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漫画やアニメなどを著作権者に無断で配信する海賊版サイトへの対策として、ISP(インターネット接続事業者)が海賊版サイトへのアクセスを遮断する「サイトブロッキング」を実施するのは是か非か、大きな論争となっている。日本政府は4月13日、ブロッキングによる対処が適当な著作権侵害サイトとして、「漫画村」「AniTube!」「MioMio」を例として挙げた。
代表的な意見には「大規模な著作権侵害は野放しにしておけず、やむを得ない」、「法律や裁判所の決定なしにブロッキングするのは、通信の秘密の侵害に当たり違法」、「そもそもブロッキング自体が表現規制や検閲につながるので反対」などがあるだろう。
過去には人権侵害を理由とする児童ポルノのブロッキングについて、実施までに3年の議論を要した。日本ではサイトブロッキングは通信の秘密や表現の自由、検閲の問題などに抵触し得ることから、極めて例外的な措置と考えられていた。
一方海外では、サイトやサービスへのブロッキングが急速に広まっているという実態がある。本稿ではブロッキングの是非を論じるための材料として、海外におけるブロッキングの実態を解説したい。
ブロッキングとは何か
インターネットにおけるブロッキングとは、一言で言えばデータの流通を遮断することである。セキュリティ対策の場合は、個人情報や機密情報などのデータ流出の阻止、あるいは破壊的なプログラムデータの流入阻止である。海賊版や児童ポルノ対策の場合はデータ流入の阻止による閲覧制限である。
例えばサイバーセキュリティ対策向けのブロッキングは、世界的に推進されている。DDoS(分散型サービス拒否攻撃)やマルウエアなどについては、検知でき次第速やかな対策が求められる。このため、マルウエアを制御するC&Cサーバーへのアクセス遮断のようなブロッキングは、被害を抑えるための重要な手段の一つとされている。加えて、サイバー攻撃は国境を越えて世界同時多発的に発生することが増えているため、国際的な連携も進んでいる。
一方、純粋なサイバーセキュリティ目的のブロッキングではなく、政府や産業界が何らかの目的に沿ってデータの流通を制限するブロッキングもある。日本を含めて世界で是非を問われているのはこうしたブロッキングだ。
越境移転制限やデータローカライゼーションと絡めてデータ流通を制限する
データ流通の制限という点でブロッキングと混同しやすい概念に、国境を越えて流通するデータを遮断する「越境移転制限」、あるいはデータを国内に保持させる「データローカライゼーション」がある。これらは相互に関係性が深いため、個別ではなく全体を俯瞰して理解する必要がある。基本的な構造を図に示す。
データ流通を制限する目的については後述するとして、まずは機能の構造をみていきたい。一般にブロッキングやデータローカライゼーション、越境移転制限は何らかの法律に基づいてデータの流通を制限するものである。
例えばEUにおける個人情報保護法であるGDPR(一般データ保護規則)は、基本的に本人の同意を前提とするデータ流通の規律であり、越境移転制限に違反すると強力な罰則がある。
だが、こうした罰則は「EUだからこそ執行できている」という側面がある。越境移転制限に違反した海外企業への罰則の執行は、国際的な執行関係がある場合や大国としての影響力なしには困難だからだ。
このため多くの国は罰則の執行に代わり、ブロッキングという強硬手段によるデータ流通制限を検討している。また、法令違反を検知し、違反者の特定や違反データ削除などのデータ流通を管理するため、データを国内のサーバーに保持させることを法律で義務づけるデータローカライゼーションという手法が生まれた。
2018年3月に成立した米国のCLOUD法(Clarifying Lawful Overseas Use of Data)は、他国のサーバーにある米国民のデータについて米政府が閲覧できるとしている。その一方で、各国が法制度に基づいてデータローカライゼーションを施行している場合、情報が開示されない場合があることを認めざるを得なくなっている。
ブロッキングの手法も多様化しつつある。DNS(Domain Name System)やIPアドレスでサイトやサービスへのアクセスをまるごと遮断する「サイトブロッキング」だけでなく、特定の単語や画像をブロックする「データブロッキング」あるいは「フィルタリング」(日本におけるフィルタリングと異なり、ユーザーによる同意の有無は問わない)と呼ばれる方法も珍しくない。
今後は人工知能(AI)の進化に伴い、回避策が多くオーバーブロッキング(遮断の必要がない通信までブロックしてしまうこと)などの副作用も多いサイトブロッキングだけでなく、精度の高いデータブロッキングが多用されていくことは間違いないだろう。