企業のデジタルシフトが加速化していくなかで、データマーケティングへの期待とニーズは、ますます高まりを見せている。そんななか、自社サイトを訪れたユーザー行動を分析すれば、顧客満足度の向上や、売上アップに繋がる深いインサイトを得られるのではないか、と考えるのは当然だろう。
通常、そのベースとなるのは、ファーストパーティーデータだ。しかし、サイトを訪れたユーザーのうち、コンバージョンする割合は、一般的に1%程度だと考えられている。実に99%のユーザーについては、せっかくサイトを訪れてくれているにもかかわらず、ほとんど素性が分からない、というのが現実なのだ。
強力な見込み顧客である99%の匿名ユーザーは、どういう属性で、どういうライフスタイルを持っている人たちなのか。何に興味関心を持っているのか。購入への熱量はどれくらいあるのか。これらを知るカギは、サードパーティーデータの活用にある。
株式会社PLAN-Bが2015年にリリースした「Juicer(ジューサー)」は、とても個性的なパブリックDMPだ。このブラウザベースで使える無料DMPは、3万のWebサイトデータ、250万件のモニタデータ、36億件の企業情報や地域情報、590万件のクチコミデータといった集合知データを分析することで、まだ顧客化していない99%の匿名ユーザー像を可視化できる機能とデータを提供する。きわめて強力なユーザー分析ツールなのだ。
Juicerは、そうした膨大なデータを蓄積し分析するための基盤として、TREASURE CDPを採用しており、データ分析の精度向上と、サービスのスピーディな開発にフル活用しているという。PLAN-Bとトレジャーデータ、両社が思い描くデータマーケティングの未来とはどのような姿をしているのか? PLAN-BでJuicer事業部プロデューサーを務める西岡彩織氏、トレジャーデータの中野学氏、ふたりの対談から探る。
中野 学 氏(以下、中野):西岡さんは2015年に新卒で入社されて以来、Juicerの担当一筋と伺っています。西岡さんの目から見て、Juicerと、それを取り巻くデータマーケティング業界はどのように変化していると感じますか?
西岡 彩織 氏(以下、西岡):やはり、匿名データの分析精度が大幅に向上したということが第一でしょうか。特に、顧客ではないけれどWebサイトには訪れるといった、見込み度の高い匿名ユーザーの分析ができるようになったのが、一番の進歩だと思います。
中野:Juicerのサードパーティーデータは、その信憑性の高さが市場から支持されていますよね。正解データはどのように集めているのですか?
西岡:リサーチ会社や、正解データをお持ちの企業からいただいて、それを機械学習にかけることで、匿名データにデモグラフィックを付与しています。
中野:それはまさしく最近の手法ですね。以前は、ウェブサイトの広告枠の申請時の情報や複数のサイトから取得できる推定情報などをベースにしてデータを作るのが一般的でした。この推測されたデータを正解データとして利用していましたが、スパース(歯抜け)データなので精度が低いことも課題でした。それに、DMPが市場に出はじめた2014年頃は、ポイントサイトで収集されたデータなども含まれていたため、信頼性の低いデータも流通していた印象があります。そういったデータをもとに分析すると、たとえば主婦がウェブサイトをよく利用しているという誤った分析を導く結果になることもありました。
西岡:そういえば、弊社もリサーチ会社や企業からいただいたデータを取り入れる以前は、インターネット行動ログから得られた推定データを正解データにして、さらに推定するといったモデルを作ってみたこともありました。ですが、精度はいまいちでしたね。
中野:推定データをもとにさらに推定データを作成するといった形でどんどん薄めていくと、結局何のターゲティングもしていないのと同じことになってしまう。そうではなく、少しでも粒度の小さいデータを、どうやって集めるかが大事だなと思います。
西岡:そうですよね。Webサイトのログからだけですと、他社との差別化にはなりませんし。
「DMP不要説」が出た理由
中野:Juicer(ジューサー)を最初に見たとき、これは衝撃的なツールだなと思いました。
西岡:ありがとうございます。嬉しいです。どこがいちばん衝撃的でしたか?
