tsujimotterのノートブック

日曜数学者 tsujimotter の「趣味で数学」実践ノート

ストークスの定理

電磁気学やベクトル解析の講義で「ガウスの定理」や「ストークスの定理」「グリーンの定理」という法則を習ったと思います。これらの法則は一見別々のものに見えますが、微分形式を用いるとこれらの法則を統一的に扱えるという素敵なお話を紹介したいと思います。

最近、この話を理解して楽しくなってしまって、自分なりにまとめてみたくなりました。よろしければお付き合いください。

今回の予備知識としては、以下の記事の2章ぐらいまでを読んでおくといいかと思います。
tsujimotter.hatenablog.com

また、「ガウスの定理」や「ストークスの定理」等の定理の主張は知っているものとして進めます。


今日最初に考えたいのは、グリーンの定理です。

グリーンの定理
(x,y) 平面内に(単純閉)曲線 C で囲まれた(単連結な)領域 D があるとき,次の公式が成り立つ:
C(adx+bdy)=D(ay+bx)dxdy

ただし,線積分 C は,C 上を反時計まわりの方向に積分する.

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このグリーンの定理は、2次元平面における2通りの異なる積分を結びつける公式です。左辺は曲線の上の「線積分」で、右辺は「面積分」です。面積分に、 という記号が現れましたが、これは2次微分形式(2-形式)に用いるウェッジ積という記号です。あとで2-形式の定義のときに説明しますが、dxdy は単に dxdy と思ってくれてかまいません。ただし、単なる面積を表すのではなく向きも考慮しています。

この公式を簡潔に表すために2次元以上の多様体上の微分形式を考えましょう。

目次:

2次元閉多様体(閉曲面)上の微分形式

これまで私のブログで紹介してきた微分形式は0-形式(関数)か1-形式だけでした。2次以上の微分形式が現れなかったのは、我々が1次元の多様体を扱っていたからです。
これから紹介したいのは2次元以上の多様体上の微分形式です。


まずは2次元多様体、すなわち、閉曲面上の微分形式を考えましょう。

2次元多様体を M として、M 上の開集合を U,V とし、それぞれ座標を (x,y)U,(s,t)V としましょう。

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それぞれの座標変換のルールは

dx=xsds+xtdt

dy=ysds+ytdt

となります。

この関係式から、2変数関数 f(x,y) の全微分

df=fxdx+fydy

は、(x,y) 座標でも (s,t) 座標でも同じ形にかけます。

以下のように計算できます:
df=fxdx+fydy=fx(xsds+xtdt)+fy(ysds+ytdt)=fxxsds+fxxtdt+fyysds+fyytdt=(fxxs+fyys)ds+(fxxt+fyyt)dt

連鎖律

fs=fxxs+fyys

ft=fxxt+fyyt

より

df=fsds+ftdt

が得られる。すなわち

df=fxdx+fydy=fsds+ftdt

が成り立つ。


そこで

ω=a(x,y)dx+b(x,y)dy

という式を考えます。これを1次微分形式(1-形式)といいます。

1-形式は、M の曲線 C 上で線積分することができます。その定義は、通常の線積分と同様です。曲線 C がパラメータ u により u0uu1 において x=x(u),y=y(u) と表されていれば

Cω=u0u1(a(x(u),y(u))dxdu+b(x(u),y(u))dydu)du

と計算できます。


次に、重積分を定義します。

DUV の領域のとき、積分 Df(x,y)dxdy(s,t) 座標で考えるとどうなるか考えましょう。積分の変数変換の公式によれば

dxdy=|xsytxtys|dsdt

となります。しかし、このままでは絶対値がついていて扱いづらいものとなっています。

この不都合は「負の面積」によって解決できます。つまり、平面上の図形を裏返したら面積は負になると約束し、重積分の定義を変更します。向きを考慮するために、微小面積 dxdydxdy とします。すると、変数変換の公式は

