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Windows 10コラム 第4回 「Windows 10 SAC(CBB) vs LTSC(LTSB)」


はじめに

前回から2年半以上空いてしまいましたが、今回はご質問いただくことの多い「業務用端末には Windows 10 SAC(旧CBB) と LTSC(旧LTSB) のどちらのサービス チャネルを選べばよいのか?」という疑問にお答えしていきたいと思います。
この間に名称も変わりましたね。
Windows as a Service: サービスモデルがわかりやすくシンプルに (Japan Windows Blog)
Semi-Annual Channel (以降SAC, 旧Current Branch for Business) と Long Term Servicing Channel (以降LTSC,旧Long Term Servicing Branch) については 第1回 でご紹介していますので、そちらもぜひご覧ください。

選択に悩む理由

業務用端末を Windows 10 にリプレースするにあたってSACかLTSCかで悩む理由は、おそらく多くの場合「サポート期間」と「アプリケーションの互換性」が理由ではないでしょうか。今回は特に「サポート期間」に焦点を当てて解説します。
サポート期間にはメインストリーム サポート期間と延長サポート期間がありますが、多くのシステム管理者様さまが考慮されているのは、「セキュリティ更新プログラム(*1)が提供される期間」でもある延長サポート期間でしょう。

*1) Windows 10 ではセキュリティ問題の修正プログラム、不具合修正プログラムが1ファイルにまとめられ、「品質更新プログラム (Quality Update, 以降QU)」という名称で展開されます。

さて、ではSACとLTSCで延長サポート期間にどのような違いがあるかを見ていきましょう。

SACのサポート ライフサイクル

SACのサポート ライフサイクル

当初は次期バージョンのリリース間隔が不規則でしたが、現在は4月と10月の年2回に固定されているため、サポート期間は18カ月間となり、19カ月目からはQUが提供されなくなるというスキームです。

LTSCのサポート ライフサイクル

LTSCのサポート ライフサイクル

LTSCのリリース間隔は不規則ですが、Microsoftは「2~3年ごとに新しい LTSC リリースを提供します。 (Windows IT Pro Center)」としています。

SACを選択する場合、本格展開の開始後約14カ月以内に機能更新プログラム (Feature Update, 以降FU) を全台に適用する必要があります。最短で半年ごと、最長でも約1年ごと(*2)にOSのバージョンアップが必要なため、アプリケーションの互換性維持と、適用しきれなかった場合に残存する脆弱性のセキュリティリスクに頭を悩ませることになります。

*2) 1世代スキップする場合は2カ月以内にPC全台のバージョンアップを完了する必要があり、あまり現実的ではないとされていますが、当社調べでは実際には1世代スキップを選択されるお客さまも多いです。

一方LTSCの場合、FUは提供されず、10年間QUのみが提供されます。
この点だけ見るとLTSCのほうが業務用端末として運用が容易そうですが、ほかの観点で悩むだけの理由があります。今回は3つの観点に絞って解説します。

SAC vs LTSCその1: プロセッサーマイクロアーキテクチャのサポート

1つ目は プロセッサーに関するサポート ポリシー です。これは “あるバージョンのWindowsリリース時の最新のプロセッサー世代までしかサポートされない” というもので、例えば2015年7月29日にリリースされたLTSB 2015は、2016年8月30日に製品化された第7世代のIntelプロセッサー (“Kaby Lake”) をサポートしません。
つまりこれは組織内でLTSCのサポート期間である10年間、ただ1つのマスターイメージのみで運用するのが難しいことを意味します。回避するには、10年間提供できるだけのPCの在庫を確保するか、クライアントVDI環境を用意する必要があります。さて、それではIntel マイクロ プロセッサーのリリースサイクルと、PCメーカーのモデルライフサイクルを参考に、LTSC採用時のPC運用ライフサイクルを見てみましょう。

Intel マイクロ プロセッサーのリリース サイクル

世代コードネームリリース
1Nehalem2008/4Q
2Sandy Bridge2011/1Q
3Ivy Bridge2012/2Q
4Haswell2013/3Q
5Broadwell2014/3Q
6Skylake2015/3Q
7Kaby Lake2016/3Q
8Coffee Lake2017/2Q

近年はおおよそ1年サイクルでリリースされています。マイクロソフトのサポートポリシーと照合すると、新しい世代のプロセッサー アーキテクチャのリリースとLTSCの新バージョンリリースはある程度同期が取られているのかもしれません。

LTSC採用時のPC運用ライフサイクル

以上より、あるバージョンのLTSCマスターイメージは、使用したLTSCバージョンのリリースから約3年で新規調達するPCへの展開がサポートされなくなるものと予測できます。また、マスターイメージの作成と検証に要する時間や、マスターイメージが展開されて利用段階に入ったPCの利用期間 (法定耐用年数は4年)、次のバージョンへの移行期間も考慮してPC運用のライフサイクルを計画する必要があります。以下に例を示します。

一方SACではサポート終了日までにFUの適用ができれば、自然とこの制限を回避できます。

SAC vs LTSCその2: Office 365 等のサポート

2つ目はOffice 365 ProPlusやVisual Studioといった継続的に更新が提供されるソフトウェアのサポートです。これらのソフトウェアではFUの適用が必須であり、LTSCでは実質利用できません。
例えば常にOffice 365の最新機能に対応したOfficeを利用したい場合、SACを選択する必要があります。

SAC vs LTSCその3: 新機能の有用性

3つ目は追加される新機能の有用性です。Windows 10 の機能更新で追加される新機能の価値を評価する必要があります。LTSCには機能更新が提供されないため、魅力的な新機能がリリースされても、これらは反映できません。
新機能の例として「設定」アプリの表示項目を制限したい場合を挙げると、この機能はバージョン1703以降でしか利用できないため現時点ではLTSCで実現できません。(*3)

*3) 部分的な制限はグループ ポリシーの設定、サービス無効化、レジストリ設定などで可能。

【参考】サポートされないPCにインストールしたLTSCの挙動

サポートされない第7世代プロセッサー搭載PCにWindows 10 Enterprise LTSB 2015 (1507相当)を入れたら何が起こるのか?を実際にやってみたところ、以下の結果となりました。

  • 問題なくインストールすることができます。
  • 問題なくライセンス認証することができます。
  • 問題なく品質更新プログラムを適用することができます。
  • 1507用ドライバーが公開されていない場合、一部デバイスが正常に動作しないか、またはドライバーがインストールできない場合があります。

インストール結果

インストール結果

ライセンス アクティベーション結果

ライセンス アクティベーション結果

1703用デバイス ドライバーのインストール結果

1703用デバイス ドライバーのインストール結果

Windows Update 結果

Windows Update 結果

まとめ

今回は紹介したSACとLTSCの選択にあたって考慮すべき観点について解説してきましたが、いかがでしたでしょうか。
LTSC=10年間サポートというイメージが強いですが、実際には条件付きのサポート期間になることがおわかりいただけたかと思います。なお、MicrosoftではLTSCを「重要なデバイスや特殊なデバイス (工場の機械装置、POS システム、ATM など)といった特定用途向け」としていますのでご留意ください。

皆さまのWindows 10へのリプレースのご参考になれば幸いです。

(ソリューション事業部 MS基盤ビジネスユニット 斉藤 徹)