Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ ─幻想殺しと魔法少女   作:Illya720
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2話目となりました。今回の話は並行世界に飛ばされた上条と
オティヌスの現状確認の解説がメインとなっております。戦闘シーンは次回に持ち越し。相変わらずの拙い文章ですがよろしくお願いします!

『重要!!』※今回の話には『ご都合主義全開』な独自設定が物語の進行上ありますのでご了承ください。




第一章 『変遷』 Modify_force_of_the_Would

「なんかもう着いていけないよう」

 

「·······まあ、それが普通だよな」

 

突然の襲撃者が去っていた後、開口一番イリヤはそう口にした。上条は現在イリヤの部屋に居た。ピンクを基調とした内装がなされており、ベッドには間の抜けた顔をしたライオンらしき動物のぬいぐるみ。所々に女の子らしさが滲み出ている部屋だった。しかしいくらイリヤが小学生だからといってこんな夜更けに男と2人で居て良いものなのかと思わなくはないが、自身のベッドで体操座りをするイリヤの頭からはそんな事すっぽ抜けているらしい。

 

「いきなり『魔術師』だとか『英霊』だとかカード回収だとか言われてもにわかには信じられないよ······アニメやゲーム内じゃあるまいし」

 

ツインテールの魔術師改め遠坂凛の話は、嘆息するイリヤにとってはあまりにも非現実的だったらしい。

 

ここ冬木市に『英霊』、つまり過去や未来の英雄の力を封じ込めた7枚のクラスカードが突如として現れ、1枚で町を壊滅させるほど強大な力を宿すそれを回収するために冬木に派遣されたのが遠坂、そしてもう1人のルヴィアという女性らしい。しかし遠坂は途中でルビーというこの奇怪なステッキの裏切りに会い、イリヤが代わりにマスターを務めることになった。こうして事の顛末を聞いてみると遠坂は意外と間の抜けた人間なのでは?という疑念が生まれたが、もちろん口には出さなかった。

 

「でも、魔法少女になって戦うか·····。意外と楽しそうだよね」

 

「····まあ、信じられないのは分かるし、そういうのに憧れる気持ちも分からんでもないけど·······」

 

《という割には上条さん落ち着いてますね。凛さんの事を『魔術師』だと看破したり、『ガンド』を魔力も何も纏っていない右手で打ち消したり。上条さんってかなりミステリアス?ルビーちゃんは興味津々です!!!》

 

部屋に響く陽気そうな人工音声。日曜朝の子供向け魔法少女アニメに出てくる少女達が持ってそうな杖にも似ているフォルムをした喋るステッキ、ルビーのものだ。ルビーの言葉の節々から伝わってくる、上条に向けられたルビーの興味。────いや、警戒心による詮索だ、と上条は推測する。まあ無理もないか、と上条は内心で独りごちた。

 

上条達の世界では基本的に『科学』と『魔術』といった具合に『魔術(サイド)』の人種とそうでない人種とで、かなり明確に仕切りが作られている。『魔術』とは秘匿され、隠匿される技術であり、そういう単語がある事ぐらい常識の範囲内だが、UFOやネッシーと同じようにほとんどの人間がその存在を『有り得ない』ものとして認識しているのだ。

 

当然と言えば当然。『魔術』の領域はどこまで行っても血塗られた世界だ。逃げられない、底なし沼のように深く、拘泥した闇。それは、恐らくこの世界でも同じ事なのだろう。魔力を感じない一般人のくせに『魔術』や『魔術師』の存在を知る者。それはきっと気味が悪く、忌避すべき対象なのだろう。そこまでいかなくても好印象に捉える者などそう居ない。そんな思考を重ねていた時だった。

 

「·······魔術霊装風情が、私の『理解者』へ、私の断りもなしに下手な詮索をかけるな」

 

静かな、しかしこの場を掌握するには充分すぎるほどのプレッシャーを孕んだ声音でルビーへとそう言い放ったのは、いつの間に上条の肩へと移動していたオティヌスだった。オティヌスは足を組み直しながら、ルビーと驚いた表情をしたまま固まるイリヤを睥睨するかのように見下ろす。上条はやれやれと嘆息しながら、

 

「こいつはオティヌス。とある理由でちんちくりんになっちまった元『魔神』だ·····ていうかお前姿見せていい設定だったのかよ?」

 

