イラン核合意 米国離脱でどうなるのか

ジョナサン・マーカス防衛・外交編集委員

イランは経済制裁の解除の代わりに問題視されかねない核開発を抑制することに同意した(写真は2005年3月に撮影されたイラン・イスファハンのウラン加工施設内の様子) Image copyright Getty Images
Image caption イランは経済制裁の解除の代わりに問題視されかねない核開発を抑制することに同意した(写真は2005年3月に撮影されたイラン・イスファハンのウラン加工施設内の様子)

イランの核兵器開発抑止を目指す唯一の合意を、ドナルド・トランプ米大統領はあっさりと危機にさらした。合意の善し悪しは別にしても。

大統領は核合意とその欠点について容赦ない批判を浴びせた。しかし、代案は示さず、最も緊密な同盟関係にある国々と米国の外交政策を対立させる道を選んだ。

さらに一部では、中東が破滅的な地域戦争に陥る危険性を大幅に高めたと懸念されている。

正式には包括的共同作業計画(JCPOA)と呼ばれる2015年のイラン核合意は、これで完全に無効になったわけではない。しかし、風前の灯火であるのは確かだ。イランの反応が今後のかぎを握っている。

ロウハニ大統領は国内の強硬派からの激しい反対に直面している。強硬派はNPTからの離脱も主張している Image copyright Reuters
Image caption ロウハニ大統領は国内の強硬派からの激しい反対に直面している。強硬派はNPTからの離脱も主張している

イランのハッサン・ロウハニ大統領は合意を強く支持しており、欧州やその他の国と合意を維持する方法を探ろうとしている。

しかし、国内の強硬派からの激しい反対に直面している。一部の強硬派はJCPOAからだけでなく、核拡散防止条約(NPT)からも離脱すべきだと考えている。

トランプ大統領はロウハニ大統領の足元をすくった格好だ。

不完全ながら機能していた合意

何が問題になっているのか明確にしておくべきだろう。イラン核合意が賛否両論を呼ぶものなのは間違いない。トランプ大統領は一貫して反対を表明してきたが、前政権の成果だという以外に論理的な反対理由がないように多々見えた。

合意が完璧でないのは確かだ。ミサイル開発から中東地域における行動まで、イランの様々な懸念すべき活動に対応できていない。

合意は、対象となったものに対応してきた。それはつまり、高度にして目覚しいイランの核開発だ。核に関するイランのあらゆる活動に規制をかぶせ、確実に合意を順守させるため、従来以上に内部に立ち入り、査察する仕組みが導入された。

一部の規制は時限的なものだが、イランが暴発して核爆弾をすぐ手に入れようとする状況を合意が予防しているとは、少なくとも言えそうだ。

厳しい目で見れば、合意は単に危機の可能性を遅らせたとも言える。「先送り」したわけだ。合意がなければイランとイスラエルとの間で戦争が起きる現実的な危険があったのを考えれば、先送りもあながち良くないとは言えない。

現時点では合意は機能している。それが、トランプ大統領にとっての不都合な真実だ。

合意に署名した他の諸国はいずれも、イランが合意内容を完全に守ってきたと認識している。国際原子力機関(IAEA)も同意見だ。特に、トランプ政権幹部のマイク・ポンペオ国務長官やダン・コーツ国家情報長官も同じ考えなのだ。

それでもトランプ大統領は、全く、またはっきり言って間違った形で合意について語り、元々合意に含まれる予定がなかったものが含まれていないと激しく批判している。

ではこの先どうなるのか。

危険な道

イラン政府内でこれから闘争が起きる。合意を救えるかどうかは、この政治闘争に誰が勝つかで決まる。

もし、いわゆる穏健派が勝てば、欧州各国の対応が非常に重要になってくる。その際に問題となるのは、米国の対イラン制裁そのものより、「2次的制裁」と呼ばれる、イランとビジネス上の取引がある米国外の企業への制裁だからだ。

イランをめぐる問題でどのように米国に対応するのか欧州各国には明確な戦略があるのだろうか Image copyright AFP
Image caption イランをめぐる問題でどのように米国に対応するのか欧州各国には明確な戦略があるのだろうか

欧州各国は明らかに、トランプ大統領の合意離脱の発表に失望している。欧州は合意を維持する考えだった。

欧州、より正確に言えば欧州企業が米財務省の制裁担当部局の標的になるのは、まだ相当先だろう。

それまでに、米国の立場にどの程度、譲歩の余地があるのか対応を練り、外交努力をする時間がある。

しかし、危険な結果になる可能性のある、過去に例を見ない状況のなか、もしイラン核合意が実際に破棄され、イランが核開発に走ったら、そのときにはどうするのか。

米国や欧州、北大西洋条約機構(NATO)が、主張を強めるロシアへの懸念を高めるなか、米国と欧州に深刻な対立をする余裕はあるのか。

その上、紛争が続く中東の問題がある。

すでにシリアで小競り合いを起こしているイランとイスラエルの間で、全面的な対立が起きる危険がある。

自国の施設や同盟国が何度かイスラエルに空爆されているイランは、すでに復讐(ふくしゅう)を望んでいる。

大方のイスラエルの情報機関や軍の元高官に加えて、一部の現職高官でさえ、イラン合意は不完全ながら維持するだけの価値はあると考えている。それにもかかわらず、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、トランプ大統領に核合意の破棄を最も声高に訴えてきた。

代替案はあるのか

各国がイラン核合意をまとめたのは、イランを核開発から遠ざけておくことが理由の一つだった。そうすれば、イランが規制を破り核兵器を入手しようとしても、国際的圧力をかけるだけの時間が稼げると期待された。

しかし、もし核合意が破棄され、イランが核開発に力を入れた場合はどうするのか。イランが暴発して核兵器を急ぎ手に入れるかもしれないというリスクを前に、特にサウジアラビアなど、他の国も核保有を目指すかもしれない。

世界は前例のない状況に直面している。米国による今回の合意離脱発表は、就任から約1年半が経過したトランプ大統領の真の外交政策始動を意味しているのかもしれない。そしてトランプ氏の批判勢力は、トランプ外交について、経験に基づく事実ではなく、むき出しの感情や直感を根拠にしたものだと指摘するだろう。

トランプ氏の行動を支持する人々にとっても、根本的な疑問が残る。

代替案はあるのか。イランをどうやって封じ込めるのか。また、この目的推進のための国際社会の合意はどうやって維持するのか。

(英語記事 Iran nuclear deal: What now after Trump's decision to pull out?

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