イタイイタイ病 50年 悲しい記憶 風化させぬ 地元農家語り部に 富山市・柞山八郎さん
2018年05月08日
あやさんの遺影を持ち「事実を語り継がねばならない」と話す柞山さん(富山市で)
富山市の神通川流域で発生したイタイイタイ病(イ病)が国内初の公害病と認定されて、8日で50年。被害の歴史を風化させてはならないと、語り部として活動する農家がいる。患者遺族らでつくる「イタイイタイ病対策協議会」副会長で同市に住む柞山(ほうさやま)八郎さん(76)だ。1967年に亡くなったイ病認定患者の祖母の壮絶な闘病生活の様子を生々しく証言し、イ病の教訓を次世代へ伝える。(前田大介)
「医師が往診に来ると、ばあちゃんは手を合わせ『先生、早く楽にしてくだはれ』と訴えた。その光景は50年以上たった今でも忘れることはできない」。語り部を始める原体験について、柞山さんはこう振り返る。
語り部は2012年から始めた。活動拠点は同市の県立イタイイタイ病資料館で、主に小・中・高校生を対象に月2、3回行う。苦しみに耐えた祖母あやさんの様子を、朴訥(ぼくとつ)とした語り口で伝える。
あやさんは働き者だった。19歳で嫁ぎ、農業をしながら子ども6人を育てた。農作業の合間には近くの小川で喉の渇きを潤すのが習慣だった。不調を訴えたのは50歳の頃。節々の痛みを訴え、あんまマッサージやおきゅうなど試したが、回復の兆しはなかった。
痛みは壮絶だった。骨がもろくなり、わずかな動作でも体に激痛が走った。「痛い、痛い」と声を張り上げては、もだえ苦しんだ。歩行が困難になると、自宅から徒歩数分の距離にある病院まで、家族が農業用の一輪車に乗せ半日がかりで送迎した。
自力で排せつができなくなる頃には「歩かれれば、背戸(家の裏手)の川に入って死ぬるがやけれど」との言葉が口癖になった。寝たきりの状態は4年続きイ病が公害病と認定される前年の67年、86歳で息を引き取った。
二度と公害を発生させまいとする柞山さんの活動は、語り部だけではない。遺族の一人として、イ病の原因企業、神岡鉱業(旧三井金属鉱業神岡鉱業所、岐阜県飛騨市)での立ち入り調査に20年来、参加する。公害は富山だけの問題ではない。健全な社会や環境を保つためにも「遺族が参加する調査の意義は大きい」と話し、監視の目を光らせる。
認定から半世紀たつ今、汚染土壌は復元され、農地は本来の姿を取り戻した。一方、記憶の風化は切実だ。イ病を伝える語り部は現在8人。平均年齢は70歳を超え、高齢化が進む。「残された時間はそう長くない。被害者やその家族に報いるためにも、事実を語り継がねばならない」。柞山さんの決意は揺るがない。
<ことば> イタイイタイ病 公害病 初の認定
水俣病、新潟水俣病、四日市ぜんそくと並ぶ四大公害病の一つで、公害防止や環境保護の大きなきっかけとなった。
神通川上流の神岡鉱山(岐阜県飛騨市)の排水に含まれたカドミウムが原因で発生した。カドミウムが体内に蓄積されると、骨軟化症などを引き起こす。容易に骨折しやすくなり、全身に激痛が伴う。厚生省(現厚生労働省)が68年5月、公害病と認定した。対策地域(約1500ヘクタール)の土壌復元は80年から開始。32年後の12年に完了した。
13年、被害者団体と原因企業の三井金属鉱業が前段症状の発症者に一時金を支払うなどとした合意書を交わし、全面解決した。認定患者は累計200人で、うち生存者は5人。
富山県は、50年に合わせて特別企画展「イタイイタイ病映像展」を開くなど、歴史と教訓を改めて心に刻む記念行事を実施している。
祖母の闘病、最期 次代見据え企業監視も
「医師が往診に来ると、ばあちゃんは手を合わせ『先生、早く楽にしてくだはれ』と訴えた。その光景は50年以上たった今でも忘れることはできない」。語り部を始める原体験について、柞山さんはこう振り返る。
語り部は2012年から始めた。活動拠点は同市の県立イタイイタイ病資料館で、主に小・中・高校生を対象に月2、3回行う。苦しみに耐えた祖母あやさんの様子を、朴訥(ぼくとつ)とした語り口で伝える。
