システムに内在するリスクをチェックセキュリティ診断(脆弱性診断)
企業や組織のWebアプリケーション、各種サーバー、スマートフォンアプリケーション、IoTデバイスなどの特定の対象について、内外の攻撃の糸口となる脆弱性の有無を技術的に診断します。外部に公開す るシステムを安心かつ安全に維持するためには、定期的なセキュリティ診断が欠かせません。
May 8, 2018 08:00
by 牧野武文
中国工信部、公安部、交通運輸部は連合して、「スマートネット自動車公道試験管理規範(試行)」を発表したと『中間村在線』が報じた。いわゆる無人運転車の公道走行試験の方法を国として定めたもので、中国はドライバレースカーの実用開発で他国を一歩リードすることになる。
このガイドラインは、国としての方針を示したもので、細則は各都市で決定することになる。すでに、北京、上海では無人運転車の公道試験を認めており、重慶と深圳も近々認める予定だ。
ガイドラインでは、6つの項目を満たすことを要求している。
(1)新車であること
(2)安全を最優先すること
(3)自動運転と手動運転を随時切り替え可能なこと
(4)リモートコントロールが可能なこと(緊急時の回避、停止行動など)
(5)自動車の状態を記録すること
(6)閉鎖区間での走行実験が終わっていること
事故や制御喪失が発生した場合は、その90秒前から各種データを記録し、事後確認できる仕組みも求め、このデータは3年間の保管義務を課した。さらに公道試験走行時は、試験運転手が運転席に座ることが義務付けられている。運転手は自分の判断で、自動運転と手動運転を切り替える。
すでに百度の公道走行試験の映像がネットにアップされている。説明によると、北京市の高速道路を、北五環からオリンピック公園までを往復したもので、工程は30キロ程度。最高速度は時速100キロだったという。
最も重要なのは、交通違反や事故が起きた場合「すべて運転手の個人責任」となる。事故が自動運転中に起きたとしても、それは運転手が「手動運転に切り替える」という適切な判断をしなかったことが原因なので、通常の手動運転と同じように、運転手の責任となるという考え方だ。
事故だけでなく、信号無視、進路変更禁止違反などの交通違反についてもすべて運転手の責任となる。事故が起きた場合は、運転手が運転してたいという想定のもと、相手との賠償交渉をすることになる。
自動運転の車を、既存の事故処理手順にうまく乗せてしまうのだ。運転手個人の責任が問われるところが厳しすぎるような気もするが、試験を行う企業がどこまでドライバーの補償をするかは、企業とドライバーの契約による。これも、既存のプロドライバーであるタクシードライバーやトラックドライバーと同じことだ。
試験場などの閉鎖区間で、交通ルールに則った運転をさせるだけであれば、自動運転はまったく難しくない。難しいのは、公道での人間の不合理な運転行動への対処だ。当面、人間が運転する自動車と混在した状態で走行せざるを得ず、自動運転は「人間」が技術開発の大きな壁となっている。
例えば、グーグルの自動運転車が2016年2月14日に、米国マウンテンビューでバスとの接触事故を起こし、「人工知能の判断ミスが原因」と報道されている。公式の事故報告書は記述が短く、詳しい原因や過失割合まではわからないが、人工知能のミスとも言い切れない状況だ。
自動運転車は、次の交差点で右折をするために、右車線に入ったが、その車線に土嚢が置かれているという障害があったために、いったん中央車線に戻って、障害物を避け、右車線に戻り、右折するという計画を立てた。中央車線を直進する数台の車をやり過ごした後、自動運転車は車線変更を開始。ここで、後方から直進してきたバスと接触した。衝突時の速度は自動運転車が約時速3キロ、バスが約時速24キロだった。
運転席に座っていた試験ドライバーは、左サイドミラーで後方からくるバスは目視確認していたが、止まるか、速度を落として譲ってくれるものと考え、手動運転に切り替えることはしなかったと証言している。
気になるのは「車線変更を開始して、3秒後に接触した」と報告書に記載されていることだ。運転をする人ならわかるが、この3秒というのはとても長い時間だ。バスはかなり後方にいたことになる。もし、自動運転車がキビキビと車線変更をしていたら、事故は発生しなかったかもしれない。
これはあくまでも個人的な推測だが、バスの運転手は、自動運転車が車線変更を始めたことは目視したものの、あまりにもゆっくりなので、車線変更はしないと判断し、減速しなかった、あるいは加速したのかもしれない。ところが、自動運転車はゆっくりなまま車線変更を続ける。直前になって慌てて減速をしたものの、間に合わず接触してしまったのではないか。
