以前記事にも書きましたが、「LJL最悪の日」という記事を書いて反響を頂いて以来、ただ話題喚起で終わることなく、自分に出来ることは何か考えていました。
そこで、自分に出来ることは、1.他メディアにトピックを拡散してもらえるよう掛け合う、2.関係者の方の意見を伺って問題を多様な観点で勘案する、3.問題の後の対策と目標を提示する、辺りではないかと落ち着きました。
1と2はGWの間に自分が当たれそうな箇所は当たったので、最後に3について記事にさせて頂きます。また本稿を執筆するに辺り、1と2で伺った専門家やメディアの方のご意見を最大限活用させて頂きました。この場を借りてお礼申し上げます。
又、今回の記事は相当量文章(約8000字)があるので、目次を付けられるはてなブログで掲載させて頂きます。
- 1.ライアットはPGM事件について再度調査する
- 2.各チームは再発防止を徹底し、選手のケアに務める
- 3.ライアット及び各チームは選手が集中して試合に集中できる最低限の環境を保障する
- 4.ライアット及び各チームはコンプライアンスを遵守し、事業の透明性を確保する
- 5.ライアットによる相談窓口の設置と、将来的な第三者機関の確立
- 6.PENTAGRAMは再発防止を徹底し、Dara氏との和解に尽力する
- 7.コミュニティは建設的な議論に務める
- 8.持続可能な成長ために長期的な視野を持つ
1.ライアットはPGM事件について再度調査する
2月、ライアットはPGMでの事件をまとめた報告書を出しました。
その数日後、PENTAGRAMが「ライアットゲームズ様の許可を得てリリースさせて頂いております。」という文言付きでその報告書を一部否定するような謝罪文を出し、Dara選手とBurning Coreがそれに対し抗議しましたが、その後事態は進展せず、Dara選手は引退に至りました。
このため、ライアットが2月に問題を調査しきれず、両者の意見が食い違ったまま放置したことは、大きな問題だと思います。
そのため、ライアットは今からでも、事件について再度調査し、何が原因でこのような問題に至ったのか解明し、それを後学のために発表する必要があると思います。
無論、PGMが主張したように、本当に「誤解に基づくもの」であったならば、相応の証拠を併せて提出した上で、2月時点の見解を覆して新たな見解を発表すべきです。その場合、過去のライアットの見解に基づいて書かれた私の文章は無論修正します。
ライアットが既に下した「最終的な当該事案の経緯および裁定」を変えないのは英断だと思います。
ですが、それだと「裁定」が下った後に、その裁定に反論しているようなPGMのリリースにライアットが許可を出した事と矛盾します。
裁定後のPGMリリースに許可を出した(もし出してないならライアットは否定するべき)以上、最低限PGMへの聞き込みを行い、「裁定後」の事柄についてPGM及びLJLを再度調査し、それを説明する責任はあると思います。
そして、今後に同様の問題が発生した場合に対策を予め決めるべきだと思います。
LJL参加チームおよび関係者に対するペナルティーについてのお詫び | NEWS | PENTAGRAM(ペンタグラム)
2.各チームは再発防止を徹底し、選手のケアに務める
本件の反省から、まずチームのオーナーやマネージャーは原則として選手の言葉に耳を傾け、彼らのメンタルを最大限ケアする必要があると思います。
選手といっても、社会経験すら経ずにチームに入った若者の人生をチームは預かります。そもそも専らゲームの強さを条件に彼らを雇う以上、人格や社会経験を酌みして人を雇う企業とは違います。
並の企業以上に、選手に対する教育、監督、精神的な面でのケアを行うのが、チームの義務ではないでしょうか。
外国人選手の場合は特段の配慮が必要になります。記事で述べた通り、言語的にも文化的にも彼らは弱者であり、負担を強いられます。
それを理解した上でも、チームの戦力になると期待して人を雇うのがチームである以上、PGMが述べた「齟齬」があろうが、多少でも威圧的に出るなど考えられない行為です。
また、どうしても問題が発生した場合、選手は原則としてライアットを仲介にした上で、チーム側と交渉する席を設けるべきだと思います。
まず、選手は基本的に雇用者という立場にある以上、彼らはオーナーに萎縮しがちです。それでもチームでの共同生活や、特に外国人選手の場合は文化的にも不満が増えた場合、選手は後述する相談窓口等を通じてライアットに相談し、彼らに仲立ちしてもらった上で、チーム側と腹を割って話し合うための機会を設け、和解するための努力をするべきです。