あやさんは働き者だった。19歳で嫁ぎ、農業をしながら子ども6人を育てた。農作業の合間には近くの小川で喉の渇きを潤すのが習慣だった。不調を訴えたのは50歳の頃。節々の痛みを訴え、あんまマッサージやおきゅうなど試したが、回復の兆しはなかった。
痛みは壮絶だった。骨がもろくなり、わずかな動作でも体に激痛が走った。「痛い、痛い」と声を張り上げては、もだえ苦しんだ。歩行が困難になると、自宅から徒歩数分の距離にある病院まで、家族が農業用の一輪車に乗せ半日がかりで送迎した。
自力で排せつができなくなる頃には「歩かれれば、背戸(家の裏手)の川に入って死ぬるがやけれど」との言葉が口癖になった。寝たきりの状態は4年続きイ病が公害病と認定される前年の67年、86歳で息を引き取った。
二度と公害を発生させまいとする柞山さんの活動は、語り部だけではない。遺族の一人として、イ病の原因企業、神岡鉱業(旧三井金属鉱業神岡鉱業所、岐阜県飛騨市)での立ち入り調査に20年来、参加する。公害は富山だけの問題ではない。健全な社会や環境を保つためにも「遺族が参加する調査の意義は大きい」と話し、監視の目を光らせる。
認定から半世紀たつ今、汚染土壌は復元され、農地は本来の姿を取り戻した。一方、記憶の風化は切実だ。イ病を伝える語り部は現在8人。平均年齢は70歳を超え、高齢化が進む。「残された時間はそう長くない。被害者やその家族に報いるためにも、事実を語り継がねばならない」。柞山さんの決意は揺るがない。
<ことば> イタイイタイ病 公害病 初の認定
水俣病、新潟水俣病、四日市ぜんそくと並ぶ四大公害病の一つで、公害防止や環境保護の大きなきっかけとなった。
神通川上流の神岡鉱山(岐阜県飛騨市)の排水に含まれたカドミウムが原因で発生した。カドミウムが体内に蓄積されると、骨軟化症などを引き起こす。容易に骨折しやすくなり、全身に激痛が伴う。厚生省(現厚生労働省)が68年5月、公害病と認定した。対策地域(約1500ヘクタール)の土壌復元は80年から開始。32年後の12年に完了した。
13年、被害者団体と原因企業の三井金属鉱業が前段症状の発症者に一時金を支払うなどとした合意書を交わし、全面解決した。認定患者は累計200人で、うち生存者は5人。
富山県は、50年に合わせて特別企画展「イタイイタイ病映像展」を開くなど、歴史と教訓を改めて心に刻む記念行事を実施している。
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若侍の活躍が誇らしい
若侍の活躍が誇らしい。並み居る猛者相手に「二刀流」がさえる▼米大リーグ・エンゼルスの大谷翔平投手がマリナーズ戦で3勝目を挙げた。左足首捻挫の影響が心配されたが、メジャー自己最多タイの98球を投げて、6三振を奪った。緩急織り交ぜ、敵軍を翻弄(ほんろう)した。憧れるイチロー選手の前で堂々の投げっぷりである。21歳上の天才は会長付特別補佐になったが、来年の直接対決の可能性は残る。その時まで楽しみは取っておく▼米国からのTV映像は頭の体操にもなる。球種に“翻訳”がいる。ボールの縫い目「シーム」を付けた「フォーシーム」は速球、直球である。「スプリット」はフォーク系の落ちる球。頭の中で転換して、好投が納得できた。マイル表示の球速もキロに換える。99マイルを約160キロと換算して、すごさを実感。早朝から脳が刺激される▼米国で「two―way」(ツー・ウエー)と表現される二刀流の原点は、もちろん剣豪宮本武蔵。両手に刀を1本ずつ持つ剣法から転じて、同時に二つのことを行うことにも用いられる。兵法書『五輪書』には「二刀一流」、持っているものは使い切って闘うとの本来の意味が書いてある。仕事も同じ▼連休で緩んだ気持ちに、爽やかな“喝”を入れられた。さあ、気分一新である。
2018年05月08日
四国の野菜産地 人手不足に対応―選果場再編進む 広域連携体制固め
