートやセドリックに比べれば乗り降りは楽だ。窓の大きさはNV200とは対照的。もちろん眺めが良くて気持ちいい。ただ残念なのは後席が低く、背もたれが大きく傾いていて、セダンのような姿勢になることだ。

車いすは左側スライドドアからアクセスし、後席座面を跳ね上げ助手席を折り畳むことで前向きに固定する。ちなみにロンドンタクシーは後ろ向き固定となるが、車体が180mm長いうえに、NV200のように高い位置に座る後席はかなり後方にセットしてあるので、シートを畳む必要はない。


JPN TAXIの車内(写真は運転手の了解を得て撮影しています。筆者撮影)

JPN TAXIも後席を高く後方にセットすれば、乗り降りははるかに楽になったはずだし、座面を跳ね上げる構造にするだけで車いすを収められたのではないだろうか。

パワーユニットはNV200が1.6LガソリンあるいはガソリンとLPG併用、JPN TAXIはLPG燃料の1.5Lとモーターを組み合わせたハイブリッドだが、NV200がLPGタンクを荷室左隅にコンパクトに収めたのに対し、JPN TAXIは後席裏中央に置いたこともシート位置に関係しているのだろう。運転席頭上空間に余裕があるので、路線バスのようにルーフに置くこともできたと思う。


JPN TAXIの後ろ姿(筆者撮影)

JPN TAXIはシエンタのプラットフォームを流用している。乗り心地は良好なシエンタのそれを受け継いでおり、しっとりしていてフラット感も高い。おまけに後席の座り心地はシエンタよりはるかに上で、5ナンバーの日本車でもっとも快適に過ごせる1台と言える。

デザインや乗り心地を中心に見れば、欧州的なNV200に対してJPN TAXIは純日本的という印象を受けた。

都市景観を乱さないデザインであることが重要

もうひとつJPN TAXIで褒められるのは色だ。現時点で筆者が目にした車両はすべて、深藍と呼ばれる黒に近い紺色をまとっており、従来のタクシーと同じ派手な色をまとうNV200より好ましい。

タクシーを含めた公共交通は、利用者にとってわかりやすいだけでなく、都市景観を乱さないデザインであることが重要だと考えている。独特の姿でありながら黒塗りのロンドンのタクシーは好例と言える。JPN TAXIが景観に配慮して深藍を選び、タクシー会社がその精神を尊重した点は評価したい。

対するNV200はニューヨークと同じ黄色をイメージカラーとしているが、欧米の都市に行った人ならおわかりのように、タクシー車両はバスと同じように都市ごとに色を統一することが多い。それがタクシーと他の乗用車の識別をしやすくしている。これを機に日本でも、多くの人が都市交通の色について考える機会が増えることを望みたい。