dxdy=(xsytxtys)dsdt

となります。ここで s=y,t=x とおくと(ちょうど x,y の立場が反対になるが)、上の公式においては

dxdy=dydx

となります。(y,x) 平面は、(x,y) 平面を裏返したものになりますから、それが「負の面積」になるのは直感とも一致しますね。

また、ここで x=y とおくと、dxdx=dxdx だから

dxdx=0

とわかります。

一般に a(x,y)=a(φ(s,t),ψ(s,t)) として、ω=adxdy2次微分形式(2-形式)といいます。このように定義すると、2-形式 ω は座標系の選び方によらない対称的な形になります。

1-形式のときと同様、2-形式 ω についての M 上の領域 D 上での積分の値 Dω が座標系に依存せずに定まります。


さて、ここまで準備すると、グリーンの定理を微分形式を用いて記述することができます。まず、閉曲面 D の境界を C=D と書きます。

実は、この はホモロジーの定義における境界作用素になっています。すなわち、D は閉曲面 M 上の2-チェインになっていて、DD の境界であるような1-サイクルとなります。

次に ω=adx+bdy とおくと、これは1-形式になります。ここで、

dω=(axdxdx+aydydx)+(bxdxdy+bydydy)

と定義します。この dωω外微分といいます。この計算を進めていくと

dω=(axdxdx=0+aydydx)+(bxdxdy+bydydy=0)=aydydxdxdy+bxdxdy=(ay+bx)dxdy

dω は、2-形式となっていて、(x,y) 座標の代わりに別の (s,t) 座標を使った計算しても、得られる2-形式は同じものになります。つまり、外微分 dω は座標に依存しないというわけです。


これらの記号の元に、グリーンの定理は以下のように書き換えることができます:

(1)Dω=Ddω

とても綺麗な式になりましたね。説明を加えるとこうなります。

DDの境界(1次元)ω1-形式=DD(2次元)dω2-形式

この式は「1次元閉曲線上の1-形式の積分」を「2次元曲面上の2-形式の積分」に変換する公式になっていますね。

さらにいうとこの式は、微分形式の言葉で書かれているので、座標系に依存しません。元々のグリーンの定理は、(x,y) 座標系に依存した法則でしたが、変形した式ではそうではないのです。したがって、2次元閉曲面においてもそのまま成り立ちます!

単に式変形をして綺麗になったというだけではなく、曲がった閉曲面においても法則を一般化することができたわけです。微分形式すごいです。


実は、同じ法則は3次元閉多様体上、あるいは、一般の n 次元多様体上でも成り立ちます。この法則を(一般化された) ストークスの定理 と呼びます。

以下では、3次元の閉多様体上でストークスの定理を考え、「ガウスの定理」や「(ベクトル解析の)ストークスの定理」が出てくることを確かめましょう。

3次元閉多様体上の微分形式

ここからは、舞台を3次元閉多様体に移します。(3次元の図を作るのは大変なので、ここから先は図がありませんがご容赦ください。)

3次元多様体を M として、M 上の開集合を U とし、それぞれ座標を (x,y,z)U としましょう。簡単のため座標系は1つとしておきます。

3次元多様体上では、以下のように 0-形式、1-形式、2-形式、3-形式が定義できます。

ω0=f(x,y,z)ω1=f(x,y,z)dx+g(x,y,z)dy+h(x,y,z)dzω2=f(x,y,z)dydz+g(x,y,z)dzdx+h(x,y,z)dxdyω3=f(x,y,z)dxdydz