この推測が正しいとしても、バスの運転手を責めるわけにはいかない。人間同士でも、こういった意思疎通のすれ違いから事故が起きているのだ。バスの運転手にしてみれば、「車線変更するならするで、もっとスパッといけよ!」と言いたい状況だったのかもしれない。
このような「人間の不合理な運転行動」は、CPUシミュレーションやととのった環境下での公道走行試験をいくら繰り返しても学ぶことはできない。渋滞や警察の理不尽な規制で、全ドライバーがイラついているという劣悪な環境下での公道走行試験をしなければ、人工知能を学習させることができない。
例えば、渋滞気味で前も詰まっているのに、無意味に車間を詰めて煽る車が、見るからに常識を超えた違法改造をしていたとしたら、譲る義務も理由もなくても、無用なトラブルを避けるために、多くのドライバーが譲ってしまうのではないだろうか。人工知能も、ひょっとしたらそういうことまで学習をしないと、現実の道路を走行することはできないのかもしれない。
Google事故報告書。2ページの短いもので詳細な状況はわからないが、車線変更を開始して3秒後に接触しているというところになにか別の事情があるのではないかと思われる。
中国政府のガイドラインを受けて、北京市と上海市はすでに細則を定めて、公道走行試験を許可している。北京市の取り組みはユニークで、人工知能搭載の自動運転車を、一般の運転免許試験場に持ち込み、基本的には一般の運転免許試験と同じ実技試験を受けさせる。方向転換や車庫入れといった実技試験を行い、人間と同じ運転能力があると認めれば、自動車(人工知能)に運転免許を与えてしまう。
この運転免許は、能力により1級から5級までがあり、4級以下では高速道路のインターチェンジ、歩道のない狭い道路など、自動運転ができない道路状況が増えていく。そこは試験運転手が手動運転をしなければならない。
この条件をクリアしていれば、市内どこでも自由に走行して公道試験を行ってかまわない。ただし、公道試験走行を行う企業は、最低賠償額500万元(約8600万円)以上の専用保険に加入するか、自力で500万元を賠償資金として供託する必要がある。
これで北京市は、世界で最初に無人運転車が走る街になることを目指している。
上海市は、郊外の交通量が少ない道路合計約10キロを公道試験用に開放した。事前に自動運転車を登録しておけば、ここで自由に公道試験を行うことができる。一般車両ももちろん走行できるが、自動運転車の走行試験が行われていることは一見してわかるように配慮されている。上海市は試験結果を見ながら、この公道試験用道路の開放を順次進めていく予定だ。
日本でも早晩、公道走行試験の仕組みづくりが始まるはずだが、懸念されるのは「絶対に事故を起こさない仕組みづくり」がされてしまうのではないかということだ。自動、手動を問わず、この世に絶対に事故が起こらない乗り物など存在しない。形式上公道であっても、実質的には閉鎖区間と変わらない状況での走行試験になってしまったら、いつまで経っても実用化はできない。
中国の自動運転政策で見習うべきところがあるとすれば、事故が起きることを前提にガイドラインを定めていることだ。自動運転にしても事故は起きる。しかし、それを人間の事故率と比べてどこまで小さくできるかが勝負になっている。個人的には、無人運転車の事故率が、人間の運転の半分以下になるのだったら、それは素晴らしいことではないかと思う。
自動運転は、人工知能の開発段階から、すでに実用化に向けた公道試験の競争段階に入っている。
北京市が公表した公道走行試験のガイドラインより。原則として、人間の運転免許試験と同じ項目が試される。人間と同じ能力があれば、車(人工知能)に免許を与えるという考え方だ。
地図で見ると、公道試験に開放されている地域は、上海市のかなり西の外れにある。付近には自動車メーカーが集積した工業団地もある。
上海市が公開した公道試験可能区間。現在は10km程度だが、徐々に拡大されて行く(画像はhttps://www.zhihu.com/question/267981290/answer/332419568 より)。
無人車(wurenche):ドライバーレスカーのことは、自動運転車、無人運転者、知能網聯車(スマートネットカー)などさまざまな呼び方があって、まだ定まっていないが、口語では「無人車」という言い方が簡単であるため一般的になりつつあるようだ。
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