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なぜ政府はデータを遮断するのか
そもそも、データ流通を遮断する目的にはどういったものがあるのか。おおむね、先に示した図にある自国体制(安全保障)、個人情報(プライバシー)、自国産業の3種類の保護に大別される。
独裁色の強い国は、体制維持を目的とする情報操作のためにSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)や動画共有サイトなどをブロックしていることは良く知られている。アラブの春以降の中東、資本主義や民主主義の流入を防ぎたい中国やロシアなどの社会主義国などに顕著だ。
発展途上国は産業育成のため、自国内のデータの流出や他国からのサービスの流入を遮断する傾向が強い。日本においても海賊版サイトへのブロッキングの目的として著作権保護を挙げているが、実際にはコンテンツ産業の保護という側面があるのは間違いない。
海外の著作権侵害に対するサイトブロッキングは、知財戦略本部の資料によると2017年9月には42か国で導入されている。いずれも著作権法などの根拠法か裁判所の判断に基づきブロッキングを可能にしている。
特にEUでの導入が目立つが、これは「加盟国は、媒介者が提供するサービスが第三者によって著作権又は関連する権利の侵害のために使用されている場合、権利保有者が当該媒介者に対して差止命令を申し立てることができるようにしなければならない」という情報社会指令(Information Society Directive)第8条第3項の義務に基づき、各国で法律を制定しているからである。ただし、この場合はあくまでも権利保有者が申し立ての主体であって、政府や通信事業者が恣意的に行うものではない。
アジア地域もサイトブロッキングの導入が目立つ地域だ。タイ、マレーシア、インドネシアなどは経済成長が著しい国であり、コンテンツ消費の拡大に伴う国外からの著作権侵害対策への圧力が強い。また、単純なコンテンツの著作権侵害対策だけでなく模倣品販売への対策といった面も大きいだろう。この場合は対外政策としてのブロッキングの意味合いが強くなり、政府による恣意的な運用につながる面も否定できないだろう。
中国でも経済発展に伴う国際的な批判の高まりによって、国内向けの海賊版や模倣品への取り締まりは格段に強化され、かつてのような無法地帯ではなくなってきている。その一方、著作権保護の範囲を超えて、政府が好ましくないと考えるコンテンツへの規制が強まっており、様々なサイトやサービスがブロッキングまたはフィルタリングされている。
自国民の個人情報保護を目的とするデータローカライゼーションも、実は自国の体制維持や産業保護が真の目的であることが珍しくない。インドネシアをはじめ東南アジアにこの傾向が強い。
個人データの不正な取得や第三者提供などを確認し取り締まるためのトレーサビリティ確保だけであれば、自国内にデータを1セット保存させれば済む話である。データの国外移転に許可が必要という場合には、個人情報保護以外の理由があると見てよいだろう。コンテンツ、サービス、ECなどの事業や取引費用が海外事業者に流出することを阻止し、国内への投資や雇用を促進し、取引に伴う税収を確保する目的が根底にあると考えられる。