人口流出と高齢化が進む四国の野菜産地で、農産物を広域で集荷し、選果、販売する動きが始まった。愛媛県では、JA全農えひめを中心に複数のJAが連携。高知県はJA土佐あきとJA土佐香美で構想が進む。選果場の人手不足に対応する他、まとまったロットの確保で販売力の強化を目指す。(丸草慶人)
2018年05月04日
おつまみこんにゃく 山形県酒田市
山形県酒田市の宮田食品が、こんにゃくを加工した乾物風おつまみ。国産や地元産の材料にこだわり、庄内地方の米粉、日本海産のトビウオ粉末をこんにゃくに練り込み、腰のある食感に仕上げた。かめばかむほど味が出る。
同食品は「食物繊維が豊富でヘルシー。腹持ちが良くダイエットにも向く」と説明する。シンプルなデザインのパッケージで、女性からも人気だ。
1袋20グラム入りで230円。市内の直売所などで販売している。甘じょっぱい「貝ひも風」と、ブラックペッパーの辛味を利かせた「イカ風」の2種類がある。問い合わせは同食品、(電)0234(25)8808。
2018年05月02日
パックご飯 最多更新 生産18万トン超 10年で1・6倍
パックご飯の生産量が2017年は18万8875トンとなり、過去最高を更新したことが、農水省の調べで分かった。電子レンジで温めて食べられる手軽さから単身世帯や高齢世帯でのニーズが高まっている。備蓄用だけでなく日常遣いに需要が広がり、10食や5食パックなど大容量商品の人気が高まっている。(玉井理美)
日常遣い需要拡大
同省の食品産業動態調査によると、17年のレトルト米飯と無菌包装米飯を合わせたパックご飯の生産量は前年比1割(1万5700トン)増。10年前に比べて1・6倍に増えた。特に無菌包装米飯の伸びが大きい。
今後も需要の伸びを見込み、各社は増産に乗り出している。「サトウのごはん」シリーズの佐藤食品工業(新潟市)は、来年春に新工場を建設し生産量を2割強増やす。テーブルマーク(東京都中央区)も新潟県魚沼市の工場で製造ラインを増設し、8月に稼働する予定だ。生産能力が15%向上するという。テーブルマークによると、定番商品は3食パックだが、特に10食の大容量パックの売り上げの伸びが大きいという。同社は、防災意識の高まりもあり、買い置きニーズが高まっていると分析。また、「普段の食事で食べ、使った分を買い足す購買習慣も広がってきた」という。
東洋水産(東京都港区)も、来年秋に1・5倍に供給能力を高める。特に5食の大容量パックの伸びが大きい。近年は健康意識の高まりに対応した玄米ご飯商品も支持を集めているという。
全国包装米飯協会が昨年まとめた消費者調査によると、週に1回以上パックご飯を食べている人は26%で、日常的な消費が一定の広がりを見せている。購入したい商品について複数回答で聞いたところ、長期保存商品(42%)に次いで、家族向け大容量パック(30%)が多くなっている。
同協会は「調理が簡単で便利なパックご飯の需要は拡大している」と指摘する。パックご飯の需要動向が、米消費にとって重要になっている。
2018年05月05日
伊賀グリーンアスパラポタージュ 三重・JAいがふるさと
三重県伊賀地域産のアスパラガスを使った、風味豊かなポタージュスープ。内容量180グラムに対しアスパラガスが60グラム入り、寒暖差を生かして栽培されたアスパラガスの味をしっかり楽しめるよう仕上がっている。行政、ハウス食品グループのサンハウス食品、JAいがふるさとが連携し、開発した。
1袋380円。JA直売所「とれたて市ひぞっこ」やJAマートなどで販売する。JAホームページから、「伊賀牛カレー」「伊賀牛ボロネーゼ」とのセットで、全国発送にも対応。問い合わせはJAマートいがうえの、(電)0595(23)8966。
2018年05月04日
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[活写] 大役 6年ぶり 精魂込めて
島根県飯南町の農家らが、国内最大級の大しめ縄作りに打ち込んでいる。出雲市にある出雲大社の神楽殿に架けるもので、7月にも古いものと交換する予定だ。
