『まどか☆マギカ』はソーシャルアニメだった
久々に書いたな、この↑ネタバレ注意……
今更っちゃー今更なんですけど、自分は先々週まで超多忙だったために書けなかった話題です。
昨年、GREEやモバゲーに代表される“ソーシャルゲーム”という言葉を頻繁に目にしたことと思います。CMも大量投下されていましたものね。全ての機種がインターネットに繋がる携帯電話を使うことで、他者と繋がることが前提のゲームが話題になりました。
「無料を謳っておきながら有料DLCが半端ない」とか「これはゲームなのか?」などといった批判はゲーム好きからはよく言われましたし、自分も別に自分が手を出そうとは思わなかったのですけど……
ポイントは「誰でも持っている携帯電話」で「みんながインターネットに繋がっている」ことを利用した、インターネット前提のゲームやビジネスモデルが出てきたことにあると思います。既存のゲーム機ではこれが出来ませんでしたからね。
そして、このソーシャルゲームのブームを受けて任天堂の岩田社長は、色んな場所で「いやいや、元々ゲームはソーシャルなものだったよ」「ファミコンには2つコントローラが付いていたし、みんなが話題を共有した『ポケモン』や『トモダチコレクション』だってソーシャルなゲームだったじゃない」「だから3DSはすれ違い通信という新しいソーシャルな楽しみに挑戦しやすくしましたよ」と仰っていました。
自分もその通りだと思います。
任天堂は家族や友達やすれ違う人とのソーシャルなゲームを作り続けてきたし、昨年話題になったソーシャルゲームは携帯電話を使っての遠く離れた人とのソーシャルなゲームを提供した―――手段とビジネスモデルが違うだけで、「ソーシャルなゲーム」はずっと前からあったのだろうと。
さて、アニメの話。
アニメも子どもの頃はソーシャルな娯楽でしたよね。
学校で「昨日の○○観た?」と話題にしたり、みんなで映画を観に行ったり、アニメが「共有の娯楽」だった頃があったと思います。90年代の『エヴァンゲリオン』の超ヒットの要因って実はこれが「大人向け」に機能したことにあると自分は思っているのだけど、これを話すと長くなると思うので―――そろそろ本題に入ります。
『魔法少女まどか☆マギカ』は、間違いなく「ソーシャルなアニメ」を目指したアニメでした。
21世紀型のソーシャルアニメ、及び06年の『涼宮ハルヒ』以後のアニメとネットとの関係を見事に使いこなした新時代のソーシャルアニメだったと思っています。作品としてのクオリティの高さもさることながら、「如何にしてソーシャルな要素を持つか」をこれでもかと盛り込んだ商品になっていました。
それはまぁ「話題になるアニメ」と言い換えることが出来るんですけど……
その辺の話を今日はします。
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1.「話題になるようなショッキングな出来事」が各話で起こる
この『まどか☆マギカ』、1~2話こそ普通の魔法少女モノかのように偽装していましたが、3話でマミさんが死亡、4話でさやかが魔法少女化、5話でキュゥベエの本性が見えてきて、6話でソウルジェムの謎が明らかになって、7話でさやかがぶっ壊れ、8話さやかの魔女化、9話で杏子死亡、10話でこれまでの謎が判明――――と、話題になる出来事が各話に起こりました。
普通のアニメの場合、スタートダッシュに気合入れて最後も頑張るのだけど中盤は中だるみ……ってことが多いのですが。『まどか☆マギカ』は「他が中だるみになっているであろう6~9話くらいが勝負だ!」とばかりに、話題性の高い出来事が次々とちょっとずつ起こりました。
「話題性の高い出来事が起こる」→Twitterなどで話題にする人が増える→「こんなに話題になっているのか…」と気になる人が増える
もちろん2ちゃんだろうがブログだろうがニコニコ動画だろうが「話題になる」ことは大事だと思うんですが、それらの場所と比べてTwitterは「作品に直接興味がない人でも目にする機会が高い」場所だというのが重要なんだと自分は思っています。
つまり、『まどか☆マギカ』に興味がないから2ちゃんのスレもブログの記事も観ていないよって人が、フォローしている他のアニメクラスタが散々『まどか☆マギカ』の話題を出していれば気になっていくよね―――というのが分かりやすい事例。
普通の深夜アニメは話数が進むたびに「視聴者が減る」傾向がどうしてもあるのですが、『まどか☆マギカ』は少なくとも中盤までは「逆に視聴者が増えた」という話を聞きましたし。「途中からだけど観始めました」という声は多かったです。
2.考察したくなる謎の小出し
このアニメ、序盤はかなり「よく分からない」状態のまま進んでいくんですよね。
第1話のほむらのセリフもそうだし、第2話のキュゥベエの魔法少女と魔女の説明、マミさんのグリーフシードの説明などなど……説明不足で腑に落ちないまま話が進んでいくのですが、こうして敢えて謎を残すことで話題にさせるというのは『エヴァンゲリオン』なんかでもあった手法です。
第1話の時点でほむらがまどかに
「貴女の前にキュゥベエというぬいぐるみのような形状をした化物が現れて魔法少女になれと催促をしてくるでしょうけど、その言葉に乗ってはダメ。肉体から魂を抜かれてゾンビにさせられる上に、やがてその魂も穢れて恐ろしい魔女という怪物になって人類を消滅させることになるわ。騙されないで」
と言っておけば良かったと自分は思うんですけど、実際に言ったのは以下の通りでした。
「貴女は鹿目まどかのままでいればいい」
回りくどいよっ!!
