人格を否定する暴言などによって、子どもに毒のような影響を与える親、「毒親」。毒親という言葉は、アメリカの精神医学者・スーザン・フォワードの著書『毒になる親』から生まれた俗語だ。毒親問題それ自体は昔から存在していたが、日本で話題になるようになったのはここ数年のこと。「最近まで話題に上がらなかったのは、“自分を生み育ててくれた親は正しい”、“親のことを悪く言えない”という考えが浸透しているからだと思います」。そう語るのは、毒家族から脱走した実体験を描いたコミックエッセイ『ゆがみちゃん 毒家族からの脱出コミックエッセイ』(KADOKAWA)の著者、原わたさん。この漫画にこめた思いや家族に関するエピソードについてお話をうかがった。
タブー視されている親子関係を問題視していいと気づいた
――この漫画を描こうと思ったきっかけは何ですか?
原わたさん(以下、原):田房永子さんの『母がしんどい』を読んだことがきっかけです。あれが私の人生の転機で、読んでいなければ『ゆがみちゃん』を描いてなかったくらい、共感して感銘を受けました。だから、自分の体験も漫画にしてみると役立つ人がいるのではないかと思ったんです。これは以前の私も思っていたことですが、親子関係の問題は「親子なんだから(問題視するな)」と世間ではタブー視されて声が上げにくい。しかし、田房さんが描いてらっしゃったことを読んで、親子問題もひとつのコンテンツとして、問題視してもいいんだということに気づいたんです。
ネット上で出会った人達に助けられてきた
――今回は書籍として7月17日に『ゆがみちゃん 毒家族からの脱出コミックエッセイ』が発売されましたが、最初はネット上に漫画をアップされていたんですよね。ネットは誰でも見られる場所ですが、アップすることに何か戸惑いはなかったのでしょうか?
原:むしろ、ネットだから上げました。『ゆがみちゃん』の中でも描いていますが、私は中学の頃からインターネットを始めて、息苦しい現実から目を背けられるというか、世の中には楽しいこともあるし、悩みをちゃんと聞いてくれる人もいると知ったんです。
子どもの頃って、大人と違って関わり合う世界が家庭と学校くらいしかなくて、視野も狭くなりがちじゃないですか。でもネットは家にいながら新しい視野が広げられるから、相談しづらい親子関係に悩む子どもには最適なツールだと思うんです。私が毒親の概念を知ったのもネットだったし、漫画をアップすれば若い子も気軽に見られるので、親子問題で悩んでいるティーン世代の子達に何か役立つかもしれないと思いました。
――ネットが心の支えだったのですね。パソコンにばかり向かっていてご両親は怒らなかったんですか?
原:家にいてネットをすることに関してはそこまで怒られませんでした。言動や人格面の否定はされるけど、家での行動は放置が多かったですね。それも親の気分次第ですが。逆に、外出をする方がうるさかったというか、高校生くらいになると「どこに行くんだ? 男か?」と邪推されて不快な思いをすることも多くて。そういうのもあって、私も家に閉じこもってネットばかりしてたのかもしれませんね。
――一人暮らしを始めてから旅行やライブに行くことが好きになったそうですが、その頃の反動なのでしょうか?
原:そうかもしれませんね。外がおもしろいということを知らなかったんですよ。旅行に行くこと=親の接待だと思っていて、全く楽しめなかったので。「お父さんが連れてってやってんだぞ、親が子どもを楽しませてやってるんだぞ」みたいなイメージがあって、ずっと出不精だったんです。でも、大人になって自分の意思で旅行に行ってみたら、あれっ? おもしろいじゃんみたいな。
経済力を使って子どもを支配するタイプの毒親
――中学生の頃の支えはネットということですが、ネットに出会う前の支えはありましたか?
原:小さい頃はぬいぐるみですね。たくさん集めて、毎晩どれを抱いて寝ようか並べて選んでいたので。
――それはご両親が買ってくれたんですか?
原:もらい物や自分がお小遣いで買ったものもありますが、親が買ってくれたものもありました。うちの親は、どちらかといえばモノは買ってくれるというか。モノを与えない、お金を払わないことで子どもを苦しめる親もいますが、うちは経済力を使って子どもを支配するタイプの親でした。それに気付いてからは、モノや金銭は受け取らないようにしていました。後々「こんなにお金をかけてやっただろう」と言われるので。