いるな、とは感じていたんです。
昨晩の事です。
その日、ヒダマルは寝つきが悪く、夢と現実の境目を行き交うような感覚で眠っていました。
その所為もあってか、感じ取ることが出来たのです。
……ええ、いるな、とは。
右手首には、妙な違和感がありました。
この部屋に、自分以外の何かが存在していることは、理解していました。
しかし、だからといって、ヒダマルに何が出来るでしょう? せいぜい、お香を焚くことくらいでしょうか。けれど今は、線香を切らしています。
手首に不快感を覚えつつも、夢とうつつの狭間で、彼女がこちらに近づいてこないことを願いながら、ヒダマルは眠り続けていました。
そんな時、
現れたのです。
今思い出しても、ぞっとします。
彼女は、ヒダマルの耳元で、こう囁きました……
「プゥ~ン……」
蚊ッ!!
みなさん、こんにちは。
右手首を掻きながら、朝イチで蚊取り線香を買いに出かけたヒダマルです。今年も戦いが、始まる。
重大発表。
さて、「ホラー小説を発表してみる」の第二段ですが……、今回でラストです。
万が一にも楽しみにしていた方がいらっしゃれば、申し訳ありません。
いやね、ストックはあるんですよ?
でもね、ちょっと状況が変わりましてね?
実はこの度、ヒダマルは……、
小説家デビューしたのです。
「アマゾン・ダイレクト・パブリッシング(ADP)」というプラットフォームにて、kindleの電子書籍を世に送り出しました。
↓リンクからアマゾンへ飛べます↓
本当は、作っていた五作品をブログで発表した上で「kindle版でも発表したので、読んでみてくださいね。お値段はタダですよ。だってブログでも読めるもんね」という方向で行こうと考えていたのですが……、「0円」という設定は出来なかったんです。
そこは企業さんの方針ですから、乗っかるしかありません。文句なし。
ただ、「お金を頂く」となると……。
ブログで、すべて無料で公開したコンテンツに対し、お金を頂くとなると……。それはちょっと違うかな、と。
(「ウッピー」でも公開はしてたんですが、あっちは既に忘れ去られていたのでどうかノーカンでご勘弁ください……。削除しましたし)
こういった大人の事情があってですね、このブログでの小説発表はちょっと控えようと考えた訳です。
ぜ~んぶ見せるのではなくて、
「ヒダマルの小説をもっと楽しみたい方は、電子書籍でも読めますぜ?」
という作戦ですね。
ええ、販促ですね。
先程の長ったらしい前置きはですね、「ヒダマルはこういうね、笑えるホラー(!?)も書けるんだぜ」という宣伝ですね。
まぁ、こういうの嫌がる人もいるかもしれませんが(広告を何だと思ってるんだ)、こうもスッキリ前面に出されちゃ否定しづらいかな、なんて。
ヒダマルは胸張って行きますよ。
ええ、胸を張ってお値段発表しますよ。
お値段発表。
前回発表した「ぬっへへふっふ」、今回発表する「インタビュー」、加えて「健康に愛を込めて」「女の手」「電車通学の思い出」、計五作品のショートホラーをセットにしまして…………、
なんとお値段…………、
100円!!
100円ですってよ奥さん!
打ち間違えじゃありませんよ、100円ですってよ、ひゃくえん! 驚愕のワンコイン! 買わない理由が見つかりませんわねオホホホォ!!
……うんまあ、安いですよね。
これはキッチリとした理由がありましてですね。
まず、そもそも無料公開作品群であったこと。
先ほども言いましたが、電子書籍でもタダで売ろうと思ってたんですよ。
そのため、設定できる最低金額としました。……本当は99円なんですけど、キリが悪いので100円に。
次に、分量が少ないこと。
この商品は計13000文字、文庫本換算で40ページに満たないのです。まぁ、このボリュームならもう少し値を上げても良いのですが。
最後に、「とりあえず買ってほしい」こと。
これはもう、完全にヒダマル側の理由です。なるべく窓口を広くして、垣根を低くして、とりあえずは読んでみてほしい、その中から、ヒダマルのファンになってくれる方がいてくだされば嬉しい、という姿勢です。
小説家デビューと言っても、路上ライブみたいな感覚なのです。
誰かの目に留まればいいな、と。
えー、いつにも増して前置きが長くなりましたが、そろそろ「インタビュー」に参りましょうか。
前回とはガラリと違ったタイプの作品です。
では、どうぞ。
インタビュー
待っていたよ。
待ち侘びていた。
待ちくたびれてもいた。
もう帰ろうかと思って支度をしていた。もちろん冗談だからそんな帰りたそうな顔をしないでくれ。さあどうぞ座ってくれ。そこじゃないこっちの椅子だ。そう。ようこそ。
縁の下の力持ちに陽の目を当てる貴社の企画は素晴らしいと思う。しかし理解してくれると嬉しいのだが、私の職業は裏方中の裏方だから、こういう機会は滅多になくてね。要は慣れていないのだ。