「ま、まじん??もう何か世界観が変動しすぎて何が何やらなんですけど!?」

 

素っ頓狂な声を上げて驚愕するイリヤ。それからお互いの軽い自己紹介を済ませてから、流石にもう遅すぎるという事でここで解散。去り際、「私なりに頑張ってみる!」と言っていたイリヤ。意外と乗り気なのかもしれない。風呂に入り、借りた士郎の服を着てその他もろもろ済ませた後自室へと戻り、理由もなくベランダに出た。手すりに体重を預けて、思考にふける。平行世界での最初の1日が終わった。何が起こっているのかは分からない。どうやって帰るのかも。しかし、

 

「──必ず帰ろう。あの世界に、あの学生寮。そして皆の元に」

 

「──ふん」

 

そんなオティヌスの反応に苦笑しながらも上条は上空を、輝く星々を見つめた。────必ず帰るから。そう誓うかのように

 

 

 

────────────────────────

 

「──────て····…───い───きて」

 

「·······う?」

 

微かに聞こえる誰かの声。上条はうっすらとその重いまぶたを開けた。その誰かが何を言っているのかは、半覚醒状態のもやがかかった頭では分からない。寝惚け眼のままたっぷり10秒間ほど経過した時、ようやく意識がさざ波のように追いついてきた。

 

「あ、起きた。朝ごはんがもうすぐ出来るから下りてきてってセラが言ってたから行こっ!」

 

イリヤだった。わざわざ起こしに来てくれたらしい。

 

「そっか。ありがとな」

 

軽く礼を言ってから、イリヤと共に階段を降りていく。士郎という上条と同じぐらいの年齢の兄を持つからなのか、昨夜に巻き込まれた『カード回収』の事についての秘密を共有しているからなのか、イリヤの上条に対する態度はそこまで緊張したものでは無くなっていた。リビングが近くなると、朝食のものであろうなんとも食欲を誘発する匂いが上条の鼻腔をくすぐる。

 

「おはようございます。当麻さん」

 

「お、おはようございますセラさん」

 

「私の事はセラでいいですよ?皆さんそうお呼びになりますし。あと、敬語が苦手ならそれも私には使わなくとも構いませんよ?」

 

「あー、分かった。ぶっちゃけ敬語とか使い慣れてなくてさ。かなりしどろもどろになっちゃうんだよな」

 

それはそれで将来的に不安が残りそうである。というかイギリスの女王やらアメリカの大統領やらにすら敬語を使わないというのはもしかしたら普通はヤバいのでは?と本当に遅ればせながらそう感じた。

 

「私も構わないわよ?当麻。子供が親に敬語で話すのはヘンでしょ?」

 

アイリは、微笑を浮かべながらそう言った。アイリが昨日言った、「今日からしばらく貴方はうちの子になりなさい」という言葉通りという事だろう。上条はそれを呑む事にした。

 

「なら俺の事も士郎でいいぞ。宜しくな当麻!」

 

「ああ、こちらこそよろしく頼む。士郎」

 

そう言って共に笑いあう上条と士郎。朝食を終えた後、士郎は朝練へ。少し経ってからイリヤ、そしてルビーも学校へ行った。

 

「つまりやる事がねえな」

 

家事を手伝おうとしても家政婦の誇りでもあるのか、セラは決して譲ろうとはしなかったので今はただ呆然としているだけしかやる事が無い訳だが、流石にそれはまずい気がする。

 

「ちょっといいか?人間」

 

引きこもることに飽きたニートみたいな感じになっていた上条。それを呼ぶオティヌス。

 

「どうした?オティヌス」

 

「ハンガーにかけてあるお前の制服と白パーカーをここまで持ってきてくれないか?」

 

いきなりオティヌスはそんな事を口にした。怪訝に思いつつもベッドから立ち上がり、学ランと白パーカーを『右手』で掴み、オティヌスの前まで持ってくる。しげしげとオティヌスは上条の制服を見つめた。まるで、発掘されたお宝を鑑定する鑑定士ように。やがて、顔を上げる。何かを掴んだような、そんな表情をしていた。

 

「で、なんだってんだ?」

 

「······この制服と白パーカーは、『霊装』だ」

 

「················な」

 