それでも選手が納得できない場合、片側の「リーク」という最悪の形を防ぐためにも、選手のプライバシーを最大限尊重した上で、秘密保持に触れない程度での、選手の発言の自由を認めるべきだと思われます。
3.ライアット及び各チームは選手が集中して試合に集中できる最低限の環境を保障する
選手の在留カードを返さない等は論外としても、LJLの全てのプロゲーミングチームが、選手が試合に集中できるために、必要最低限の環境が保障されているべきだと思います。
各チームにもそれぞれ経済的な事情もありますし、「最低限の環境」に明確な定義を求めることも難しいですが、少なくとも選手のプライバシーと健康的な生活、そして快適にゲームが出来る状態は、プロゲーマー以前に一人の労働者として守られて然るべきで、チームを運営する以上は最低限の責務です。
またチームの募集要項を見ていると、応募条件の割に待遇についてあまりに不明瞭なものが多すぎると感じました。
応募するまで具体的な給与すらわからないというのは、さすがに一人の若者の人生を預かる上で不適切だと思います。各チームは募集時の待遇についてより明細に説明する必要するのは不適切だと思いました。
Navillera Vuelo選手脱退 選手募集 | NEWS | PENTAGRAM(ペンタグラム)
4.ライアット及び各チームはコンプライアンスを遵守し、事業の透明性を確保する
LJLは5月7日時点の発表で、「あらためて全チームにコンプライアンスの指導徹底を図る」と説明しており、この点は評価したいです。
LJL全所属チームへのコンプライアンスの徹底について - League of Legends Japan League
ですがコンプライアンスに指導を図るというのは、要するに「日本で事業するなら日本の法律や社会常識ぐらい守れ」という、至極当然のことであって、具体性に欠けますし、そもそもコンプライアンスは原則「守る」ものであって「守らせる」ではないでしょうか。
まず、2月時点でも不思議だったのですが、PENTAGRAMの不祥事が明らかになった時点で、他のLJL加盟チームが殆ど何の発表もしないことに驚きました。
別に他チームがPGMを非難する必要しろというわけでなく、「自分たちはコンプライアンスを遵守し、選手の人権を守っている」程度の発表は各チームのファンも期待していたと思います。
ライアットが各チームに対してコンプライアンスの指導を徹底するのは当然ですが、ライアット以上に各LJL加盟チームがコンプライアンスを自発的に守るべきです。
これはチームにとっても大きな利益であり、自分たちが選手の身分を守るために、どのような工夫をしているか発表すれば、それだけでファンの信頼は高まると思います。
コンプライアンスの遵守は当然ですが、チームであれライアットであれ、仕事も人事もどうなってるのか外部から一切わからない、所謂ブラックボックス化の事業、大きな問題です。
関係者はSNSで「当人たちも努力している」と話していますし、私も各人間に取材する中でそれは本当だと確信できます。
ですが、それを知らない大多数のファンにとっては、人事や事業のブラックボックス化で不信を買い、その上で問題を起こした時に、見えない「努力」や「工夫」を評価しろというのは、さすがに虫が良すぎませんか。
特にコミュニティと結びつきの強い興行事業で、事業の透明性が殆どないのは、今後問題が起きた時に致命的な不信を買う可能性があります。
事業の上での機密等のリスクもありますが、透明性を確保することは自社を守ることにも繋がります。自分たちの意見を発信し、そこに携わる人間を明らかにするだけでも、大きくファンの印象は変わると思います。
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5.ライアットによる相談窓口の設置と、将来的な第三者機関の確立
ライアットは5月7日の発表で「所属選手を対象とする相談窓口を整備してまいります。」と説明しています。私自身も相談窓口の必要はメールでも伝えていたので、この判断は素晴らしいと思います。
ですが、さすがにたった1行にもならない説明では、機能するとも思えません。先程述べた事業の透明性もそうですが、仮に相談窓口を設置する場合、まず制度としてルールに明確化した上で、選手のプライバシーを保証する説明を加えるなどの工夫が、窓口を機能させるために最低限必要ではないでしょうか。
またこれは10年単位での将来的な希望ですが、ライアットのみに依存しない、プロゲーマーの権利と生活をある程度保証する第三者機関も、いずれ必要になると思います。