同町注連縄(しめなわ)企業組合のメンバーらが毎日、作業場がある大しめなわ創作館に集合。自分たちで育てた「赤穂もち」「亀治」など草丈が高い品種の稲わらを編み、部品を作っている。
大しめ縄作りは6年ぶり。3カ月ほどかけて長さ13・5メートル、重さ4・5トンのしめ縄を仕上げる。
同町では50年ほど前から、しめ縄作りが盛ん。同組合の那須久司専務は「コンバインの普及で長い稲わらを手に入れにくくなり、組合で稲を育て始めた。立派なものを完成させたい」と話す。(富永健太郎)
2018年05月09日
イタイイタイ病 50年 悲しい記憶 風化させぬ 地元農家語り部に 富山市・柞山八郎さん
富山市の神通川流域で発生したイタイイタイ病(イ病)が国内初の公害病と認定されて、8日で50年。被害の歴史を風化させてはならないと、語り部として活動する農家がいる。患者遺族らでつくる「イタイイタイ病対策協議会」副会長で同市に住む柞山(ほうさやま)八郎さん(76)だ。1967年に亡くなったイ病認定患者の祖母の壮絶な闘病生活の様子を生々しく証言し、イ病の教訓を次世代へ伝える。(前田大介)
祖母の闘病、最期 次代見据え企業監視も
「医師が往診に来ると、ばあちゃんは手を合わせ『先生、早く楽にしてくだはれ』と訴えた。その光景は50年以上たった今でも忘れることはできない」。語り部を始める原体験について、柞山さんはこう振り返る。
語り部は2012年から始めた。活動拠点は同市の県立イタイイタイ病資料館で、主に小・中・高校生を対象に月2、3回行う。苦しみに耐えた祖母あやさんの様子を、朴訥(ぼくとつ)とした語り口で伝える。
あやさんは働き者だった。19歳で嫁ぎ、農業をしながら子ども6人を育てた。農作業の合間には近くの小川で喉の渇きを潤すのが習慣だった。不調を訴えたのは50歳の頃。節々の痛みを訴え、あんまマッサージやおきゅうなど試したが、回復の兆しはなかった。
痛みは壮絶だった。骨がもろくなり、わずかな動作でも体に激痛が走った。「痛い、痛い」と声を張り上げては、もだえ苦しんだ。歩行が困難になると、自宅から徒歩数分の距離にある病院まで、家族が農業用の一輪車に乗せ半日がかりで送迎した。
自力で排せつができなくなる頃には「歩かれれば、背戸(家の裏手)の川に入って死ぬるがやけれど」との言葉が口癖になった。寝たきりの状態は4年続きイ病が公害病と認定される前年の67年、86歳で息を引き取った。
二度と公害を発生させまいとする柞山さんの活動は、語り部だけではない。遺族の一人として、イ病の原因企業、神岡鉱業(旧三井金属鉱業神岡鉱業所、岐阜県飛騨市)での立ち入り調査に20年来、参加する。公害は富山だけの問題ではない。健全な社会や環境を保つためにも「遺族が参加する調査の意義は大きい」と話し、監視の目を光らせる。
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13年、被害者団体と原因企業の三井金属鉱業が前段症状の発症者に一時金を支払うなどとした合意書を交わし、全面解決した。認定患者は累計200人で、うち生存者は5人。
富山県は、50年に合わせて特別企画展「イタイイタイ病映像展」を開くなど、歴史と教訓を改めて心に刻む記念行事を実施している。
2018年05月08日
硫黄山噴火で宮崎、鹿児島 農業用取水を制限 JAグループ全力で支援 水稲作付け断念も
霧島連山・えびの高原(硫黄山)が噴火した影響で、長江川が白濁し、宮崎、鹿児島の両県の一部では農業用への取水ができない事態になっている。宮崎県えびの市では460ヘクタールで取水制限し、その大半で水稲作付けを中止する見込み。鹿児島県伊佐市、湧水町も風評被害を避けるため、長江川下流域の川内川から水を引く計620ヘクタールの水田で作付けを見送る。農家の収入減を抑えるため、両県とも飼料用作物などへの転換を探る方針。JAグループは支援に全力を挙げる。
2018年05月05日
[活写] 大きい甘~い夢じゃない!