一瞬、その有り得ない事実に思考が白く染まる。ここにある制服が霊装だなんて事有り得るわけがない。上条の世界で買ったこの制服、白パーカーはそんな付加効果をくっつけてはいなかったし、もしくっついていたとしたら上条の右手が触れた時点でそれは壊されているはずだ。実際に先程掴んだ方の手は右。これが『霊装』だなんて事は有り得ない。だが、

 

「私の見立てではこの衣類の属性は『破壊』と『再生』。魔術関連でお前の右手で打ち消せないものとは何だった?一つは強大な魔力を宿す物、そしてもう一つは常に魔力を供給されるもの。そして再生するタイプだ。この衣類はどれもそれに当てはまるな」

 

「ちょ、ちょっと待て!何でいきなりそんな事に!?今までそんな属性持ち合わせてなかっ·······た······し」

 

「······気付いたか?この変異はこの世界に来てから起こった。恐らく、別世界のものを持ち込んだせいだろうな。そのお陰で性質が変わったのだろう。そして、それは物だけじゃない。

『私も』だ。私は『自身の中にストックした物質を自由に取り出せる力』を手に入れた。そうだな、『主神の財宝(ゲートオブ·ヴァルフォーラ)』とでも名付けようか?」

 

思わず、思わず上条は自身の右手を見つめる。少なくともこの世界に来てから特に右手に違和感があった事はない。もしくは、右手じゃない所に変異があったかもしれないが、特に体の違和感も感じていない。『幻想殺し(イマジンブレイカー)』がその違和感さえも打ち消したなんていう事柄で済まされるのならば簡単だが、そこまで単純なものなのかと上条の中で何かが警鐘を鳴らす。

 

「で、でも平行世界に来たからってそんな性質が変わるなんて事があるのか?」

 

「知らん、私も平行世界になんて訪れた事はない。元いた世界では世界を幾度となく創り変えてきたが、それは平行世界ではなくあくまで元の世界での話だ。······しかし、それしか説明出来る論が存在しないだろう?私達は世界から害悪と見なされ、それを修正しようとした結果がこれなのだろう。『幻想殺し(イマジンブレイカー)』、元『魔神』という特異なラインナップのせいでバグでも起こしたのかもな」

 

ふん、と鼻を鳴らすオティヌスの言葉に頷くしか無かった。何もかもイレギュラーだらけだな、と上条は嘆息する。もう一度、上条は自身の右手を見つめた。もちろん何も変化はない。外見も違和感も見つからない、いつもと変わらぬその右手。しかし、上条はある事柄についてある疑問を抱いていた。

 

「(あの時·····並行世界に来る前、スーパーの前で突如として光を放った右手。あれは一体········)」

 

何だったのだろう。小さな、微かな疑問。しかし、それは確かに上条の中でしこりとなって残り続けるのだった。

 

 

─────────────────────────

 

 

「今夜0時······ね」

 

イリヤが学校から帰宅した。学校の下駄箱に入っていたラブレターらしき手紙は実は遠坂からだったという悲しい結末はともかく、その手紙には0時に高等部のグラウンド集合という事が書かれていた。ちなみに来なかったら迎えに来る(殺される)らしい。なんとも物騒な手紙である。これじゃ脅迫状となんら変わらないな、と上条とオティヌスは呆れた。

 

「うん。それでね、少しでもその····魔法?を扱えるようにした方がいいってルビーが言ってて····」

 

「む、まあそうだな。ぶっつけ本番よりは少しでも練習した方がいいだろ」

 

とは言っても上条の戦いはいつでも台本無し、ぶっつけ本番の演劇みたいな戦いだった。いつ、どんな時に殺す殺すオーラを全開にした『魔術師』や極彩色に彩られたゲテモノ『科学』に襲われるか分からず、戦いが一度起きればかなりの確率で病院行き。

 

全世界から命を狙われたオティヌスを守るためにデンマークを駆け抜けた時に命に関わるぐらいの大怪我を負った事はまだ記憶に新しい。普通なら短期間では治らない怪我だが、そこは流石外の世界と科学技術力が2、30年の開きがある学園都市と言ったところか。イリヤは、何故か言いにくそうにもじもじしながら上条の事をチラチラ見ている。怪訝に思っていると

 

「あ、あのね。それで当麻さんにその練習に付き合って貰いたいなーなんて」

 

