「しずかちゃんのお風呂シーン」は何のためにあるのか
・この法案(条例案)だと「しずかちゃんのお風呂シーン」まで規制されかねない!こんな何でも規制出来る法案(条例案)が成立してしまったらどうなるんだ!
・そんなバカげた規制はしませんよ!「しずかちゃんのお風呂シーン」はOKです!
・いや、どうやらアニメ版の『ドラえもん』では既に「しずかちゃんのお風呂シーン」は自主規制しているらしいぞ。このままじゃ、何でもかんでも自主規制しなきゃならなくなるんじゃないのか?
こんなカンジで大の大人が「しずかちゃんのお風呂シーン」で喧々諤々。
『ドラえもん』ですら規制されるのか、『ドラえもん』はOKです、『ドラえもん』ですら自主規制している―――これはもちろん『ドラえもん』に限った話ではなく、他の作品にも当てはまります。児童ポルノには男児も当然含まれますから、『ドラゴンボール』や『クレヨンしんちゃん』で男性器が見えてしまうシーンも論点になります。
話に聞くと、『ドラゴンボール改』の第1話では赤ん坊時代の悟空の男性器が修正されていたとか。
今の時代だともう最初の『ドラゴンボール』すらアニメ放映出来なくなっちゃっていたんですね……
自分自身のスタンスを書いておきますと、僕は「条文に書いていないことは信じない方がイイよ」と思っています。今の権力者――例えば、都知事なり副都知事なり都議なり職員なり検察でも警察でもイイや。10年後は違う人がやっているワケですからね。
今の権力者が「いやいや、条文には10規制すると書いていますけど実際には3までしか規制しませんよ」と言ったとしても、次の権力者が「条文に書いてあるんだから10規制すっぞおお!」と言い出すかも知れませんからね。
さてさて。難しい話はここまで。
僕は子どもの頃「しずかちゃんのお風呂シーン」が苦手でした。
硬派な男の子として「悪いヤツをやっつけるんだ!」とか「夢いっぱいの冒険がしたい!」と思っている頃に、女の子の裸とか見せられて、「誰得?」と子どもながらに思っていました。特にテレビアニメは親と一緒に見ていることが多いですから、「俺、別に女の子の裸とか見たくないし…」みたいにぎこちなくなったりで凄く辛かったです。
前述した『ドラゴンボール』のサービスシーンもそうでしたけど、一番苦手だったのは『エスパー魔美』だったなぁ……お父さんが画家で「お小遣いあげるからヌードモデルやって」と言われて、頻繁に脱いでいたのが恥ずかしくて恥ずかしくて。その辺の6~7歳頃って「女に興味があるなんて男らしくない」なんて考えていた時期でしたから、そういう軟派なシーンは入れないで欲しいって思っていました。
今なら、幼少期にちゃんと女子の免疫をつけておいた方が後々の人生に役立つと思えるんですけど……
「女なんて興味ないぜ!」スタンス→女子との距離が開く→女子への耐性がない→第2次性徴→捻じ曲がったリビドー→アブノーマルな変態に。
あれ?この論理だと、僕が変態になったのは「しずかちゃんのお風呂シーン」のせいとも言えるか(笑)。よし!これはけしからん!やまなしみたいな大人を作らないためにも「しずかちゃんのお風呂シーン」は規制だ!
……というのは冗談です。
変態でイイじゃない。
人間はみな変態で、“ノーマルな人間”なんて人の心の中にしかない幻想なんだと思いますよ。
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○ 「シーン」単体で語れないもの
とは言え……僕も大人になりましたから、何となくどうして「しずかちゃんのお風呂シーン」があるのかは分かるようになってきました。別にアレは我が家の食卓を気まずくするためにあったワケではありませんし、世の中のロリコンが「うっひょー!」と歓喜するためにあったワケではありません。
「しずかちゃんのお風呂シーン」って、
大抵「いや~ん!のび太さんのエッチ!」と1セットで描かれるんですよね。
「例外はある?」
そりゃそうです。「投球の基本はストレート」ですけど、ストレートばかり投げていたら打たれちゃうから遅いボールや変化球を投げますよね。「しずかちゃんのお風呂シーン」を投球だとすると、「いや~ん!のび太さんのエッチ!」はストレートみたいなものだという話です。
【例えばこんなテンプレ】
・しずかちゃんがお風呂に入っている
→のび太が秘密道具を使って、お風呂に入っているしずかちゃんを覗いてしまう(ラッキースケベ)
→しずかちゃんから「のび太さんのエッチ!」と怒られる
この展開で描いているものは、別にサービスシーンでも何でもないですよね。
「女の子の裸を(しっかりとした手順以外の方法で)見ると、女の子からは嫌われる」と描いているんです。
全ての事象には、「その後」と呼べる結果が伴うものです。
「のび太がしずかちゃんのお風呂を覗く」という事象に対して、「しずかちゃんがのび太を怒る」という結果が伴って、“そこに意味が付随される”のです。前半部分だけでは単に小学生の裸を描いただけのサービスシーンに見えるかも知れませんが、伝えているものの意味は後半にこそあるのです。
『ドラえもん』という作品は、娯楽作品でありながらこの“意味”を大切にしている作品と言えます。
【よくあるテンプレ】
・のび太がスネオやジャイアンに虐げられていると、ドラえもんに泣きつく
→「しょうがないなぁ」とドラえもんは秘密道具を出してくれる
→秘密道具のおかげで、のび太が優位に立つ
→そこで終わりにすればイイのに、欲に目がくらんだのび太はドラえもんに禁止された行為にまで手を出す
→それが裏目に出て、結局のび太が痛い思いをする