こんなんじゃ全然意思が伝わらないよ!おかげでまどかは何度も契約しそうになったしさ!!
ま、まぁ……「全部説明しても信じてもらえなかった」と7話で言っていたし、10話の過去編でその辺は描かれていたんで矛盾ではないんですけど。それ以上に、視聴者に対して真実を見せないことで、考察の余地を残したという目的もあったんだと思います。
3.「誰も予想できないような展開」には絶対にしない
実はコレ、かなり重要な話だと思います。
1の「ショッキングな出来事」と矛盾した要素のように思えるかも知れませんが、『まどか☆マギカ』のショッキングな出来事は実は伏線通りなので「予想した通りの展開だった」という人も多かったんじゃないかと思います。
「魔法少女が魔女になる」という設定は2話の時点で予想していた人はいましたしね。
さやかのあの性格も序盤から指摘していた人は多かったですよね。
というのも、伏線を無視したような突飛な展開ばかりをする作品というのは、「今ある伏線を一つ一つ大事に見ても意味がないんだ」と気付かれて考察が盛り下がっていく傾向にあるんです。
具体的な作品名は出しませんけど、「とりあえず誰も予想できないような展開を起こそう」という劇薬みたいな作品ってあるじゃないですか。それはそれでエンターテイメントなんですけど、「考察の話題」には向かないんですよね。
『まどか☆マギカ』はきっちり伏線を回収しているので、正直「これは予想通りの展開だ」という人も少なくなかったと思います。それはきっと狙い通りです。「クラスの誰もが答えられないなぞなぞ」はなぞなぞとして失格なんです。「クラスの4~5人しか答えられないなぞなぞ」が難しいなぞなぞなんです。
1話のほむらのセリフや表情、2話のキュゥベエの魔法少女の説明―――観返してもらえば分かりますけど、真実を知った後で観ても何一つ矛盾していないんですよ。
これはDVD&ブルーレイの商品展開にとっても大事な話ですね。DVD&ブルーレイは基本的には「観るのは2度目」って人に向けた商品なので、「とにかく予想外の展開を」よりも「二回目を観ても納得できる」ことが大事なんです。
4.原作なしのオリジナルアニメであること
「オリジナルがヒットしにくい」傾向にあったここ数年の深夜アニメ業界でしたが。
『まどか☆マギカ』はまさに「オリジナルだからこそ話題になった作品」でしたよね。
原作がある場合、原作を読んでいる人は先の展開を知っているので、毎週毎週「まさかこんな展開になるなんて!」とは盛り上がりませんし、「この後どうなるんだろう?」と話題にはなりませんよね。
もちろんビジネスモデルが違うだけの話なんですが。
『とある魔術の禁書目録II』なんかは、原作を読んでいない人が「え?これはどういう意味なの?」と訊いて、原作を読んでいる人が教えてあげる――みたいな流れがあるそうで。それはそれで面白い連鎖だと思うんですけど、話題性ということに関しては若干パワーが弱まってしまいますよね。
『まどか☆マギカ』は漫画版もあるんですけど、これは「雑誌連載なし」で「ほぼアニメと同じストーリー」で「アニメのちょっと後追いで発売される」という異例の漫画化です。アニメに合わせて漫画版も雑誌連載が始まるメディアミックスは珍しくないですけど、こういう形は初めて見ました。
当然、もし雑誌連載があったら「雑誌を読んでいる人は先の展開を知ってしまう」のでアニメの話題性も弱まる―――という判断の上での戦略だと思われます。
5.「話題になっているから後から追いかけよう」がしやすい商品展開
これも重要な話。
どれだけTwitterで話題になっていても、後から追いかける手段がなければ「話題になっているけど今放送しているのが4話とかだから今更観始められないなぁ……」と思われて終わりです。「レンタルDVDが出揃ったら観ようかな」と考えていたら1年後とかの視聴になってしまいます。
『まどか☆マギカ』の放送は最速が関西地区の木曜深夜でしたが、ネットでの配信がほぼ1週遅れの水曜深夜から始まっていました。そのネット配信は1週間限定の無料配信なので、関西&関東で話題になってから2週間は後から追いかけられるという計算になります。
自分は地上波で1話から観ていたんでネット配信のスケジュールはよく分かっていなかったんですけど、話に聞くと3話でマミさん死亡が話題になっていた頃は「ネットで1話から追いかけても無料で観られる」となっていたそうです。
その後はさすがに全話無料視聴は出来ませんでしたけど、「まとめて観ればお得なお値段!」な1~5話パックなんかもネット視聴では提供されていて。なるべく後から追いかけやすいように配慮されていたことが分かります。
06年の『涼宮ハルヒの憂鬱』のヒットは間違いなくYou Tubeの違法コピー動画が貢献していて、あの当時の自分はそれに対して違法コピーはどうなのだとサイトに書いて「コピーを観て何が悪いんだよっ!!」と散々逆ギレされて、あぁアニメ業界はもう破滅に向かうしかないんだな……としょんぼりしていたので。