駅前にビッグな「お菓子の家」出現──。ゴールデンウイークに合わせて、東京都目黒区で開かれている「自由が丘スイーツフェスタ! 2018」で3日、本物のクッキーやキャンディー、パンなど約2000個を使って建てた家が登場した。
東急線の自由が丘駅近くのテーマパーク「自由が丘スイーツフォレスト」が、同駅前に設けた特設ステージに作った。10年前に始めた当初は高さ2メートルだったが年々大型化し、現在は3メートルに拡大。訪れた子どもたちがうれしそうに見上げていた。
東京都目黒区から家族で訪れた上武千夏さん(8)は、「大きくてすごくいい匂いがして、食べたくなった」と笑顔で話した。イベントは7日まで。(江口和裕)
2018年05月04日
雨なかったのに山崩れ 長年かけた 岩盤の粘土化要因か 続く避難勧告 悩む住民 大分・耶馬溪
大分県中津市耶馬溪町で突然起きた山崩れから、もうすぐ1カ月。「雨も降っておらず、地震も発生していなかったのに」と予兆のない災害に住民らは困惑するが、林野庁などは現地調査の結果、要因は長年の地下水の浸透で土壌が粘土化して軟らかくなっていたことにあった可能性があると分析する。梅雨に向け新たな土砂災害が発生する恐れもあり、県は応急的な復旧工事を早急に進める。林野庁は、詳細な調査を踏まえた造成も検討している。(木原涼子、齋藤花)
4月11日未明の山崩れ。住宅4棟が土砂に巻き込まれ、6人の命を奪った。崩落現場は急な斜面の山麓に住宅が集まり、県が土砂災害特別警戒区域に指定していた。
地元のJA下郷によると、現場周辺は米作りが盛んな場所。緩やかに蛇行して流れる川に沿って水田が広がる。
被害者の捜索活動は4月下旬に終わり、自衛隊が撤退した今は、元の静けさを取り戻しつつある。だが、残った土砂に覆われた被災民家周辺は、今も規制線が張られている。崩壊直前の11日未明に土の崩れるパラパラという音を何度か聞いた人もいたが、予兆はなかった。
中津市は今後も土砂災害が発生する可能性が高いとの理由から、金吉梶ケ原地区の5世帯13人に避難勧告を続けている。ただ、2日時点で避難所に人はいない。現場を巡回したJA職員は「突然の出来事に集落では今後を心配する声を聞く」と説明する。一方で「土砂災害特別警戒区域であっても、災害の前兆がないと避難のタイミングがつかみづらい」と住民の思いを代弁する。
当初から自衛隊の待機場所や、助かった人が当面生活する住宅の世話などをしてきたJA。矢崎和廣組合長は「こんなときこそJAがあって良かったと言ってもらう取り組みをすることが、JAが地域に存在する理由」と強調する。
例年6月5日ごろに梅雨入りする九州北部地方。大分の山崩れを受け、警戒の余波が広がる。福岡県は急傾斜地や地滑り危険箇所のうち、山崩れ現場と同じ溶結凝灰岩が分布する109カ所を緊急点検に乗り出した。斜面に亀裂や落石がないか目視で確認し、住民に予兆現象がないか聞き取る。必要に応じ対策工事を検討する考えだ。
「極めてまれなケース」 でも… 防災意識 常に持って
林野庁、大分県と4月27、28日に現地調査した日本地すべり学会は29日、山崩れの原因を「地下水が土壌を軟らかくしたことが要因の可能性がある」と発表した。同会の落合博貴会長は「豪雨の影響などと違い、極めてまれなケース」という。崩れた斜面に地下水が湧き出ていて岩盤が軟らかく粘土化していたことから長年の地下水の浸透が深層部で進行していたためだろうと分析した。
