ぬるぬるとした体をもつ岩場の魚であるガマアンコウは、一部の鳥やカエルと同じく、繁殖の相手を見つけるために歌を歌う。ガマアンコウがどんな姿をしているのかをよく知らずに探そうとするなら、事実上、彼らの歌がおそらく唯一の手がかりだ。(参考記事:「“ハミングする魚”が示す発声メカニズムの起源」)
「ガマアンコウはあたりを泳ぎ回るような魚ではありません」。米海洋エネルギー管理局の生体音響学者で、今回の研究を主導したエリカ・スターターマン氏はそう語る。「彼らはたいてい、岩の下に隠れていますから」
しかしパナマのカリブ海へ行き、日没後すぐにマイクを海中に沈めたなら、ガマアンコウの仲間であるウミガマ(Amphichthys cryptocentrus)が高らかに愛を求める声が聞こえてくるはずだ。このたび、学術誌「Environmental Biology of Fishes」に、そのはじめての記録が発表された。(参考記事:「巨大魚ブダイの集団お見合いを発見、米研究チーム」)
この事実をスターターマン氏が知ったのは、ある不運な成り行きからだった。彼女は当時、海中の音に関するまったく別の研究のために中米を訪れていたのだが、ウミガマのせいで計画が台無しになったのだ。
「あの研究に取り組んでいる最中は、『いったいこれはどういうこと? ウミガマのせいで他の音がまったく聞こえないんだけど』といった状況でした。あまりにもうるさいので、他のデータはまるで使い物になりませんでした」(参考記事:「【動画】メスがオスを誘惑?巨大クジラの貴重映像」)
2種類の鳴き声で独自に作曲
ウミガマのアカペラ攻撃にさらされたスターターマン氏のチームは、仕方なく警笛のようにうるさいその声を研究することにした。世界に約70種いるガマアンコウの1種であるウミガマの鳴き声は、それまで学術的な記録に残されたことはなかった。(参考記事:「【動画】交尾する深海アンコウ、史上初の撮影」)
「ウミガマの鳴き声を分析用ソフトウェアにかけてみたところ、それぞれの個体で異なる歌を作っているらしいことに私たちは気づきました」