44歳独身貴族女性が親の死後味わう極貧生活
つい最近までお嬢様だったのに、まさかの極貧生活へ。考えて見れば、おカネについての大事な基礎知識が不足していた。これは決して他人事ではない(写真:foly/PIXTA)
今回、私たちファイナンシャル・プランナーの事務所に「おカネの相談」に来たのは、44歳のシングル女性C子さんです。44歳にはとても見えないほどかわいらしい方なのですが、なんとおカネに困っているというのです。「実は、頼りにしていた父がおカネ周りのことにだらしなくて……。父が1年前に死んでから、すっかり生活が変わってしまいました」と嘆くのです。C子さんのお話は、驚きの連続。どんな相談なのか、ぜひ読者の皆さんと、一緒に考えていきたいと思います。
何不自由ない「お嬢様暮らし」が続くはずが…
現在C子さんは、低所得者用の団地で年金生活の母親と2人暮らしです。今の生活からは想像がつきませんが、もともとC子さんは、とても裕福な家庭で育ちました。亡くなった父親は公認会計士で個人事務所を運営。年収は1億円以上でした。お母さんは専業主婦です。
一人娘のC子さんは、両親から溺愛され、幼稚園から大学まで私立ミッション系の「お嬢様学校」に通学。恵まれた環境で何不自由なく生活していました。大学生時代も、友達が就活に勤しんでいるころ、C子さんは就職についてはまったく考えず、大好きな歴史を究めるため、大学院進学を決意。進学後はそれこそ歴史の勉強に没頭しました。大学院修了後も、実家で暮らしながら、たまにアルバイトをする程度で、生活費の心配もすることなく自由に暮らしてきたそうです。
あるとき、そんなC子さんの生活が一変する出来事が起こりました。
ある日、病院から「あなたのお父さんが脳梗塞で倒れて入院することになった」と連絡が来たのです。そこで、母親と病院にかけつけたところ、医師から「長期的な治療が必要」との説明を受けました。そのとき、父親は一命を取りとめたものの、糖尿病や肝臓病などほかの病気も併発。治療のため、費用が膨れあがってしまったのでした。しかも入院した病室は、1日約5万円もする個室でした。
でも、C子さんは「うちは収入も貯蓄もあるし」と、さして気にもとめていなかったのです。そもそも今まで家計のことなど、まったく気にして生活してきませんでした。それでも「少しは聞いておいたほうがいいかも」と思い、母親に確認したところ、「実は貯蓄はまったくないの……」というショッキングな答えが返ってきたのでした。
母親は「かなり危ない家計」だったことを知っていた
C子さんの父親はかなりの高収入でしたが、一方でおカネ遣いもかなり荒かったそうです。よく高級なジュエリーやバッグを買ってきてくれたそうです。しかも銀座の高級クラブに通っては、1日で数十万円のおカネを使ったり、何人かの「愛人」にも貢いだりしていたそうです。母親はその事実を知りながらも、家庭生活の維持のために、自分の胸の中にぐっと収めていたそうです。
また、困ったことに、父親は生命保険などには加入していませんでした。当然ながら、治療費は健康保険が適用になる分を除いては、全額自分たちで負担しなければならなかったのです。
C子さんは父親の治療費が払えないなどとは、思ってもみませんでした。病院に支払いを待ってもらっている間に、父親は体調が急変、亡くなりました。
前述のように民間の保険には加入していなかったので、当然、父親の死亡保険金もありません。また、家も住宅ローンが残っていました。このローンについては保険が適用されて返済が免除になりましたが、結局、売却しても手元に現金はあまり残りませんでした。
このように、父親が元気で収入があるうちは良かったのですが、病気になり亡くなってしまったことで、一気に問題が明るみに出たのです。
C子さんは、このとき人生で初めてフルタイムで働くことも考えたそうです。しかし、44歳まできちんと働いた経験がなかったので、就職できる自信がなく、今は大学の研究室のアルバイトの回数を増やし、細々と生計を成り立たせています。
一方、母親は、収入は年金のみ。きちんと国民年金を支払ってこなかったので、100%はもらえず、毎月の年金収入は3万円程度。父親は自営業だったので、会社員の妻がもらえる遺族年金ももらえません。C子さん親子は、裕福な生活から一気に貧困生活に陥ってしまったのです。
現在は、低所得者用の団地に住みながら親子2人で慎ましやかに暮らしていますが、今も病院への支払いはできていません。今回、相談を受けた私は、弁護士さんにも協力してもらいながら課題解決に向けて努力しているところですが、C子さんのように、親が亡くなったとたんに貧困になる危険性のある女性は、実は少なくありません。
フローだけ見ていると、ある日突然破綻の危険性も
今回のC子さん親子のように、フロー(1年など、限られた期間での量)がいくらあっても、ストック(まとまったおカネや資産など)が乏しいと、何かあったときに、あっという間に足をすくわれてしまいます。これは基本中の基本なのに、実はできていない人が多いのです。
家計管理といえば、目先の収入と支出に目が行きがちですが、それはフローの話です。資産と負債、純資産というストックの観点からも、しっかりと管理していくことが大切ですね。
いくら収入が多くても、日頃から家計をしっかり管理する習慣がないと、結局は何かのきっかけで一気に破綻しかねない、ということです。
親が一見経済的に余裕がある状況で、親元で暮らしている人ほど、日頃のおカネについて鈍感な人が多い傾向があります。今回の例を参考に、親が元気なうちに、しっかりと自分のマネープランを立てておくようにしましょう。