この記事は日経 xTECH有料会員限定ですが、2018年5月10日12時まではどなたでもご覧いただけます。
データ流通、保護主義と自由主義が交錯
発展途上国でブロッキングの採用が相次ぐ背景には、インターネットが世界をくまなく繋ぎ、データの流通が国境を越えるようになったことで、データ利活用の先行者である先進国の優位性が明確になってきたことがある。これに対抗するため、サイバー空間の主権を主張する国家が現れ、データ流通の自由主義と保護主義に二分されつつある。
先進国はOECD(経済協力開発機構)やWTO(世界貿易機関)、G7などの国際的枠組みにおいて、政府による恣意的なブロッキングやローカライゼーションに強く反対している。一方で中国やロシアなどは「ブロッキングなどへの反対は主権への干渉」であるという立場をとっている。
ただし先進国もEUと米国では必ずしも利害は一致していない。特に、圧倒的なデータ流通経済における先行優位者であるGAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)は米国企業である。EUも本音ではこれらの影響力を削ぎたいと考えており、独占禁止法違反などで様々な訴訟が提起されている。
このような複雑化する状況の中で、当面はデータ保護主義的な流れが発展途上国や独裁傾向の強い国家を中心に広がることが予想される。しかしながら保護主義は自国の都合に合わせた各国独自の制度であるため、共通の枠組みでのデータ流通は原理的に困難であり、主従関係とならない限り連携することは難しい。
このため中長期で見た場合、自由なデータ流通により拡大する経済的な規模の圧力には抵抗しがたいであろう。従ってデータ流通のグローバル化は進むと考えられるが、規模の観点から見れば、国家を凌ぐグローバル企業がその主導役となると思われる。
最後に一つだけ指摘したい。2018年4月18日、ジュネーブにおいてWTOの電子商取引に関する第2回有志国会合が開催され、その場で日本の代表は「特定のウェブサイトやインターネットサービスに対する政府の一方的かつ恣意的な干渉は、当該国の消費者とサービス提供者の両方に重大な損失と負担を課すこととなる」として政府の干渉の排除を提案している。データの自由な流通を世界に対して表明した以上、自国内においても整合性の取れた施策を行うことが責任ある政府として期待される。
慶応義塾大学SFC研究所 上席所員