「なんだそんな事かよ。もちろんいいぜ。というかセラとかに家事代わろうかって聞いても『これは私の仕事ですっ!シロウもトウマも私の存在意義を消すつもりですか!?』とか言われて仕事

代わって貰えないから時間が余りすぎてて······まあ、料理とかは断然セラの方が美味いからいいんだがな」

 

はあ、と嘆息する上条。

 

「あはは、何かもうその光景が脳裏に浮かぶようだよ····」

 

士郎の作った昨日の夜飯は、イタリアのキオッジアで食べたオルソラの料理に匹敵するぐらい美味しかった。セラが今日作ってくれた昼食もまたとても美味しく、寮暮らしの貧乏学生である上条にとってはこれが毎日食えるんですか!?と喜ぶぐらいには嬉しい。上条も料理はするが、居候の暴食シスターのせいで食費がアホみたいに消えていき、最近ではもっぱら質より量。取り敢えず量さえ確保すれば噛み付かれる事はないだろうという、まるで肉食獣を飼育するような感じになっちゃっている。

 

「じゃあ今からお願いしても、いい·····かな?」

 

「おう、丁度暇だったしな。········オティヌス」

 

「いいだろう」

 

上条がオティヌスの名を呼ぶ。それと同時。士郎の物である黒いパーカーを着ていた上条の体を、金色の光の粒子が包み込む。イリヤが瞠目し、一瞬のうちに上条の装いが変化する。

『霊装』となった学ランと白パーカー姿になった上条は、未だ驚いたような表情をするイリヤに向かって、

 

「さあ、行こうぜ」

 

「う·····うん」

 

《やはり·····ミステリアスな方ですねー》

 

イリヤの髪から僅かに覗くルビーが、そう呟いた。

 

 

─────────────────────────

 

「ここら辺でいいかなー」

 

イリヤの案内で訪れたのは周りが木々で囲まれた、円形に開けた場所。ざわざわと微風で揺れる木々をバックに立つ、魔法少女の姿となったイリヤ。やはりその姿を見られるのは恥ずかしいのか、頬を赤く染め、居ずらそうにしながらもじもじしている。露出の多い服なので無理もないが。

 

《イリヤさーん恥ずかしがってないで早くやりましょうよーほらほら上条さんも困ってますよー?イリヤさんから言い出した事なんですから·····》

 

「わ、分かってるよぉ····」

 

消え入りそうな声でイリヤは言う。少し涙目でこちらを上目遣いに見るイリヤ。稚拙な表現をするなら凄い可愛い。元々顔立ちが整っているとは思っていたが、上目遣いをするイリヤは反則級だろと思わずにはいられない、そんな魅力を内包していた。しかし、

 

「フッ····だがしかし、俺の好みはお姉さんタイプ。妹キャラであるお前は年齢的にも攻略対象外だもうちょい胸が大きくなってから出直してきなさい」

 

「何か意味わかんないけど最低な評価を下されたような!?」

 

《えー、イリヤさんのこのロリっ子成分こそ真髄だと思いますよ?それにやはり魔法少女はロリっ子に限ります!この未成熟な肢体を包む可愛らしくもあざとい衣装!これこそ魔法少女オブ魔法少女!!!》

 

「もう!さっきから妹キャラだのロリっ子だの未成熟だの言い過ぎだから!何でこの格好になってそんなセクハラを受けなきゃいけないの!?」

 

憤慨したように叫び返すイリヤ。もうちょいからかってやろうと思ったが、その時頭部にいきなり痛みが走る。オティヌスが上条のツンツン尖った髪の毛を引っ張っているのだ。少々ふざけすぎたか、と気持ちを引き締める。

 

「さて、そろそろ始めようか」

 

「長かった····長かったよう·····」

 

恨めしそうにこちらを見るイリヤだったが、どうやら多少は恥ずかしさが消えたらしく、ルビーを両手で構える。まるで剣道初心者が初めて竹刀を握るような、どこかぎこちない構え方だった。

 

「よし、始めようぜ。ルールは簡単。30m離れたところから俺に魔法弾が当たればイリヤの勝ちで俺がイリヤに触れる事が出来たら俺の勝ち。遠慮は要らないから全力で来いよ?」

 

「え·····でも」

 

《そうですよ上条さん。ルビーちゃんの魔法弾は自他ともに認めるほど強力ですから!そんな『礼装』じゃ防ぐ事は出来ませんよー?》

 

