「株主は平等ではない」リーマン危機で学ぶ-オリックス宮内氏の哲学
谷口崇子、Tom Redmond-
アクティビストは短期志向で投資行動はマネーゲーム
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もっと種類株作り変化を持たせるべきだ-宮内氏インタビューで語る
日本でコーポレートガバナンスコード(企業統治指針)が導入されて3年。企業は株主の声を聞くように奨励され、少数株主のアクティビストファンドの動きが活発になってきた。オリックスの宮内義彦シニア・チェアマン(82)はそんな現状に真っ向から異論を唱え、株主を平等に取り扱うべきではないと主張する。
宮内氏は自身の意見を少数派だと断った上で「株主は平等ではない。長期保有する株主に議決権を多く与え、短期保有株主には与えない、これが正しいやり方だと思う」と話す。宮内氏の考えでは、アクティビストは「短期志向で会社の長期的な利益を考えない」存在で、彼らの投資行動はマネーゲームだという。ただ、「付け込まれる方にも問題がある」とも話す。8日にインタビューに答えた。
宮内義彦シニア・チェアマン
宮内氏は2015年のインタビューでも3年以上の長期保有株主だけに議決権を与えるなどの対策を取るべきだと主張していた。その後、トヨタが5年間譲渡できない種類株を発行したものの、「企業統治改革に逆行する」との批判にさらされた。宮内氏は今こそ日本市場は米国や香港の例にならい「種類株をもっと作っていろいろな変化を持たせるべきだ」と指摘する。
一方で、日本のガバナンス改革を支持する多くの専門家は「安定株主」重視は少数株主軽視につながると考え、企業は持ち合い株式の削減を進めている。長期保有にこだわる宮内氏の意見は異色だ。宮内氏は「ファンドは市場が悪くなった時に解約する人が出る。これが危機の時にものすごく怖い」とし、最高経営責任者(CEO)を務めていた08年に経験したリーマン危機を振り返った。オリックスの株価は不動産保有リスクなどが嫌気されたこともあり半年で74%も下落した。
サラリーマン社長
宮内氏は当時、ヘッジファンドが皆「当ファンドは中長期的視点で投資をしている」と説明していたのに危機が起きると一転して売り浴びせられたとし「うそばかりだった。ファンドは危機を増幅する存在だ」との思いが強まったという。当時のファンドはアクティビストではなかったが、危機時の行動原理は同じとみている。これに対し、アクティビスト側から反論の声も上がる。
「並外れてばかばかしい意見だ」。オアシス・マネジメント創業者で最高投資責任者(CIO)のセス・フィッシャー氏は言う。フィッシャー氏は取材に、日本の投資先に配当だけを要求するようなことはほとんどやっていないとし「われわれが企業と対話をする時は、いつもいかによりよい会社にするかという話をしている」と反論。種類株については、力のある創業者が率いる会社なら理解できるが、サラリーマン社長の会社では意味がないとした。
宮内氏の「少数派の提言」は日本の企業統治の在り方にも及ぶ。「日本経済はこの20年停滞していた。企業はイノベーションを起こせなかった。今の日本企業に一番必要なのは、リスクを取って不断の成長を図ることだ」とした上で、コンプライアンスを重視する今の議論の流れを見直し、成長志向の積極的な企業を増やす方向に変えていくべきだと指摘する。
具体的には、社外取締役に成功した創業者などを迎えることを支援し、その社外役員を中心に経営トップに野心的な人物を選ぶようにすべきだとした。後継者プランでは保守的な人を選びがちだが、こうしたサラリーマン社長には思い切ったことができないと宮内氏は指摘。「よい後継者選びは社外役員の責任。社外役員の教育と使命の共有が課題になる」と話した。宮内氏は企業統治の在り方の啓蒙活動を進める日本取締役協会の会長を務める。