現地の地質は、火砕流が火山灰や岩などを巻き込んで固まった溶結凝灰岩などの火砕流堆積物が主体だ。崩れる直前2週間の雨量は合計6ミリで、調査チームは地盤が緩む降雨量ではなかったと判断する。
同会長は「地下水は地表からは見えない。災害につながる要素が地下水以外に見つからない以上、災害発生予測は困難だった」と結論付ける。また「周辺の同じ地質・地形で同様の災害が起こるとは考えにくい」と話す。
詳細はこれから
林野庁は事業費約2億円をかけ、同県と共に崩落部分の地質構造や地下水の状況などの詳細調査を始めた。調査結果に応じ、崩れた斜面上に格子状のモルタル・コンクリートを造成するなどの対策工事をする方針だ。
同庁治山課によると、山地災害の発生件数は全国で毎年2000件以上に上り、9割が豪雨や台風が発生しやすい4月末から10月末に集中している。大雨などにより、山崩れや地滑り、土砂流出などの可能性がある山地災害危険地区は全国に18万カ所以上。近年はゲリラ豪雨なども頻発しており、災害が頻度を増す可能性もある。同課は「大雨や地震が起きたときに、土砂災害への警戒や避難の態勢を取れるよう、自治体や住民が防災意識を持つことが重要」と呼び掛ける。
2018年05月03日
[活写] イマドキ若者15万人 農の風景ドッキドキ ニコニコ超会議
千葉市の幕張メッセで28日に始まったインターネット動画配信サイトの大規模イベントに、兵庫県・淡路島の名物「タマネギ小屋」が初登場し、来場者を驚かせた。
同県洲本市が「ニコニコ超会議2018」の会場に、高さが約3メートル、奥行き約60センチの木製の小屋を作り、地元農家が提供した約600個の新タマネギをつり下げた。
淡路島では収穫したタマネギを小屋につって乾かしてから出荷する。同市魅力創生課の塩寺肇さん(48)は「タマネギ産地ならではの淡路島の風景を感じてほしい」と話す。
同市は2日間で約15万人が訪れるイベントで地域をPRしようと、昨年に続いて出展。タマネギは来場者に無料で配った。29日まで。(木村泰之)
2018年04月29日
ニホンジカ捕獲増へ 請負業者に協力要請 中部森林管理局
林野庁中部森林管理局は、ニホンジカの食害対策として、国有林の造林、治山などを請け負った事業体に対して捕獲などの協力を求める取り組みを始めた。全国初の試み。「くくりわな」の設置や見回りなどの協力を得て、ニホンジカの捕獲を増やし、森林被害の抑制につなげたい考えだ。
同管理局管内(長野、岐阜、愛知、富山の4県)の国有・民有林では、植林したばかりの苗木や木の皮が鹿に食べられる被害が年々拡大。2016年度の被害面積は計310・5ヘクタールに上った。
造林地を保護する防護柵を設置する一方、地元の猟友会と連携するなどして12年度以降、年間3000頭前後を捕獲してきた。しかし、捕獲従事者の減少や鹿の生息範囲拡大などで被害は増え続けている。
造林や治山などの事業を実施した場所には鹿が集まる可能性があることから、森林組合や建設業者など請負事業体に捕獲の協力を要請することにした。
具体的には、狩猟免許保有者がいる場合、事業を実施した場所周辺や通勤経路での「くくりわな」による捕獲、設置したわなの見回り・通報の協力を求める。4月から事業体にちらしを配布して、協力を要請している。
同管理局の事業は総合評価落札方式を採用しているが、今後は事業体の捕獲などの取り組み実績を技術点の加点対象とすることも検討している。