4-形式以上はすべて 0 となります。また、2次元のときと同様 dxdydz=dydxdz 等のルールが成り立ちます。


閉曲面のときと同様に外微分を定義すると、次のようになります。

dω0=fxdx+fydy+fzdzdω1=(hygz)dydz+(fzhx)dzdx+(gxfy)dxdydω2=(fx+gy+hz)dxdydz

dω3 は4-形式より、dω3=0 となることに注意しましょう。

また、d(dω0)=0,d(dω1)=0 となります。

こちらの記事でまとめました:
tsujimotter.hatenablog.com

一般に、外微分を2回行うと必ず 0 になります。これにより「複体」を考えることができます。

参考:
tsujimotter.hatenablog.com


これらの準備の元に、「ガウスの定理」「ストークスの定理」を微分形式の言葉で書き直すことができます。実はその結果の式は、面白いことにグリーンの定理と全く同じ形をしています。

(2)Vω2=Vdω2

(3)Sω1=Sdω1

(2) が「ガウスの定理」の言い換えで、式 (3) が「ストークスの定理」の言い換えです。

以下では、これらの公式が私たちの知っている「ガウスの定理」「ストークスの定理」となっていることを確かめてみましょう。

ガウスの定理

まず、ガウスの定理を思い出しましょう。ガウスの定理は、面積分を体積分に変換する公式でした。式 (2) はまさに面積分を体積分に変換する公式になっています。

多様体 M 内に曲面 S で囲まれた領域 V(体積)があれば、S=V となります。S にうまく向きを決めると

(2再掲)VVの境界(2次元)ω22-形式=VV(3次元)dω23-形式

が成り立ちます。この式をベクトル解析でよく見かける形に変形してみましょう。

ω2 は2-形式なので

ω2=f(x,y,z)dydz+g(x,y,z)dzdx+h(x,y,z)dxdy

と表すことができます。これをベクトルの内積を用いて

ω2=(f,g,h)(dydzdzdxdxdy)

と表します。ここで、F=(f,g,h) と表すと、F(x,y,z) に対応して定まるベクトル場です。また、ベクトル (dydz,dzdx,dxdy) は、法線ベクトル n と面積素 dS を用いて ndS と表せます。

また、ω2 の外微分は、2-形式の外微分の定義より

dω2=(fx+gy+hz)dxdydz

と表せます。これは、F の発散 divF と、体積素 dV:=dxdydz を用いて

dω2=divFdV

と表すことができます。


以上より

SFndS=VdivFdV

となって、見慣れたガウスの定理の式が得られました。

なるほど、2-形式の基底 dydz,dzdx,dxdy の係数は「ベクトル場」を表していて、その外微分は「ベクトル場の発散」を表していたのですね。

ストークスの定理

次は、ストークスの定理です。ストークスの定理は線積分を面積分に変換する公式です。

多様体 M 内に曲面があるとき、その上の曲線で囲まれた領域 S 上において

(3再掲)SSの境界(1次元)ω11-形式=SS(2次元)dω12-形式

が成り立ちます。これを変形します。


1-形式 ω1ω1=fdx+gdy+hdz とすると

ω1=(f,g,h)(dxdydz)=Fdl

と表せます。ここで、dlS 上の線素ベクトルです。

また、ω1 の外微分は

dω1=(hygz)dydz+(fzhx)dzdx+(gxfy)dxdy=(hygz,fzhx,gxfy)(dydzdzdxdxdy)

ここで、ベクトル場の回転 rotF を用いると

dω1=rotFndS

と表すことができます。

最後に C=S と置き換えます。


以上より

CFdl=SrotFndS

となって、見慣れたストークスの定理の式が得られました。

ストークスの定理を習ったときは、rotF の定義に戸惑ったものですが、これはまさに1-形式の外微分を表していたというわけですね。これならば納得です。


なお、今回紹介したのはどちらも

(4)Dω=Ddω

という形の法則でしたが、これらは一般の次数の微分形式に対しても成り立ちます。このような法則を総称して ストークスの定理 と呼びます。ベクトル解析では、線積分を面積分に変換するものをストークスの定理と呼んでいましたが、これは、一般に成り立つ大きな法則の一部分だったというわけです。