中野:当時は、ほかのウェブアナリティクスのなかでペルソナを作れるツールはなかったと思いますが、Juicerは1〜2回クリックするだけで、もうペルソナのイメージが出てくる。それに、とても驚いたのを覚えています。逆に、西岡さんから見て、TREASURE CDPはどういうサービスでしょうか。
西岡:TREASURE CDPは、さまざまなデータを集約するためのベース、ですね。繋げられるデータは、オンラインに限らないし、定量、定性を問わない。それって、すごいと思います。ひとつのIDで、リアルデータとWebデータを繋ぐなんて、Juicerの構想当初は夢物語でした。
中野:数年前のDMPの解説図には、このデータとあのデータが繋がりますよという、曼陀羅(まんだら)図的な図解をよく見ましたが、いまようやく実現された感じがありますね。
西岡:私たちも自力で、その曼陀羅図的なものを実現しようとしていたのですが、最近は、御社のように必要ならば他社のサービスと繋がっていけばいいという指向に変わってきました。スピード感は大事です。
中野:インハウスでもできますが、それができるのは数年後ですとなると、ちょっと厳しい。マーケターはとにかく早く欲しがります。思いついた施策はすぐやりたい人種ですし。
西岡:それが、一時期、DMP不要説が出た原因かもしれませんね。
中野:ターゲットを絞って広告を配信しても、その結果、目的に見合わない成果になるなら、DMPを利用しないオーディンスデータでやったほうが安くつく。データを細分化していくのは、結構、労力がかかるので。
西岡:データの費用をどこに付けるかによって、計算仕様が変わってきますよね。
中野:DMPを広告配信だけを目的に使うのであれば、割に合うことはないと思います。データやサービスの利用費用が広告の配信費用に追加されるので。DMPを使ったからといって、いまの時代、高い広告効果が出るとは考えにくい。そこはお客様とちゃんと目的を合意したうえで施策を実行しないといけないと思います。
西岡:その話は、DMP否定派の方からよく伺います。CPA改善に効かない、なんか割に合わないね、といった感じで。ただし、弊社のお客様の大半は、ユーザーを理解したいというニーズのほうが大きいのです。そのうえで、顧客化したユーザーとのコミュニケーションを密にしたい、離脱を防ぎたい、ロイヤリティを高めたい、といったご要望をいただきます。単なる効率改善ではなく、そういったご希望に応えることこそが、優先すべきことだと考えています。
「自分で分析した」という実感
中野:Juicerから納品される何百万行のデータを使い倒すには、使う側にもある程度のスキルが必要ですよね。Excelではデータが大きすぎて開けないので、分析担当者やSQLを叩ける人が必要です。そういう人がいない会社のためには、ある程度加工して納品する必要があると思いますが、それは御社が全部内製しているのですか?
西岡:Juicerは「ユーザー分析ツール」としてスタートしたので、リリース以来、ツールのインターフェイスはすべて内製しています。ただ、最近では、すでにDMPやBIツールをお持ちの企業様向けに、お使いのツールに投入しやすい形式でデータをご提供するということもはじめています。お客様がすでにTREASURE CDPをお使いならデータを流し込むだけで済みますが、BIツールをお使いであれば分析しやすいフォーマットに成形したり。
中野:マーケターには、自分でガリガリ分析したい人と、結果だけ見せてくれればいい人と、2種類に分かれますよね。
西岡:確かにそうですね。Juicerに開発当初から関わってきて思うのですが、分析結果が正解か不正解かに関わらず、お客様ご自身に「自分でやった」という能動的な感覚を持っていただくことが、非常に大事です。
ツールが言う通りに施策を立てた、ではなく、自身の手で出した分析結果をもとに決断して施策を行う、といった実感を担保するのがインターフェイスの使いやすさだと思います。これが最終的に継続利用に繋がっていくわけで、だからこそ、ツールとしてのJuicerの開発も続けていかなければと感じています。
価値をどうアピールするか
中野:ここ4年ほどでのDMPの進歩は目覚ましいものがありますが、反面、その価値をお客様にすんなりご理解いただくのは、ちょっと難しいと感じています。顧客データを加工してデータを利用できるハードルは低くなりました。なので、特に今後導入いただくお客様にとっては、データが正しいということは当たり前の前提なんですね。
西岡:それは日々実感しますね。