そのため私のような者の言動は、君のようにゆとりで育った経験の浅い時間を守らない駆け出し女性記者には少々挙動不審に映ることもあるだろうが気にしないでほしい、具体的には舌打ちをしないでほしい。
私が悪かったから。
この通りだから。
ああ、助かるよ。君たちも自然体でいてくれ。マイクは気にしなくていい。
では始めようか。
この度、作家生活三十周年を迎えた超有名漫画家のアシスタントになれたことは、非常に光栄に思っている。なんなら怯えている。
もしかすると、君が幸福に怯える人間の心理を理解できないという愚鈍な人種である可能性も考慮して、敢えて説明を加えるとするならば、少々長くなるのだが、いや、そんなこと言わずに聞いてほしい。人助けだと思って。頼むから。いかないで。
ありがとう。なるべく短くまとめるよう努力しよう。
少々狭苦しい場所で申し訳ないが、いや、君にとっては違うのだろうが、ともかく最後まで聞いていってくれ。
そもそもは、私も漫画家を目指していたのだ。
きっかけはよくある話で、私は幼少時代から漫画を読むのが好きで、何よりも大好きで、好きが高じて自ら絵を描くようになり、それがクラスのみんなに結構な評判で、言っちゃなんだが非常にモテた。その辺のボールが友達爽やかスポーツ少年よりも数百倍モテた。
ところで一般に人生にはモテ期が三度来ると言うが、貴重なその一つが欲望を昇華する術のない小学時代に訪れるというのは不公平が過ぎると思うのだが、いや待て、席を立つのはまだ早い。このくらいで訴えるのも早計だと私はそう思う。
断っておくが本当に何の誇張もしていないし、私の主張の肝はモテ自慢ではないのだ。その証拠に、私は自分の顔が抜群に良いとは思っていない。性格の自己評価も的確なつもりだ。後生だから頷かないでくれ。
要するに、それくらい上手かったのだ、私の絵は。今も上手いと自負しているし、トーンと点描を駆使した心象背景などは同業からも一目置かれている。何か描いて見せようか? サインも入れてあげよう。遠慮せずに。ああ、いいのか。そうか。うん。
君の次の質問はわかっている。
〝そんなにも絵が上手いのなら、なぜ漫画家を諦めたのか〟だ。
お答えしよう。
〝絵が上手い程度の人間は、漫画界に腐るほどいるから〟だ。
身も蓋もない言い方で申し訳ないのだが、つまりはそういうことだ。絵が上手い人間などいくらでもいる。掃いて捨てるほどいる。ありのままの人間に価値などないし、世界に一つだけの花になれるのはよほど強運の持ち主だけだ。それが現実だ。
さらに金銭的な問題もある。未来にはばたく少年少女の夢を壊さないためにも漫画家志望者の生活事情は省くが、もしもつぶさに答えたとするならば彼ら彼女らを撃墜させるに十分な威力を誇る。なので教えられない。どうだい、見直しただろう?
ここが人生のピークかもしれない、と思ったことはあるかね。
少し考えてほしい。今、この瞬間が君にとっての天頂であり、ここから先は緩やかに堕落していく他ない運命というものを、ぜひ想像してみてほしい。小学時代、私が経験したことは、まさしくそれだった。
幸福のしっぺ返しとでも言おうか。
私のモテ期、絵が上手いだけでクラスの人気者だった時分は、唐突に終局を迎えた。誰も私の絵を欲しがらなくなった。似顔絵を描いてくれという注文も消えた。私の昼休みはそれで大忙しだったというのに。
ご丁寧にも「もういらないから」と言って絵を返しに来た大馬鹿者もいた。直近のクリスマスには子どもながらに彼の不幸を願った。次の年も願った。今? いやいや、今は恨んでなんかいないさ。安心してくれ。
ともかく私にとって、絵を否定されるのは、存在を否定されているに等しいことだったのだ。
存在を否定された人間に襲い来る感情がどんなものかわかるかな? なに? 少しは自分で考えたまえ。まったく君は本当に愚鈍な、いやいやいや早とちりはよせ私はグドンと言ったんだ。知ってるかいグドン。ウルトラ怪獣で触腕を持つんだが実はキックも強いという隙のないやつだ。いいよなグドン。君はグドンのように魅力的だ。だから腰を下ろしてくれ頼むから。ミネラルウォーター飲むかい?
寂しさ、だよ、君。
進化の過程で人間は、環境拘束性という縛りから抜け出した。逃げた先にあったのは、文化や社会という名の新しい鉄柵だ。その檻の中で、本当に一人になった時の寂しさたるや、控えめに言ってこの世の終わりだよ。
人は人に認められてこそ人間として生きていられる、そういう意味で、少年時代の私は人間ではなかったとも言えよう。今だってそうだ。
なに? そんなことないだろうって? 認められたからアシスタントになれたのだろうと? はっはっは、グドンは冗談がお上手だ、いや茶化して悪かった。どうかスマホを置いてくれ。今はグドンの画像検索は控えてほしい。お互いのためにも。
重ね重ねありがとう。さて。
人間であるが故の苦痛を取り去るためにはどうすればいいと思うね?