微分積分学の基本定理

せっかく微分形式の説明をしてきたので、最後にもう一つだけ面白い話を紹介します。

ストークスの定理は、任意の次元の多様体で成り立ちます。1次元の多様体で考えたらどうなるでしょうか。1次元においては、0でない微分形式は0-形式と1-形式しかありませんので、0-形式 ω0 に対するストークスの定理

Dω0=Ddω0

を考えます。D としては、1次元多様体の点 A,B を結ぶ閉区間 AB を表すことにします。

この式の意味を考えましょう。D を含む座標近傍 U を考えて、座標を x とします。点 A,B はそれぞれ座標を使って x=a,x=b と表します。

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0-形式 ω0 は関数より、ω0=F(x) と表せます。また、外微分は dω0=F(x)dx と表せます。これらを代入すると

DF(x)=DF(x)dx

となりますね。あとは、この積分の意味を考えればよいでしょう。

まず、右辺は閉区間 [a,b] の線積分なので

abF(x)dx

とすればよいですね。

一方で、左辺は少し考える必要があります。D=ABAB の方向に向きが入った 1-チェインと考えて、これに境界作用素 を適用すると

D=BA

となり、0-チェインとなります。BA に対する積分を自然に

BAω0:=Bω0Aω0

として定義すると、左辺の積分は

Bω0Aω0

となります。点 A,B における 0-形式(関数)の積分は、その点の関数値になりますから、左辺の積分は

F(b)F(a)

とできます。

よって

F(b)F(a)=abF(x)dx

が得られました。

この式は「F(x) の定積分は、積分区間の両端における関数値の差 F(b)F(a) に一致する」ということを表しています。これはまさに微分積分学の基本定理そのものですね!

つまり、1次元のストークスの定理は、微分積分学の基本定理を表していたというわけです。面白いですね。

まとめ

長い記事でしたので、今日お話したことをまとめておきましょう。

微分形式には一般化されたストークスの定理という法則があって、これは

Dω=Ddω

という形の式でかけるのでした。

ベクトル解析や電磁気学で習った「グリーンの定理」「ガウスの定理」「ストークスの定理」、さらには「微分積分学の基本定理」までもが、ストークスの定理によって表すことができたのです。以下のようにまとめることができます。

多様体の次元微分形式定理
10-形式微分積分学の基本定理
21-形式グリーンの定理
32-形式ガウスの定理
31-形式ストークスの定理

ストークスの定理を微分形式を用いて一般化する利点は、単に法則が統一的にかけるというだけではありません。微分形式によって記述することで、座標系によらないために、ユークリッド空間に限らず一般の可微分多様体においても成り立つ法則となるのです。元々の定理は「平らなユークリッド空間」に限定された法則だったわけですが、微分形式を使って書き直したことで「一般の曲がった空間」へと拡張できてしまったのです。これはすごいことだと思います。


最後に、ストークスの定理を少し違った視点から見てみましょう。

k-形式 η に対して、もしη=dω となるような (k1)-形式 ω が存在すれば、ストークスの定理の左辺と右辺を入れ替えて

Dη=Dω

とできます。左辺は k-形式で、右辺は (k1)-形式となっており、次数を落とした微分形式によって積分を計算することができる、という式であると解釈できます。

このように考えると、η=dω となるような (k1)-形式 ω が存在するかどうか という問題が気になってきます。この問題により、ド・ラームコホモロジーという概念が自然に導入されます。

η=dω が存在するような微分形式 η完全形式といいます。一方で、dη=0 を満たす微分形式 η を閉形式といいます。ド・ラームコホモロジーは、閉形式の中で完全形式がどの程度存在するのかをあらわす群のことでした。

このように、ストークスの定理は微分形式の本質的な性質に深く結びついているようです。


それでは、今日はこの辺で。

参考文献

本記事は、以下の文献を参考にしています。

コホモロジー

コホモロジー