例えば、esportsの先進国と言われる韓国では、KeSPA(KOREA e-SPORTS ASSOCIATION)という組織が存在し、タイトルの垣根を越えて、選手の育成や管理、イベント運営や放送、及びそれらの補助といった形で韓国のesportsに貢献しています。
無論、彼らの存在意義の中には選手たちの権利を守る側面もあり、事実韓国で発生した、選手に対する重大な人権侵害問題に対しては、(AHQ Korea事件など)ライアットや警察と共同で捜査に乗り込むといった事もしています。
また、KeSPA関係者は行政との連携も強めており、選手たちの権利を守ることもさながら、タイトル同士の利権に囚われずesports全体を拡張するための施策を政府と共に乗り出しています。*1
https://www.famitsu.com/news/201802/20152243.html
一方、日本においても「一般社団法人日本eスポーツ連合」(通称:JeSU)という組織が存在していますが、リリースを読む限り自分たちの推奨するライセンス制度にかかりきりのようで、KeSPAのような機能は全く期待できていません。*2
無論、「第三者機関」によるesportsのサポートには経済的な側面を含め、相当量の課題があり、今すぐは難しいと思います。
ですが、今回の事件をLJLのみならず、今後のリスクヘッジを鑑みるなら、最終的には利権や人事に囚われず動ける第三者機関が、将来的に業界の大きな財産になると思います。
https://note.mu/nasobem/n/nebe5e3866748
6.PENTAGRAMは再発防止を徹底し、Dara氏との和解に尽力する
さすがに言うまでもないと思いますが、PENTAGRAM及び中村は改めてDara氏に謝罪し、再発防止に向けて努力するべきです。「中村、藤田両名の名誉回復のためにも最善を尽くし」とか言ってる場合じゃない。
まず、PGMはDara選手に改めて謝罪するべきだと思います。2月の謝罪文において、「経緯につきまして」という見出しの文章中で申し訳程度に「深くお詫びします」という不貞腐れたような文章で謝罪するのは、Dara選手のみならず彼のファンが読んで納得するはずもありません。
経緯や見解のアナウンスとは別に、明確にDara選手やTussle選手に対して謝意を伝えるのが最低限の誠意ではないでしょうか。
とは言え、PGM側の言う「お互いの齟齬がもたらしたもの」という反論が悪いと思いません。ただ反論する以上は、一人の極めて有望な選手生命が絶たれた以上、客観的に誰もが納得できるまで徹底した証拠提出と議論を重ねる責務があります。
しかし、仮に「お互いの齟齬」があろうと、起きた事実は取り返しのつかないことです。どのような事情があろうと、ライアットが問題として明確化しており、かつ日本国の法律や社会通念に照らし合わせても、到底許されることではありません。
ライアットもその裁定を変えないと5月7日時点で断言している以上、どんなエクスキューズでも自身の責任を相殺することはあり得ません。必ずDara選手及びTussle選手が納得できるだけの誠意を表し、可能な限り和解する努力するべきです。
ただ、Dara選手は既に精神的にも疲弊し、韓国に帰国している身でもあり、PENTAGRAMの中村氏や藤田氏を心から恐れています。
Dara選手が信頼できる人間の仲立ちを以て交渉するべきで、そのための費用は当然全てPGMが負担するのが妥当と思われます。
7.コミュニティは建設的な議論に務める
正直話が大きくなりすぎるので言及を控えるつもりでしたが、Twitchコメントを見ていて流石に嫌気が刺したので言及します。
まず、Dara選手の引退と、PGMとRiotの不誠実な対応により、ファンが怒るのも当然です。Dara選手は3年間LJLを支え続け、3度優勝に導いた唯一の人間です。彼のファンも多いでしょう。仮にファンでなくとも、誠実で謙遜を知り、積極的に日本語を学ぶ彼を嫌う人は殆どいなかったと思います。
私個人もDara選手とRoki選手の共演が見れるというだけで、本心からSCARZ Burning Coreを応援していました。しかし夏からDaraはいません。SZBCのファンを辞める人すらいる。これは決して許されるべきでない問題です。
そして、その問題を認識し、実際に声を上げて疑問を呈する人が増えたのは、とても素晴らしいことだと思います。
しかしながら、その怒りの矛先をPENTAGRAMの選手にぶつける人が存在していたのは残念です。特にTwitchコメントは酷い罵詈雑言で(見境のないモデレーターのBANも問題があると思いましたが)、日本代表の国際戦というのに酷い有様でした。
私は「LJL最悪の日」という認識は一切変わりませんし、私にとって当たり前の事実を書いただけですが、それでもこうした暴論の支えになってしまうのは心苦しいし、申し訳ないと思います。
