国立大学法人の職員をしていると、文部科学省等から公文書を受領することや、自身が法人文書を作成することもあると思います。教育行政の一端を担う国立大学法人としては、このような文書の取り扱いは重要な意味を持っています。だからこそ、各国立大学法人は文書の取り扱いを規程で定め、適切な扱いを心がけているのでしょう。
(目的)
第1条 この規則は、国立大学法人東京大学並びにその設置する東京大学並びに附属学校及び附属病院(以下「本学」という。)における文書の取扱いについて必要な事項を定め、事務の適正かつ能率的な処理を図ることを目的とする。
また、独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律に従い、国立大学法人の職員が職務上作成し組織的に用いる文書等は国民等からの開示請求の対象になります。つまり、請求があれば公開しなければならないということですね。
(目的)
第一条 この法律は、国民主権の理念にのっとり、法人文書の開示を請求する権利及び独立行政法人等の諸活動に関する情報の提供につき定めること等により、独立行政法人等の保有する情報の一層の公開を図り、もって独立行政法人等の有するその諸活動を国民に説明する責務が全うされるようにすることを目的とする。
私自身、最初に配属された部署にいた厳しい課長補佐に法人文書の作成方法は教え込まれましたし(当時は定規で空白や行間を測定されたりもしました)、それ以降いろいろと文章や文書の作成する機会があったこともあって、文章や文書の作成には少し気を払っています。そんな思いを持って仕事をしていると、意外と文書の作成方法が機関内で統一されていないなと感じています。しかし、そもそも法人文書の作成には正解はあるのでしょうか。
国立大学法人は元々国の機関でしたので、法人文書も公文書に倣うのが自然だろうと考えます。そして、法人の出自を考えると、文部科学省の公文書の作り方に倣うのが良いのかなと思います。そこで登場するのが、「公文書の書式と文例」です。
「公文書の書式と文例」とは、文部科学省から発する各種の公文書の書式とその代表的な文例を示した冊子です。常用漢字の改訂などに合わせ、現在は第六訂(平成23年3月)まで出ています。この冊子は、文部科学省内では結構見ることもあると思いますが、各国立大学法人にどの程度配布されているかは不明です。私自身も、この記事を書くにあたり、当課では見つからなかったため、隣の課から借りてきました。ただし、昭和34年発行の同冊子は、文化庁ホームページから確認することができます。(当時は電話の出方なども記載されており、読んでみるとなかなか面白いです。)
文化庁 | 国語施策・日本語教育 | 国語施策情報 | 国語シリーズ | No.21 公用文の書き方資料集
今回は、この「公文書の書式と文例」第六訂(平成23年3月)(以下、「同冊子」と言う。)を基に、公文書の作り方、翻って法人文書の作成方法を見ていきます。
さて、同冊子冒頭には、公用文を作る場合に心がけることについて、以下の3点が述べられています。
- 分かりやすい表現
- 行き届いた叙述
- 生き生きとした文章
いきなり難しいことを言ってるな、という印象です。2.は必要な事項を過不足なく簡潔に表現、3.は読む人を説得するためということが補足されています。以降、文体や用語用字、起案時の留意点などが記載されていますが、本記事では、取り急ぎ活用できそうな文書構成についてのみ言及します。
第六訂P7以降は、公文書作成に当たっての留意事項として、通知・依頼文書等、許認可等文書、賞状等などについて、その文書構成などが記載されています。特に、大学においても使われるであろう「通知・依頼文書等」の留意点を見てみます。文書の構成として、全体の書式、文書記号番号・文書日付、発信者・宛先、公印、件名、本文、担当と、大きく7つに分けた場合、それぞれについて同冊子では主に以下のとおり留意点が述べられています。
書式
左綴じを原則とし、本文余白は左25mm右20mm
10.5ポイント以上のMS明朝を原則とする
文書記号番号・文書日付
文書記号番号・文書日付は文書右上端
本文右端に揃えるか、一字空ける
文書記号番号と文書日付の両端は揃える
発信者・宛先
宛先は原則として年月日の下の行に左寄せ
発信者は原則として官職名を上、氏名を下という2行構成
職名又は個人宛の場合は「殿」組織宛の場合は「御中」
公印
発信者氏名の最後の一字の半ばに掛けて押印
印影の右端が本文の右端に揃うようにする
印影印刷の場合は印影に重ならないように9ポイントの文字で「(印影印刷)」
件名
発信者氏名の下に記す
文書の区分((通知)(依頼)など)を件名の後に記す
原則として本文の左右の端からそれぞれ4字以上空ける
本文
本文は件名の下に書く
担当
(担当)は公文書の最後に記す
担当者は複数記す
改めて調べてみると、意外だな思ったことが2つあります。
1.本文余白が左右で違う。
恐らく綴じ位置の関係だと思いますが、本文余白が左右で5mm違います。なお、ISO 838やJIS S 6041から、端から20〜25mmマージンを設ければファイリングに対応できるようになっているようで、公文書の書式もそれに合うようになっています。
2穴 (ISO 838)
ファイル用の穴あけについて、最も一般的な規格はISO 838である。この規格では穴は2つで、直径は5.5mm - 6.5mmの範囲と定められている。位置は紙の一番近い端から約12mm(11mm - 13mm) で、2つの穴は紙の軸に対して対称の位置になければならない。また穴同士の距離は穴の中心から計って約8cm(79.5mm - 80.5mm)の範囲とされている。
100mmより大きい紙の規格(例:A7かそれ以上)はすべて、この方式でファイリングできる。文書を印刷する際は20 - 25mmのマージンを設ければ、この方式に対応できる。
2.担当者名は複数記す
確かに、今手元にある文部科学省からの公文書には担当者が複数示されています。リスクヘッジの点からも、これは見習うべきだなと思いました。
以上をまとめた図を以下に示します。なお、文書日付と件名及び件名と本文の間隔は指定されていませんが、私は2行と教わりましたのでそのように示しています。いろいろ盛り込んだ結果、だいぶ騒がしい図になってしまいました・・・。
「様式とかはどうでもよくて、中身が重要だ」という人もいるでしょうし、その気持ちは分かります。ただ最近は、様式を統一するからこそその中身がよく見えてくるんだろうな、と考えています。
少し公文書からは外れますが、分かりやすい例としては科学研究費助成事業の申請書類でしょう。申請書類は厳しく様式や書き方が定められていますが、それは一度に多数の申請書類を読む審査側の負担を考慮したためだと考えます。一つ一つの申請書類のレイアウトや記載内容等が異なれば、それは審査員の認知に対するノイズとなり、審査員にとって十分に申請内容が頭に入らない可能性があります。私自身、申請支援業務に携わったことがありますが、担当していた教員方には「様式に従った申請書でなければ審査の土俵にも上がれない」と常に言っていました。(もちろん、土俵に上がるための支援はできる限り行ったつもりです。)
翻って、公文書に倣って作成する法人文書についても、書式等を極力統一することで、よりその文書の意味が明らかになるのではないかと思っています。少なくとも、自分が作る法人文書においては、同業者に笑われないような書式、内容にしなければならないと思っている次第です。