中野:昔はデータが30万行あり、縦軸に個人が並んていて、横軸に性別や年齢、興味などが並んでいても、個人一人ひとりの項目がすべて埋まっていることはありませんでした。その頃から考えると、きれいな正解データというのは、それはもう言い表せないぐらいの価値があります。
西岡:それに、アクセス解析ツールのデモグラフィックが正しいと思っているお客様はとっても多いのです。たとえば、ツールに表示される年齢分布の円グラフは、そもそもデモグラフィックが判明している人たちのなかでの分布に過ぎず、グラフの外に不明ユーザーがいっぱいいることは、ツール上では見せない。そういうことをご存じないお客様も多いので、そういった部分での啓蒙というか、アピールもしていかないといけないと思っています。
中野:一般的なアクセス解析ツールが保有しているデータは、各解析ツールが発行しているタグを通して収集したサイト情報などをもとにした推測データだと考えています。自社の会員データと紐づけるなどの分析を行わない限り、細かい年齢情報のデータは作り難いデータだと思います。
西岡:データの分析結果って、なんとなく普段感じていることが数字で示されたということが多いのですが、それをもって、わざわざ手間とお金をかけてまでツールを入れる必要なんてない、と思われることもあります。この辺はマーケターによってさまざまだと思いますが、私たちとしてはJuicerを、マーケターの方が自分の感覚の答え合わせをするために使っていただきたい、と思っています。8割は納得感や安心感で、2割に「そこ見落としてた」といった驚きがある、そんなデータが提供できたらいいですよね。
異なるカテゴリをひとつに繋ぐ
中野:最後にうかがいたいのですが、Juicerは今後、どういう方向に進もうとしているのでしょうか?
西岡:やはりまずは、デモグラフィックデータの精度を上げるのが、喫緊の課題です。とはいえ、興味関心や好き嫌いは、デモグラフィックデータだけで決まるわけではないので、そういった定性的なところを、ユーザーに気持ち悪いと思われないレベルで、きちんと理解できるようにしたいと思っています。
また、興味関心といっても、単に「口紅が欲しい」、「洋服が欲しい」だけでなく、「いまは洋服よりも、口紅が欲しい」、「その口紅は、昨日は欲しくなかったが、今日は欲しい」というように、絶対値ではなく相対値でユーザーを理解できるようにしていきたいですね。Juicerは、異なるカテゴリ間でも横断的な興味関心分析ができるところが強みですし、そこが市場に支持されているポイントだと考えているので、今後もこの部分は特に強化していく予定です。
中野:異なるカテゴリ間でも横断的に興味関心分析ができるというのは、まさにいまのニーズに即した機能ですよね。いわゆる、ブランドの連携、ブランドのメディア化という、いま旬のマーケティング戦略に繋がっていく機能だと思います。
たとえば、「化粧品に興味がある」とターゲティングされている人は、「化粧品だけに興味がある人ではない」という前提があるはずですよね。クルマに乗って、スーパーに行って、化粧品を買って、といった行動も行うはずです。その流れを全部繋げると、わざわざ「化粧品だけ」に興味があるセグメントを作ってターゲティングするよりも、クルマとスーパーと化粧品のWebサイトを全部繋げたらブランド同士の重複率が分析でき、その親和性の高いグループを狙って共同キャンペーンを張ったら面白いのではないか、とは私自身も考えるところです。以前、別の会社で複数社間の重複分析を実施してみた経験があり、それなりに成果が出たので、より大きな規模で実現できたらいいなと思っています。
西岡:Juicerがマーケターの日々の作業や新しい仮説構築の一助になれば本当に幸いなことで、ぜひ今後のアップデートにもご期待いただきたいところです。
▼中野 学
トレジャーデータ株式会社 マーケティングオペレーション
デジタルマーケティング関連企業や広告代理店にて、アクセス解析やアドテク分野の運用業務を担当。その後MAツールを取り扱うSATORI株式会社にてマーケティング担当を経験。SNSや広告を活用したリード獲得を中心の業務に従事した。2017年4月にトレジャーデータ入社。デジタルマーケティングに関わる全般のオペレーションを行っている。
▼西岡 彩織
株式会社PLAN-B Juicer事業部 プロデューサー
2015年に入社し、DMP「Juicer」の立ち上げに参画。JuicerのUX領域を主に担当しながら、新規機能の開発・マーケティング・顧客サポートなどにも従事している。
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Written by 内藤貴志
Photo by 渡部幸和