→のび太「助けて、ドラえもん!」
→ドラえもん「キミが悪いんだよ。」
誰もが頭に描ける『ドラえもん』の一つのテンプレ展開だと思います。
コレ、最初の「スネオやジャイアンに虐げられているのび太」の部分だけ切り取ると「イジメを助長している作品だ!」と思われかねないですよね。でも、実際にはそうではない。ドラえもんの秘密道具によって、さっきまで虐げられていたのび太が逆転できる―――
秘密道具なんてものは、僕達の周りに沢山ありますよね。
『ドラえもん』という作品では“秘密道具”という分かりやすい形で具現化されていますが……実際には発想の転換だったり、友情だったり、愛情だったり、諦めない気持ちだったりが“逆転の鍵”になるんです。これを突き詰めていくと大長編『ドラえもん』になるんですけど、ふとしたきっかけで劣勢も跳ね返せるんだというのが『ドラえもん』という作品なんです。
でも、そこで思い上がってしまって、さっきまで「虐げられる」側だったのび太が「虐げる」側になってしまうと罰を受けるというのが『ドラえもん』という作品。これも非常に教訓的で、常に「虐げられる」側に立って描かれているという優しい作品なんだって思います。
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○ “狭い視野”でしかものが見られなくなっている世の中で
だから僕は、「しずかちゃんのお風呂シーン」単体で「規制するべきか」なんて語れないと思うんです。
「事象」と「結果」、本来2つセットで考えるべき――
その視野を失って、“1つのシーンだけで”しか語れなくなると……
例えば推理小説や推理漫画で、最初に起こる殺人事件を「けしからん!これは殺人を助長している!」とか言い出されかねません。多くの推理小説や推理漫画は、最終的に殺人犯が捕まるなどの“報い”を受けることで「殺人という行為はしてはならないんだ」と分かるものなのですが……“1つのシーンだけで”語ると、それすら描けなくなってしまいます。
そんなことは起こらないと思います?
アニメ版『ひぐらしのなく頃に』は、そうした理由で幾つかの放送局で放送打ち切りになったんですよ。
Wikipedia:ひぐらしのなく頃に解(放送を取り巻くトラブル)
これは、ちょうど放送されていた時期に実際に起こった殺人事件が「この作品を連想させる」もしくは「この作品から影響を受けた」のではなかいかということで、作品の途中で放送を打ち切る局が出てきた――というものだったのですが。
そもそもこの『ひぐらしのなく頃に』という作品自体が、メディアから「猟奇的」「残虐的」と非難されることの多かった作品ですし。「殺人を肯定している」「殺人を助長させる」などと誤解されることも多かった作品でしたよね。
この作品くらい、“殺人”を全否定した作品も珍しかったのに。
作品を知らない人もこの記事を読んでいらっしゃるでしょうから、ものすごーく噛み砕いて説明しますと。
作品の主人公やヒロイン達は最初、「良かれと思って」「誰かのために」「自分だけが手を汚すのなら構わない」と殺人行為に手を染めてしまうのです。こうすることでしかみんなを救えないと思い込んで。でも、そうした行動をとったキャラは全て“報い”を受けるのがこの作品なのです。
この作品では、何度も何度も何度も「殺人」という「やってはいけないこと」を選んでしまった人が“報い”を受ける様を描いていました。
それを繰り返していった末に、「殺人なんて選択肢は絶対に選んではいけないんだ」とキャラクター達が理解をし。一人で背負い込むのではなく、仲間を頼って、仲間と力を合わせることで「正しい手順で」難局を乗り越えることが出来るんだと最終的には描いたのです。
このアニメを途中で打ち切ったということは、最後の大事な“答え=「殺人なんて選択肢は絶対に選んではいけないんだ」”を視聴者に見せることなく終わったということです。
これって、のび太がジャイアンに殴られているシーンだけを描くとか、殺人事件が起こったけど古畑任三郎が現場に来る前に番組が終わっちゃうみたいなものですよ。のび太がしずかちゃんのお風呂を覗いたところで放送終了、その後にしずかちゃんが怒るシーンをカットしたようなものですよ。
そうは言っても、『ひぐらし』の場合は「事象」と「結果」が物凄く長いスパンで描かれた作品なので―――「最後まで観てから判断しろよ!」と言いづらいというのは確かなんですけど。
こうやって「1つのシーンだけで正否を語られる」と物語なんて何も描けなくなると思いますし、実際に今の時代は「1つのシーンだけで正否を語る」傾向が強くなっていると怖くなることがありますよ。「漢字の読めない首相」とか「ゴールを外したフォワード」とか「一つの失言だけで人格を全否定されるタレント」とか。
(関連記事:テレビって“ちゃんと観ていない人”もいるメディアなんだよね)
(関連記事:「漢字が読めない首相(笑)」という嘲笑に自分が思ったこと)
情報が流れるスピードがどんどん上がっていて、全てを把握するのは難しいから一側面だけで判断することが多くなってしまった結果。「非難されそうなものはどんどん自主規制だ!」と、悟空のチ●コが修正されたり、しずかちゃんのお風呂シーンはなくなったりしているのかもなぁ……
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| アニメ雑記 | 18:25 | comments:11 | trackbacks:0 | TOP↑
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