2018年04月29日
学生戻りGWへ観光も 阿蘇始動 熊本地震2年
熊本地震で被災し、2年間立ち入りができなかった東海大学農学部の阿蘇キャンパス(熊本県南阿蘇村)で26日、農業実習が再開した。施設が崩壊したイチゴの観光農園では経営者の若手農家がゼロからの出発を決意し、農業と観光の村の再興が進んでいる。阿蘇山上へ続く道路が復旧するなどゴールデンウイーク(GW)に向け、復興のムードが高まる。(木原涼子)
さあ実習 羊の毛刈り 東海大農学部キャンパス
「必ず素手で。怖がらないで大丈夫」。同キャンパスで畜産の世話などをする技術職員の實田正博さんが学生に呼び掛けた。学内で飼養する羊(サフォーク種)の毛刈り実習が始まった。学生38人が、電気バリカンを使って10センチほど伸びた毛を刈る。皮膚を傷つけないよう腹から足、背中へと1枚につながるよう慎重に手を入れる。羊の健康状態を確認しながら、初の実習に挑んだ。
敷地内に断層が走り、校舎も壊れた阿蘇キャンパスは被災以降立ち入りが制限された。学生は熊本市内のキャンパスで講義は受けてきたが、十分な農業実習はできなかった。初の毛刈り実習を終えた金野春香さん(19)は、「どこまでバリカンを入れていいのか、加減が難しかった。講義と実際は全く違う」と話す。
實田さんは「毛刈りは羊の健康管理の一環。毛だけなく、肉や皮も活用する羊は、人間の衣食住に直結していることを学んでほしい」と訴えた。大学は「農業実習の再開で、阿蘇に活力が戻ればいい」と願う。
イチゴ狩り農園 再開 南阿蘇村・原田大介さん
新品のハウスで、真っ赤に実ったイチゴが揺れていた。南阿蘇村にある阿蘇健康農園代表の原田大介さん(41)は被災したハウスを再建し、中断していたイチゴ狩りを今年再開。村の基幹産業である観光と農業の復活に、決意を新たにしている。
同大を卒業後、博物館学芸員などを経て2005年、農園を設立。年間400万人が訪れる宿泊施設「阿蘇ファームランド」に野菜を提供し、イチゴ狩りの客を受け入れていた。約3億円かけた温室には、最先端のコンピューター制御を導入した。季節による収入の波を解消しようと、加工品生産も導入。無農薬バジルを使ったペースト販売は順調だった。
そんな原田さんを地震が襲った。温室全体がゆがみ、10年投資してきた機器も無残に壊れた。停電が続き、水も途絶えた。バジル苗10万株も全量廃棄となった。ハウスを新設すればローンは二重。行政の復興事業を使っても1億円の借金となる。それでも、「苗を作ってくれる周辺農家とのつながりや、培った加工技術、従業員を守りたかった」と、農園を再開した。
5月から、同大の学生を受け入れ農業経営や技術を伝えるモニター農家に就任。後輩の育成にも関わる。原田さんは「甘い、うまいって声が聞こえると諦めずによかったと思える。熊本城には観光客が戻ったが、阿蘇はまだまだ。足を運んでほしい」と呼び掛ける。
火山の活動を間近で体感できる観光名所、阿蘇山中岳の第1火口(半径1キロ)の立ち入り規制が24日、解除された。26日には、第1火口方面と南阿蘇村の国道を結ぶ県道が約2年ぶりに規制解除され、通行が再開。大型連休に向け、観光農園や直売所などでは、観光客の増加に期待が高まる。
落ち込んだ観光客の回復と復興の加速へ、阿蘇地域7市町村の観光協会長らが今月「阿蘇広域観光連盟」を設立した。市町村の枠を超えて交流と連携を推進し、阿蘇観光の復興につながる事業や情報発信をしていく。
