イベント参加者を乗せて走るDMV=海陽町宍喰浦

 鉄路と道路の両方で走行できる車両「デュアル・モード・ビークル(DMV)」。県南部を走る阿佐東線(海陽町―高知県東洋町)への導入を目指し、徳島、高知両県や沿線自治体でつくる阿佐東線連絡協議会がPRに奮闘している。住民の機運を高めるため、昨年7月にJR北海道から試作車両を借り、試乗体験や展示を実施。今年1月までの予定だったが、好評で3月まで期間を延長し、さらに延ばした。DMVが導入されれば世界で初めて。実現までの“レール”をひた走っている。

 

 協議会は、大勢の人出が見込める各地の催しにDMVを送り込んでいる。これまでに海部郡3町や那賀町、徳島市、東洋町であった19の催し会場に出向き、試乗体験を13回、車両展示のみを6回行った。試乗体験は催し会場を発着点にして周辺の道路を走り、計約1400人が参加した。

バスモードで走るDMVの車内。通常のマイクロバスと変わらない=海陽町宍喰浦

 3月24日は、阿佐東線を運営する第三セクター・阿佐海岸鉄道が沿線で開いた自然体験ツアーに合わせて、試乗体験があった。東洋町の甲浦駅から海陽町宍喰浦の竹ケ島までの約4キロを10分余りかけて走り、各地から集まった家族連れら19人が乗り心地を堪能した。

 車両内は一見、マイクロバスと変わらない。座席は17席。ディーゼルエンジンで、燃料は軽油。走行中、「ガタガタ」と震動が伝わる。重さ7トンの車体を支えるため、足回りを強化しているからだという。

 参加者は楽しそうに窓越しに景色を見たり、DMVの前で記念撮影したりしていた。藍住南小6年の溝渕暁大(ときひろ)君(11)は「少し揺れたが線路も道路も走れるのは面白い。線路の上を走るのも乗ってみたい」とにっこり。鳴門市里浦町里浦の中西シヅヱさん(70)は「乗り心地は悪くない。DMVのことを知らない人はまだ多いと思うのでもっとPRしてほしい」と話した。

 2018年度は活動範囲を広げ、県北や県西にも出向く。サッカーJ2徳島ヴォルティス戦が行われる鳴門ポカリスエットスタジアムや、8、9月に三好市で開かれる水上スポーツ「ウェイクボード」の世界選手権会場にも登場させる予定だ。

 協議会は「DMVは子どもたちにも夢を与える乗り物だと思う。ぜひ見て触れて体感してほしい」と、イベントへの参加を呼び掛けている。

 東京五輪前の運行目指す

 県や沿線自治体、阿佐海岸鉄道などは、2020年の東京五輪前の営業運転開始を目指しており、着々と準備を進めている。

 計画では、阿佐東線(海部―甲浦)の約8・5キロに加えて、JR四国の阿波海南―海部間の約1・5キロもDMVの走行区間とする。海部駅が高架のため、道路との接続が困難なためだ。

 発着点となる阿波海南、甲浦両駅でバスモードに切り替え、周辺の観光地などを巡る。具体的なルートは今後検討する。

 19年度までに計約3億6000万円をかけてDMVの車両3台を製作する計画で、うち1台は年内の完成を目指している。

 阿佐海岸鉄道は導入を見据え、開業前の1991年以来となる運転士の募集を行い、今春3人を採用した。

 車両の製作費にホームの改築などを加えた総事業費は約10億円に上るとされ、財源の確保や導入後の効果の見通しなどが課題になっている。

 ◆DMV ◆ 鉄車輪とゴムタイヤを備え、鉄路と道路で使い分けて走行する。JR北海道が開発し、2004年に初めて試作車両を完成させた。1両は長さ8・3メートル。JR北海道は、脱線事故やレール検査記録の改ざんが表面化し、DMVの開発より既存路線の安全対策を強化する必要に迫られたため、14年度に導入を断念した。現在、導入に向けた具体的な動きがあるのは徳島県だけ。