ずばり〝人間をやめる〟ことだ。
人間を諦める、と言い換えてもいいかもしれない。人間であることを、社会人であることを、人生の幸福追求を、悉く放棄するのだ。
この答えに辿り着いた瞬間の、眼が覚めるような解放感といったら!
夜空に叫びたいくらいだったが、景気付けに件の彼を殺しに行こうかとも閃いたが、結局どちらも中止したのだが、思えば私も未熟だった。そうすればよかったのだ、人間をやめるのだから。
とはいえ、言うは易しだ。
当然のことながら〝人間をやめる〟際に問題になるのは〝次に何になるのか〟だ。そうだろう?
それからというもの、確実に人間を放棄する方法を私は模索した。漫画家を諦め、生涯アシスタントであることを決意したのもこの頃だ。
そして、彼らを発見した次第だ。
私は人間をやめ、そして彼らの仲間になることに決めたのだ。
ここまで言っておいてなんだが、や、本当にこれは言い訳でしかないのだが、君にも一目見てわかるように、私はまだ完全には人間をやめていない。
それどころか、いかにも人間らしい感情も見せているが、私が君に嫌われたくないのは、アシスタントの職を失いたくないのは、当面の所は生きていたいからだ。嫌われ者に仕事は回ってこないからな。小学時代に学んだ数少ない知恵だ。人間をやめた暁にはこんな処世術も無用の長物になるのだが。その日が待ち遠しいよ。
準備ができていないのだ。やめる前に、向こうのコミュニティで気の置けない仲間を作っておきたいのだよ。杞憂かもしらないが。やはり経験上ね。君もどうだい?
いやいや、君が私のことを不審に感じているのは理解している。けれど向こうでは、なんというか、人間だった頃に気の合わなかった者の方が、波長が合うようなのだ。だからその辺は心配無用だ。彼ともこの通りだしな。
少し寒いかな? 気分でも悪い? 鳥肌が酷いようだが。悪いが君、窓を閉めてくれないか。ありがとう。
え、もういい?
終わり?
どうも話が逸れっぱなしだったような気もするが、そうかもうこんな時間か。それもこれも時間にルーズなぐど、いや何でもない。しかし楽しかったよ。君とはまた会いたいからいつでも連絡をくれたまえ。忘れ物の無きよう。
ああ、それでは。
今日はありがとう。
* * *
午後の取材相手は最悪だった。
確かに、遅刻をしたのは私が悪かった。先方の皮肉めいた言葉に咄嗟の舌打ちが出たのも若気の至りだ。幾度かキレて立ち去ろうとしたのも、思えば失礼極まりない。それらについては素直に反省しているし釈明するつもりもない。
それよりも問題は、それ以上に問題だったのは、あの男の言動だ。説明がつかない、意味不明な言動だ。
あの男、挙動不審どころではなかった。
はっきりと異常、というより異常事態だった。
〝人間をやめる〟うんぬんはただの戯言としても、だ。
君たちって誰だ?
彼らって何だ?
向こうって何処だ?
〝彼ともこの通り〟とはどの通りだ?
〝安心してくれ〟って、誰に向けて言ったんだ?
あの男は、誰にミネラルウォーターを勧めたのだ?
帰りしな、勝手に窓が閉まったのは何かのトリックだったのか?
あれは無礼な私への嫌がらせだったのだろうか? 一対一で向かい合った、客のいない喫茶店内で、若い女性記者をいたぶるのが趣味だとでも?
……いくら考えても、想像しても、推察しても推論しても、答えの出ないことばかり、それが世の常だ。所詮、漫画家などを目指すような天才肌の頭の中は、凡人には理解できないのかもしれない。と、そう結論付けることで、手打ちにするしかないのだ。
不可解な今日の終わりに、温めた梅酒を飲みながら、グドンの画像検索をして、眠る事にしようと思う。
あとがき。
……と、いうことで。
恐怖あり、涙あり、笑いあり(!?)のなんちゃってホラー短編集、ヒダマル文庫によります『5つのショートホラー』。
電子書籍にて、好評(かどうかは分からないけど)発売中であります。
↓改めて、購入はこちらのアマゾンから↓
お値段100円、このうち33円がヒダマルの収入となります。
うまい棒三本、チロルチョコ一個、中古の遊戯王カード一枚が買えますね。ヒダマルがむせび泣いて喜びます。
今回は半ばお試し用として発表した小説ですが、今までに描いてきたものを改稿して、順次リリースしていこうと計画しております。
ネットの路上でライブする、阿呆でニートなヒダマルですが、今後ともよろしくお願いいたします。