私は記事で「esportsを支えるのがコミュニティなら、esportsを不正のないものに監視するのもコミュニティ」と言いました。
けど暴言で業界の不正は減りません。というか、直接関係のない選手に罵詈雑言を吐いても、せいぜいゲハブログのような手合に餌にされるだけで、誰も得をしないわけです。
本当に問題を解決したい、Dara選手のためになることを考えれば、まずこのような事が起きないためにどうすべきか、理想的な競技シーンとはどのようなものか、そのために何が必要か、問題のあるチームに対して何を尋ねるべきか等、建設的な話し合いが必要だと思います。
8.持続可能な成長ために長期的な視野を持つ
最後に、私が取材する中でも、チーム・ライアット問わず人的、経済的リソースに限界があり、その中で関係者各人の努力があることで、LJLというシーンが維持できていることがよく理解しています。
しかし、ファンが最も愛した選手の1人が「LJLに失望しました」と言って去ることが起きた以上、最早その「維持」すら限界を迎えていると言わざるを得ません。
選手の生活やファンの信頼を犠牲にしてまで、今のシーンに価値を見出すファンが何人いるでしょうか。
正直に言うと、今のLJLにおける問題が「在留カード」一つで済むと思えません。選手の活動中の生活や給与は本当に保障されているのだろうか。オーナーに恐喝されてはいないだろうか。そんな次元まで疑われても仕方ないのが、この在留カードを巡る人権問題です。
少なくとも、esportsをビジネスとして確立させ、日本社会の中で浸透させていき、ファンも選手も満足させるのが日本のesportsの目標なら、「在留カード問題」は避けて通れぬ問題ではないでしょうか。
LJLをあと1年続けるだけでいいなら、誰も悪くない、皆頑張った、悪意があったわけじゃないと村の中で言い続ければいい。
あと5年LJLを続けるだけの、経済的余力や社会的信頼を確保したいなら、選手とファンに筋を通せ。
これは個人の意見でなく、一般常識です。esportsを維持・拡大する上で社会と結びつく必要があるのなら、当然社会に認められる最低水準を満たさなければならない。
ましてスポーツと銘打った興行事業、新しいファンを増やすなら、ファンが尊敬する選手を守らなくてどうするんですか。
数々のメディアで取り上げられた時、本来LJLに対して興味のないであろう、Redditでの海外のLoLプレイヤーや、日本のニュースサイトのゲームファンのコメントは、嘲笑と憐憫に満ちたものでした。こんな地獄があるのだなという目で、彼らは笑っていました。
それが、「一般人」の当たり前の考えです。自分たちの身内が批判に晒されて辛い気持ちがあろうと、それを受け入れない限り、永遠にesportsは一般人に認められる日は来ません。
持続的成長のためには、必ず長期的視野が問われます。上述したものだけでなく、他にも工夫の余地はいくらでもあります。使えるリソースに限界があるのはわかる。
だけど、運営、選手、コミュニティの健全性を維持しないと、やがて今回のようなLJLを揺るがす問題に直面します。
関係者の方が努力しているのはわかります。少なくとも、全員が悪意があったり無能なわけではない。中には、優秀で誠実で、誰よりゲーム、選手、コミュニティを愛する人がLJLを支えいていることは、取材の中で痛い程理解できました。
そうでなければ、私のようなただの一人の個人ブロガーに耳を傾け、信頼してくれる人間もいないでしょう。
だからこそ、5月7日にライアットが発表した、たった1枚の紙切れで事件が終わり、PENTAGRAMが何も発表しないままなら、私は本当に残念です。
コミュニティとリーグの間には一生の不信と遺恨が残り続け、社会的にもLJLの信頼が地に落ちるのは避けられないと思います。
起きてしまったことは仕方ない。その時に出来る事は、まず第一に起きてしまったことへのケアであり、次に二度と起きないための対策です。
それは再調査、チームの意識改革、選手の権利保障、相談窓口の制度化、事業の透明性の確保、コミュニティの活性化何でも構いません。実現が難しいなら、他にいくらでも工夫できる課題はあると思います。
私は5年後もLJLを見たいです。もっと大きな会場で、もっと優秀な選手の、もっと凄いプレイを。何なら世界という舞台に立って、日本の競技シーンの底力を見せる瞬間を、夢見ています。
そして最後に、改めて。残念な経緯がありましたが、どうあれ私のDara選手に対する敬意は今でも揺らぎません。
Dara選手、3年間素晴らしいプレイを見せてくれて、本当にありがとうございました。