手に持った騒がしい喋るステッキを下ろし、不安そうな表情をするイリヤと反対に誇らしげな声音でそう言うルビー。何とも両極端な反応をする主従に上条は笑みを返しながら告げた。

 

「そこは本当に気にする必要はねえよ。····そんなに不安なら取り敢えず撃ってみるか?」

 

「うう·······ちゃ、ちゃんと避けてよ!」

 

逡巡の末、イリヤは観念してステッキを構える。そして、

 

「えーと、確か攻撃のイメージを込めて····ルビーを、振る!」

 

まるで、料理をレシピで確認しながら作っているかのようなぎこちない動きで、おもちゃのようなステッキが振られた。しかし、そのぎこちない挙動とは裏腹に振られたステッキから眩く光る強力な魔力砲が発射された。軌道は真っ直ぐ上条を狙う。凄まじい威力と破壊力を孕む魔力砲は、当たれば吹き飛ばされ、意識を刈り取られるぐらい強力なものだった。その魔力砲の規模にイリヤは驚き半分強くやりすぎたという後悔半分を抱くがもう遅い。

魔力砲は空気を斬り裂いて、上条へと着弾する────かと思われた。

 

「ふっ!」

 

短い気迫と共に、上条は迫る魔力砲へと手を伸ばす。そして、バリーンッ!という硝子が割れるような破砕音を伴って、強力な魔力砲は打ち消された。

 

「ほえ?」

 

《ま、マジですか·····》

 

キョトンとするイリヤと狼狽した様子のルビー。そんな2人に向かっていつの間にか上条の肩へと登ってきていたオティヌスは

 

「ふん、甘いぞ小娘とロクでなしステッキ。その程度のちゃちな魔力砲で私の『理解者』の右手を攻略出来たとでも?」

 

ふはははははは!!!とまるでお姫様を連れ去った魔王みたいに哄笑する大人げないオティヌスに苦笑しながら上条はまだ戸惑いを見せるイリヤへと

 

「これで大丈夫って分かったろ?じゃあ始めようぜ」

 

「どうしようルビー勝てる気がしないんだけど」

 

《たった1度で諦めないでくださいイリヤさーん!ほらもう一度!》

 

「ああもう!!!」

 

やけくそ気味に放たれた魔力砲。先程のよりも巨大だったが、上条が前方に掲げた右手によって甲高い破砕音を伴いながら打ち消された。そして、まだ魔力砲の残滓が空気に残る中、上条はそれを割っていくようにダンッ!地を蹴ってイリヤへと突っ込む。その速度は、クラスの中でも一位に君臨するイリヤでさえ、「速っ!?」と目を見開き驚くほどだった。

 

「せ、せえああ!」

 

僅かに間の抜けた声と共に再び放たれる魔力砲。しかし今度は横に長い、斬撃のような形だった。僅かに驚き、動きを緩めた上条だったが、身を屈めるようにして右手を使わず回避する。数瞬遅れて、後方で爆発音がした。音の方を振り返るとそこには魔力砲によってへし折れ、地に叩きつけられる木々の残骸が出来ていた。予想以上の破壊力に、おおーと感心する上条。

 

「なるほどな····マスター、イリヤのイメージによって攻撃するわけだから形も威力もイリヤ次第って事か。····味方なら頼もしいけど敵なら厄介だな」

 

「そうだな。だが威力は充分形は自在····それだけ聞くと大層なモノに聞こえるが、威力にも限界がある。あの程度なら右手で簡単に防げるはずだ」

 

「だな·····っと」

 

止まってオティヌスと話していた上条に向かって一条の魔力砲が飛来する。右へのサイドステップで難なくそれを避け、傍らの地面を抉る魔力砲を尻目に再びイリヤに向かって突撃。

 

「ちょ·······ど、どうすればいいの!?」

 

《落ち着いてくださいイリヤさん!散弾をイメージ出来ますか?ショットガンですショットガン!上条さんが反応できないぐらいの凄まじい弾幕を張ってやりましょう!!》

 

「えーと、こう!?」

 

振るわれるステッキ。その先から、イリヤが抱いたイメージ通り、散弾銃(ショットガン)の銃弾の如く幾重にも分裂した魔力砲が上条の視界を埋め尽くす。その数は約20。流石にこの数全てを右手で、そして体捌きだけで防ぐのは不可能。それに対して上条がとった行動は、先程と同じようなサイドステップ。しかし、前述した通り完璧な回避は不可能に近い。それを追随するかのように上条へと4つの魔力砲が飛来する。

