はじめまして、
マッチングアプリ中毒の就活中ヤリマンアラサー、
乳酸菌です。つまらない人生なりに私の話をします。
私が大学に入った頃の話。
大学に入った理由は簡単、
親にそうしろと言われたからだ。
入学するにあたって、福岡出身でもないのに博多弁を練習した。
とりあえず「〇〇とっとーと?そうな〜ん?」と言えば、私はモテると思っていた。
結論としてはモテなかった。顔が悪いからだろう。
大学名物、サークルの誘いはたくさん来た。
私は偏見の塊で生きていたので、テニスサークルは茶髪の男と女が不純異性交遊に勤しむだけだと思っているし、温泉同好会なんかはコンパニオンの真似事をさせる物だと思っていた。
その為、私はサークルの誘いを断っていた。
しかし、ゼミに入ったことがきっかけで演劇サークルに入った。
表に立つのが苦手で私は大道具を任されたのだけど。
大学生活にも、サークルにも慣れ初恋を忘れていた頃、“王子”や“主人公”を演じる先輩のことが気になっていた。
大道具の私が、だ。身分違いにもほどがある。
この世界が丸ごと演劇であれば私は“シンデレラ”だろう。
しかし、その理想の演劇が現実になる時がくる。一人で大道具の準備をしていた時、彼が話しかけてきたのだ。
「一人でキツくないの、手伝うよ」
その瞬間、自分の人生が一段階上に引っ張り上げられた気になった。
舞い上がる気持ちを抑え、落ち着いて話した。
彼とは好きな映画監督が同じだった。
それから次第に私たちは時間をかけ仲を深め、好きな映画のシーンを二人で真似るようになった。
でも何だろう、この虚しさは。
通じ合ってはいても、彼が私のことを好きでも、なんでもないってことまで通じてくるからだろうか。
仲を深めれば深めるほど、先輩と私の間の永遠に縮まらない距離が浮きぼりになるだけだった。
仲を深めた、それがどうした?
他より少し距離の近い平行線、二人が近寄ってもなんの花も咲かなければ、なんの化学変化も起こることはない。
その虚しさはいつも私の胸を巣食った。
「いつも大道具頑張っているから、ご褒美」
そう言われ、彼に食事に誘われた。
時計は8時を指している。当然了承した。
食事中、話の内容はもちろん映画の話。
「園子温がやっぱりすきです」
「俺も好きだよ」
「園子温のどこがすきですか?」
「人間くさい作品だすから」
「奥さん映画に出してるじゃないですか」
「そうだね」
「あの奥さん、若いのになんで園子温と結婚したと思います?」
「「才能」」
この時私は彼を“私のものにしたい”と、どうしようもなく思った。あまり早く酔ってしまいたくはない、夜はまだ長いのだ。
どのくらい時間が経ったのだろう、
身体に薔薇の花が咲いたような感覚を感じた、身体の熱はどんどん燃え上がる、酔うというのは私の体が夢を見るということなのか、と錯覚した。彼は言った。
「どうする?」
気がつけば12時を超えている。終電はもうない。
酔った私に“彼といたい”以外の感情はもうなかった。
彼と私はホテルに入った。
ソファでくつろいでいると彼の携帯が鳴った。
二人の衝動と対照して無機質な振動音が響いた。
「出なくて良いんですか」
「いいんだよ」
彼はシャワーを浴びた、その後に私もシャワーを浴びた。
帰ってくると彼は電話に出ていた。
「今日は帰れない」そう言っている。
空気を読んで押し黙った。
電話を切った後、彼は私にキスをした。
ミントの香りがした。
冗談めかして「さっきの電話、彼女さんですか?」と言った。
彼は「うん」と言った。
いくら言葉を重ねても言葉にならない焦燥が、頭の中でぎりぎりと軋みまわった。
彼と私がした園子温の映画の真似事も、即興劇も、今こうしてベットに二人して沈んで体を這い回る手も、全て、理解ができなかった。
天井を眺めた。やっぱりあの時錯覚したように酔うのは体が夢を見ることだ、と思うことにした。
彼は深いキスをした。
「ガム、ですね」
「あげるよ」
彼は私の口にガムを口移しした。
最中、ずっとそのガムを私は噛んだ。
行為が終わって、
四年付き合ってる彼女がいること。彼女とは運命的な出会いをしたこと。週末は彼女と自転車で出かけること。たくさんの話を聞いた。
堪えきれず口を開いた。
「始発、出てますかね」
「そろそろ出るね、出ようか」
無機質なホテルの精算機の音声、
そんなトーンで喋りたいのは私の方だ。
別れた後、電車を待った。
駅のホームで先輩に口移しされたガムを噛み続けた。
始発で帰る心許なさ、湿気た空気。
鼻の奥がツーンと痛み、目の縁から涙が染み出てくる。
悲しくても、電車に乗らねば家に帰れない。
目に溜まった水晶越しに電車を調べ、帰宅した。
家について、ベットに溶け込んだ。
身分違いの恋が叶うのは、“シンデレラ”だけだった。
その後私はまた、ガムを噛んだ。
彼は私の口にガラスの靴を残したのだ。