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【社説】

労働局長更迭 大きな疑問残ったまま

 報道機関への「是正勧告」発言などを不適切として厚生労働省の東京労働局長が更迭された。政府は事態収拾を狙うが、「特別指導」を巡る大きな疑問は残る。政府への不信は消えていない。

 裁量労働制を適用外の社員に違法に適用していた野村不動産への特別指導のきっかけが過労自殺だったのか、過労自殺の事実を加藤勝信厚労相がいつから知っていたのか。この点を政府は明確に説明する責任がある。

 東京労働局の勝田智明局長の不適切な発言は三月三十日の記者会見で出た。記者に「何なら皆さんの会社に行って是正勧告してもいい」などと述べた。

 特別指導について、経緯に関する質問が相次いでいた中だった。労働局長は逮捕・送検の権限を持つ労働基準監督官を抱える労働行政の責任者である。言動には慎重であるべきで、どう喝したと受け取られかねない発言は軽率だった。処分は当然だろう。

 だが、政府がこれで事態収拾が図られ働き方改革関連法案の審議が進むと判断するのは早計だ。

 そもそも昨年末に実施した特別指導の運用が不透明だとの疑念が生じている。社長に直接改善を指示する特別指導も、その実施を会見で発表したことも異例だった。

 加藤氏は、この指導を制度乱用の取り締まり実績例として国会などで説明してきた。問題なのは、社員の過労自殺を公表してこなかったことだ。それが指導のきっかけだったとしたら制度の違法適用で犠牲者がでているのにそれを隠していたことになるからである。

 加藤氏が当初から過労自殺の事実を知っていたのに、取り締まり実績だけを説明してきたのなら労働行政を預かる責任者として、働く人を軽視していると言われても仕方がない。野党もその点を問題視し、加藤氏がいつ過労自殺を知ったのかを追及している。

 その経緯が分かると思われる文書がある。特別指導の経緯を厚労省が加藤氏に説明した事前報告文書だ。国会に提出されたが、大半は黒塗りで、過労自殺の記載の有無は分からない。

 社員の遺族が過労自殺の公表に同意したことを受け厚労省は四月十日になって「過労死」の事実は認めた。それでもなお、加藤氏は「今後の監督指導に影響する」と文書の開示を拒否している。

 労働局長の更迭で済まないのは明白だ。政府に求められている説明責任は森友や加計問題だけではもちろんない。

 

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