 

「4つなら!!」

 

サイドステップによって不発に終わった十何発の魔力砲が地面に着弾し、砂塵が舞うのを尻目に上条は右手を横に薙ぎながら振るう。4つとも余さず喰らい尽くし、地に足の底を着けるとの同時にダンッ!と地を蹴り飛ばして最高速度で突っ込んでいく。イリヤとの距離20mを一瞬で埋めると、固まるイリヤに向かって開いた右手を突き出す。

 

「きゃ·····」

 

飛び退ろうとしたイリヤを上条は逃さなかった。掌底打ちのように突き出された右手は、確かにイリヤの右肩に触れる。ここに勝負は喫した。

 

「あ、負けちゃっ·····た?」

 

「ああ、けどナイスファイト。結構攻めあぐねたシーンとかあったし、イリヤ自身のイメージをトレースした威力と形の魔力砲なら、使い方を工夫すればかなりモノになるはずだ。······だろ?オティヌス」

 

「··············」

 

何故か、オティヌスからの反応は無かった。「ふん、そうだといいな」とか「その程度じゃまだまだだ出直してこい小娘!」みたいな反応が返ってくると思っていた上条だったが、そんなオティヌスの反応に怪訝な表情になる。

 

「オティヌス?」

 

「む·····なんだ?人間」

 

「いや、だから使い方を工夫すればかなり使えるはずだって」

 

「ああ······。まあ、貴様の言う通り確かに使い方によっては役立つだろうな。逆も然りだが」

 

最後の部分だけ先程みたくイリヤ達を挑発するような言葉だった。僅かに疑問を抱きつつも、上条はそれ以上掘り返すのを止めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

特訓を終え、帰路に着く。上条が歩く事によって揺れるフードの中で、オティヌスは思案していた。脳裏に浮かぶのは先程の光景。イリヤの右肩に触れた上条。

 

その時、『打ち消された感覚が全く感じられなかった』

 

魔力砲は難なく打ち消していたが、同じく魔力によって練り上げられたイリヤの服は打ち消せていなかったのだ。もしも恒久的に魔力を供給しているのだとしても、僅かに打ち消される感覚はあるはずだ。再生しているのかと思ったが、それにしたって僅かな揺らぎは出るはずだし、そんな事をしているようには感じられない。ならば何故······?

 

「(あの制服には、『破壊』と『再生』の2つの属性が刻まれていると推測した。きっとそれは間違いではない。しかし今思えば妙だな。あの時、人間が制服に触れた時にほんの僅かな揺らぎすら私は感じなかった)」

 

その揺らぎは、刹那とも言えるほんの一瞬なので、常人には感知できない。しかし元『魔神』であるオティヌスには、感じ取る事は造作もない事だ。前述した通り先程それは無かった。やがて、一つの答えをオティヌスは導き出す。

 

「(やはり性質が僅かに変わっていたという事か?いや、性質と言うよりこれは···········)」

 

その『一つの可能性』に辿り着いた瞬間、オティヌスの頭蓋に凄まじい熱と痛みが走った。

 

「づ········あ」

 

世界からの修正。その見えざる攻撃がオティヌスを蝕んでいく。

その状態が20秒程度続き、霧が晴れるようにして嘘のように痛みが消えた。しかしオティヌスの身体中に流れる嫌な汗が、その事が事実であると証明している。オティヌスは忌々しげに顔をしかめて、

 

「(もしも、もしも私が辿り着いた可能性が当てはまっていたのだとしたら·········)」

 

 

────────それは、なんて残酷なのだろう。

 

 

オティヌスは心に僅かなしこりを残しつつ、家に帰るまでフードの揺れに身を任せた。

 

 

 

第一章 『変遷』 Modify_force_of_the_Would

 

 

─────────to be continue──────────




『ご都合主義全開』だけど、一応それなりの理由を考えております。今回の話も下手ながらに伏線を敷いております。前回の最初にも入れましたが、恐らく明らかになるのはアニメでいうツヴァイ ヘルツ!ぐらいだと思います。······どれぐらいかかるのかは想像すると恐ろしいので止めておきましょう。

次はライダー戦を予定してます!







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