アカウントない人向け
橋本 岳
文頭の『このシリーズ』→ https://news.yahoo.co.jp/byline/uenishimitsuko/20180504-00084767/
-------------------------------------------------------------------------------------------
橋本 岳
昨日 18:25 ·
このシリーズ、興味を持って読んでいます。未完なので最終的なことは言えないのですが、現時点での感想を記します。
ただしその前に注意書きをします。まず僕は2015年3月、問題となる表が民主党部門会議に示された時点で厚生労働大臣政務官であり、部内者でした。あまり偏った記述はしないよう心がけますが、利害関係者であったことは包み隠さず申し上げます。僕の立場が公正ではないと思われる方は読まないで頂いて構いません。ただし、この文章は自分の意思と責任に基づき書いており、政府関係者や同僚議員にもなんらの影響されたものではありません。
そして、この表が、文中列挙されている点において不適切であったこと、その結果として安倍総理や加藤厚労相が誤った答弁を行ってしまっていたことは、政府も僕も全くその通りであると認め、既に総理・厚労相は撤回しお詫びを表明しています。
したがって、このシリーズで上西教授が改めてとりあげている論点は、「その不適切な表の作成が、誰かの指示により意思を持って捏造されたものなのではないか」にあるのだと認識しています。ひらたく言ってしまえば、総理なり厚労相なりが指示して捏造したのではないか、と疑われているのでしょう。
1)ウッカリ間違いとは考えられないくらい、酷く不適切な統計の取り扱いである
2)不適切な取り扱いが、全て裁量労働制を擁護する方向性を指してツジツマを合わせている
3)今年の予算委での、総理や加藤厚労相らの答弁にて、不適切さをなかなか認めなかった
の3点に集約されるように思われます。
ただ、3)は、「捏造」か「単なる雑な資料」かを問わず、3年前から答弁に使い総理答弁まで使った資料を「誤り」と認めるには政府内でそれなりに高いハードルと調整プロセスがあるという原因によるものと思われます。また、そもそも誤りを認めたくないという心理も働いていたのかも知れません。従って、それをもって3年前から意図していた、それを加藤大臣も知っていたのだ、捏造だったのだという理由には全くなりません。
また、2)については、誠実な態度ではないという批判は僕も含め甘んじて受けますが、政府として裁量労働制の拡大を目指すという閣議決定が既にある以上、厚労省の関係者がそうした方向になるといいなと思っていたことそのものは不思議ではないのであり、それが「誰かが意図した捏造」という証拠になるかというと、決定的ではないでしょう。
さて1)について。
当時の厚労省の状況は、労基法改正案提出直前、与党審議もあり、その上民主党部門会議も頻繁に開催され、毎回さまざまな資料提出を求められ、担当部署はてんやわんや状態でした。また、本来裁量労働制と一般労働制は、対象業種が異なりますから、母集団が違う(厳密に言えば包含関係ですが)ため、両制度それぞれに属する労働者の労働時間を単に比較しても、その差が制度によるものなのか、業種(=母集団)によるものなのか区別ができません。そもそも厚労省は、僕の記憶の限りでは、労働時間が短くなるという効果を企図して裁量労働制の拡大を提案していたわけではありませんでした。だから、元々両制度間の労働時間の比較表など作っていなかったのです。
むしろその比較を執拗に要求したのは野党の方々であり、労働時間を比較したらどちらが長いのだ、何か資料はないのか、と部門会議で繰り返し問いつめられ、やむを得ず作成をしたものだったのではないかと僕は認識しています。だからこそ、僕が予算委で指摘したように、強調するための赤枠や青枠は労働時間の分布につけられているのです。それは、平均値を積極的に示したくなかったからなのではないかと思っています。
もちろん、全ては厚労省の責任(であり、当時政務官の僕の責任も免がれるとは個人的には思いませんが、だからこそ書いているのです)です。注もなしに数字を計算により算出し、「平均的な者」なる不思議な概念の説明も、最長時間を回答させていたことの説明もなく、本来比較不可な数字を並べて書いていた。全てあまりにも雑で不適切です。ただ当時の印象から思うに、この資料は寝不足で過労気味の担当者が、野党の皆さんの要求になんとかして応えたいという一心で、アクセス可能な数字や表から資料を捻り出した結果であり、そしてその上司も、チェックしなければならない沢山の提出予定資料の一枚としてこれを見て、「ま、いいか」と思ってしまった結果なのではないか(または全く気づかなかった結果)と僕には思えるのです。厚労省の教訓は、野党にいくら要求され吊るし上げをされても、無い数字を無理に作って提出するようなことはしてはならない、ということでしょう。
優秀な厚生労働省官僚が、指示命令もなくそんな不適切なことをするわけがない、という思い込みが上西教授には強すぎるように思われます。が、中にいた人としては、官僚の皆さんは優秀な方が揃ってはいますが、やっぱり人間であり、正直、しばしば信じがたいミスや行動もあるのも事実なのです。年金機構情報漏洩事案の対応やその他さまざまな場面でいろんなことを感じる機会がありました。したがって、これだけ様々なチョンボの積み重ねがあっても「起こり得ることだなあ」と思ってしまうのです。
また、厚労省に限らず、中央省庁において、統計学の基礎がかなり等閑であることは今に始まったことではなく、それも背景にあったものと思っています。問題とされている平成25年調査だけでなく、その前の平成17年調査の集計表から既に「最長時間」の記載がないことは、僕が予算委員会で指摘し加藤大臣から答弁があった通りです。あくまでも傍証に過ぎませんが、今回の表が捏造だったわけではない証拠とも受け止められます。というか、それはそれでもっと根深くて深刻な問題なのですが。
その上、いきなり国会で答弁せず、野党に示した理由は「認識の刷り込み」を狙ったのだなどという説明は、後付けで噴飯ものもいいところの理屈です。そんな高度な深謀遠慮にしては肝心の資料がズサン過ぎませんかね。。少なくとも当時の大臣政務官として、そんなこと見たことも聞いたこともありません。単に、先に部門会議でひたすら要求されたから、です。
このシリーズは未完ですから、ここまで「意図した捏造」と指摘するからには、「捏造を指示した連絡」などがそのうちきっと証拠として示されるものと期待しています。これがあれば、決定的になりますから。
上西教授の、今回の裁量労働制関係データ問題を巡る一連の検証には、心から敬意を表します。正直、僕もこの資料は厚労省在職中に見たことはあり、今通常国会で厳しく指摘されるまで、不適切さを見抜けず、見落としてしまっていました。三年前に民主党部門会議で提出された資料をご覧になっていた方々と同様に、僕の目も節穴だったことを深く恥じています。ただ、だからこそ、感じた違和感は記しておきたいと思います。