「違法コピーではない」「公式の動画配信で」「ちゃんとビジネスモデルを確立しつつ」「後から追いかけることが可能」な『まどか☆マギカ』の存在は、自分にとって待望の作品だったのです。あぁ、ようやく違法コピー対策の答えが見えてきたんだ……と。
とは言っても、「ネットでの動画視聴にお金を払うことに抵抗がある人」は少なくないと思います。
自分はバンダイビジュアルの全話パックなんかはたまに利用しますけど、やっぱりちょっと気が重いですもの。「大丈夫かなー」「お金払ってもちゃんと観られないこととかないのかなー」と不安ですもの。
そんな人のために、漫画版の単行本発売ですよね。
アニメと合わせて漫画版の連載が始まることは珍しくないと先ほどの段で書きました。自分の大好きな『舞-HiME』なんかはまさにそうですし、そのメディア展開の原型は『スクライド』だと思うんですが……これらの作品は、漫画とアニメで全く別のストーリーが展開されていました。
アニメ版で敵として出てきたキャラが、漫画版の同じ週に味方として出てくる、みたいな。
それはそれで非常に楽しいメディアミックスだったし、自分は大好きだったんですが……
それだと当然、「後から追いかける」ことは出来ません。ストーリーが別ですからね。
『まどか☆マギカ』の漫画版が「アニメとほぼ同じストーリー」で「アニメのちょっと後追い」で発売されているのは、アニメを見逃した人が見逃した部分のストーリーを補完できるという狙いもあるのだと思います。
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○ 歴史が作られる瞬間
これらの要素は、1つ1つは大したことではないものも多いですし実施してきた作品も沢山あったと思いますけど。きっちり全部やったということに『まどか☆マギカ』の勝因はあると思います。
話題性があるけど、話題性だけじゃなくて「後から追いかけやすい」商品展開をしていて、後から追いかけるとキッチリ伏線が張ってあることが分かるので考察のしがいがあって、また話題を生む―――という好循環。
ということで、自分は『まどか☆マギカ』はアニメの歴史に残る作品&商品になるだろうと確信していました。数年後、「商品コンテンツとしてのアニメ」を考えた際に『まどか☆マギカ』が一つのターニングポイントになるだろうと思っていました。
東日本大震災があるまでは。
東日本大震災の影響で、その後のテレビ放送は全て中止となりました。
理由はハッキリとは分かりませんけど、恐らく「ワルプルギスの夜」戦や、その後のまどかが世界を滅ぼす展開などが震災を想起させるものだから―――だろうと推測されます。10話で既に水浸しの崩壊した街が描かれていましたものね。
自分はこの決断は正しかったと思っています。
テレビというのは、必ずしも「この番組が観たい!」と思って付けた人だけが観るメディアではありません。たまたまテレビを付けたらこの番組がやっていて不快な想いをした―――という人が出てくるメディアです。全話通して考えれば、『まどか☆マギカ』にはポジティブなメッセージが含まれているとも思えるのですけど、その瞬間だけ観た人には分からないのです。
なので、「観たい人だけ観る」ネット配信で残りの回を配信してくれればソレでイイかなと自分は思っているのですけど……当初のプラン通りではないのは確かですよね。ネット配信のものってTwitterで話題にしにくいんですもの。
テレビはみんなで一斉に観るから話題を共有しやすいですが、ネットはみんなが観る時間がバラバラなことが前提なのでうっかりネタバレされることもありますし。これだけの人気作品であるからこそ、みんながアクセスを集中させてちっとも読み込まないということも起こりえます。
自分も、10話の視聴は苦労しました。
3時間以上読み込んで22分までしか読み込めず、そのまま計画停電の時間が迫っていたので22分の段階で電源を切るしかありませんでした。まー、その数日後にもう1回読み込んで最後まで観たら「残り全部歌じゃねえか!」という結果だったんですけど(笑)。
そういう意味では完璧にプラン通りに展開していた『まどか☆マギカ』が思わぬ形で崩れてしまって、スタッフの人達もさぞかし無念なことだろうと思います。もちろん直接震災の被害に合われた方々や、そうした人達を親類に持つ人達の気持ちを考えれば放送中止は納得ですし、こんなことで文句を言っちゃいけないんですけど……
歴史が作られる瞬間が、こんな形で壊れてしまうとは、と。
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| アニメ雑記 | 16:50 | comments:1 | trackbacks:0 | TOP↑
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