2018年04月27日
酪農の日常 付箋にペタン 熊本の高木さん商品化
熊本県和水町で酪農を営む高木真美さん(28)が手彫りしたはんこを押した付箋「酪農シリーズ」が、人気を呼んでいる。牛の人工授精や削蹄(さくてい)など、酪農現場では当たり前の作業風景を表現。酪農家を中心に反響を呼び、インターネットでも販売している。
2018年04月25日
観光資源は 農業そのもの 「日本産」技術を公開 授粉や剪定…体験提供 山梨の果樹園
観光などで日本を訪れるインバウンド(訪日外国人)が右肩上がりに増える中、日本文化や栽培技術を伝える本格的な農業体験で、各国から旅行者を呼び込む農園が出てきた。収穫体験などのイベントだけでなく、日本の高品質な果実を生産する栽培技術や農村の風習を伝えることで、「日本を知りたい」と定員をはるかに超える申し込みが集まる。草刈りや剪定(せんてい)などの農作業ボランティアで来る人もおり、農村の新たな観光として浸透し始めている。
果樹園が広がる山梨県南アルプス市。桃園に陽気な声が響く。草刈りに没頭するのは海外からの旅行者だ。米国やドイツから来た5人が約1週間、農園の宿舎に滞在してボランティアで農作業を体験する。米国人のジョン・シエルさん(26)は「観光旅行では得られない、日本文化を体験できる。果樹園からは富士山も見える」と満足げだ。
受け入れるのは観光農園「中込農園」。英語のホームページ(HP)で、授粉や剪定といった日本人がこだわる栽培技術を発信。伝統文化や風習なども伝え、「本物の日本を知りたい、感じたい」と望む各国の旅行者を呼び込んでいる。
農園代表の中込一正さん(60)は元英語教師で、米国の大学院に留学した経験を持つ。インターネットが普及し始めた1997年には英語で農園のHPを開設し、訪日外国人に果実の収穫や農作業の体験を提供する観光農園を軌道に乗せた。現在、訪れる外国人は年間100人。ネットやツアー会社などを通じて年間3000人の申し込みが舞い込み、「受け入れ切れず、ほとんど断っている」ほどだ。
人気の秘密は、海外の人々に日本の高品質な果実生産の実際を伝え、理解してもらうこと。英語版HPで、枝の剪定から授粉、摘果といった一連の手作業を10ページにわたり解説する。東南アジアなどでは日本産果実が1個数千円で売られており、「日本ではどうやって作っているのか」と興味を抱き、農園を訪れる人もいる。中込さんは「勤勉な国民性、もてなしの心といった日本の本質を伝えることが、外国人の心をつかむ」と強調する。
訪日客の農泊に有望
地方自治体の公認民泊の仲介サイト「ステイジャパン」を運営する百戦錬磨(仙台市)は「地方の食事や人々の生活に関心がある訪日客に、農家民泊は需要がある」(管理部)と指摘する。
政府は、農村への滞在型旅行「農泊」の推進を観光政策の柱に据える。2020年度までに、訪日客の地方での延べ宿泊数を7000万人泊に設定。農水省は農泊をビジネスとして成り立たせる地域を500にする目標を掲げ、推進の旗を振る。
観光庁が3月下旬に発表した17年の訪日外国人は約2870万人で前年の19%増。中国、韓国、台湾、香港などからの来訪を中心に右肩上がりに増加。訪日客の旅行消費額は4・4兆円と過去最高を記録し、新たな国内産業として成長している。
2018年04月25日